第88話 てんもうかいかい! 

 

 使い魔2体を展開してみる。

 まずはリードを北側に、ベルを南側へと派遣した。

 リードとベルからの情報は同時に私の意識に入ってくるけど、混乱するようなことは無くそれぞれの映像と音が認識できるんだ。

 不思議な感覚だけど、慣れればなんてことは無い、と思う。


 「んで、今2匹は飛んでんのか?」

 「はい。速度はそれ程出せないんですけど、列車よりは速いです。」

 「その、様子って今見えてるの?」

 「うん。」

 「3元中継か。凄いもんだな。」


 《マスター、どこまで行けばいいの?》

 (もうちょっと先まで行こうか。)

 《ウチも?》

 (そうだね。二人とも私がストップっていうまで行ってみて。)

 《はーい。》

 《わかったよ。》


 拠点からそれぞれ30Km程離れた場所で止めてみた。

 さて、ここからは未知の領域だ。

 リードとベルそれぞれに分身体を3体ずつ発生させる。


 (二人とも、分身を3方向へ散らしてみてくれる?)

 《どっち方向に?》

 (あなた達から見て12時、4時、8時方向が良いかな。)

 《オッケー。》

 (でね、分身体は5km地点でストップね。)


 リードとベル、その分身体6体、計8個の目と耳が同時展開された。

 流石に視界が8個同時となると、処理がキツいかなぁ。


 「なんかぼーっとしてるけど、大丈夫?」

 「は?え?あ、うーん、ちょっとだいじょばない、かも……」

 「今は8か所、ディーナ本人を加えると9か所を同時に、か。脳が付いてこれるのか?」

 「ディーナ、アタマダイジョブか?」

 「ウリエル様、その聞き方はちょっと……」

 「え、えーっと、ちょっと厳しいかも、です。」


 8個のうちどれかを選択して見る、という事じゃない。

 自分を含めると9か所の景色が同時に頭に入ってくるんだもの、ちょっと処理が難しい。

 きちんと把握しないといけないのに、散漫になっちゃうんだ。

 少しずつ、頭が痛くなってきている気がする。


 (ちょっと厳しいかなぁ……)

 《マスター、あのね。》

 (どうしたのベル?)

 《何も全部マスターが見る必要はないんじゃないかなーって。》

 (え?)

 《そうね。分身体の情報は本体のアタシたちが統括すれば、マスターの負担は減るんじゃないかなーって。》

 (それって……)

 《ウチとリードは5体まで同期できるけど、分身体それぞれが独立してるからさ。》

 《必要な情報だけアタシたちが受けて、必要な時にその分身体に接続すれば良いんじゃないかな?》

 (なるほど、そういう手もあったかー)


 全てをつぶさに精査するのが理想だけど、それだと他の事に手が回らなくなる可能性も出てきた。

 見る場所を選択式にすれば確かに負荷は減るかも。

 あるいは同時表示でもそれぞれを個別の画像みたいにしてモニターするのもアリかも。


 (とりあえず、その方法をやってみよう。行ける?)

 《はーい。》

 《オッケー。》


 と、意識が3つに収まった。

 リードとベルの目と耳だけなら全然問題ないな、やっぱり。

 と同時に

 頭の隅で、それぞれを個別の画面にしてみる。

 何と言うか、動く紙芝居みたいなのが脳内にできた。

 これなら8体同時も行けるかもしれない。

 けど、それは落ち着いている時に限るかな。


 「ちょ、ディーナ?」

 「え?ああ、だいぶ楽になったよ。」

 「はい?」

 「あー、後で説明するね。」

 「なぁ、ルナ。これって実は凄い事なんじゃねぇか?」

 「ああ、もう破格の能力だな……」


 ひとまず一旦二人を引き返させて一息つく事にした。

 最初の8体同時の負荷が大きいのか、ちょっと頭痛がするので一休みする為だ。

 でもこれで、警戒行動の範囲と即応性が飛躍的に向上した、よね?


 シャルルが夕飯を作ってくれたのでまずは食事としよう!


 「うわぉ、美味しそう……」

 「久しぶりにガッツリ肉メインにしてみたよ。」

 「シャルルの肉料理美味しいもんねー。いただきま~す!」


 美味しい!

 私もシャルルも、ヒバリお姉様には敵わないけど料理には自信があったりするんだ。

 特にシャルルはお肉料理を極めるんだ!とか言って肉料理はかなり研究してた。

 で、この料理はそんなシャルルの得意中の得意、ハンバーグだ。


 「これねー、ウリエル様も手伝ってくれたんだよ。」

 「ウリエル様も料理を?」

 「何言ってやがる。アタイは料理得意なんだぞ?」

 「味音痴なのにか?」

 「アホ!そりゃ微妙な味の違いがわかんねぇだけだ!」

 「しかし、お前が料理している所は見たことがないがな。」

 「うーん、実はだな、得意っつっても覚えたのは最近だ。」

 「そうなんですか?」

 「ああ、カスミに教えてもらったんだよ。」

 「へぇー、カスミお母様に。」

 「ところで、ルナ様も料理を?」

 「あ、い、いや!そ、そんな事よりも、だ!」


 どうやらそこには触れてはいけないみたいね……


 「体、というか負担は大丈夫なのか?」

 「はい。負荷をかなり減らせる方法を見つけましたので。」

 「それって?」

 「うん、私はベルとリードの情報に集中して、二人の分身体は二人がそれぞれ統括するっていう手法ね。」

 「なるほどな。報連相のラグはあるものの、気にならないレベルってことか。」

 「ホウレンソウ?」

 「報告、連絡、相談の事だな。意識が同一なら実質ラグは連絡だけだろう。」

 「なるほどなー。」

 「でも負担はかかるだろうからね、糖分も必要かなって思ってこれも作っといたよ。」

 「プリン!」

 「おおー、シャルルも凄いな。」

 「これ、アタイが作ったんだぜ!すげぇだろ?」

 「うん!あまーい!ウリエル様凄い!」

 「へへーん!」


 美味しい夕飯とお風呂でスッキリしたところで、探索を再会した。

 私が寝てても使い魔達は行動しているけど、その時はやっぱり情報は途絶える。

 緊急連絡が入ればそこでまた繋がるようになるみたいだ。

 

 「ところでさ、リードとベルってどのくらい行動できるの?」

 「えーっとね、連続は3日が限界みたい。その前に私に戻ってある程度は休憩しないといけないみたいね。」


 という事で、ベルとリードには悪いけど私は寝る事にした。

 何もなければ良いんだけど、それはそれで良くない、んだよね……


 

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