第87話 拠点リンツ

 ものの1時間程でリンツに到着した。

 マルグリットさんの実家はすぐにわかって、その庭先に降りたんだ。

 少し小高い場所で周囲は畑や森に囲まれていて、近くの小川は水も澄んでいて川魚も沢山いる。

 街からはちょっと離れているけど不便という事もない。

 ロケーションとしては最高な場所だし、なによりも


 「うわー、素敵な家……」

 「こんな家自由に使っていいのかなぁ……」

 「何というか、マルグリットの実家らしいと言えばらしい、のか?」

 「つか、こんな家が空き家ってのも勿体ねぇな。」

 「これで拠点の心配は無いな。あとは今後の行動方針だが、ひとまず中で休もう。」

 「そうですね。あ、鍵は」

 「私が預かってるよ。じゃあ、入ろうよ。」


 個人用の発電機まで備わっていてかなり良い家よね。

 しかもお風呂もおっきくてキッチンも広いらしい。

 現代的で先進的なモデルハウスっていう感じだ。


 リビングに落ち着いてコーヒーを淹れ寛ぐ。

 家具や食器、調理器具など、生活に必要な物が一式揃っている。

 なんで空き家扱いなんだろう?


 「マルグリットの両親はまだ健在でな、フラマンに移住したんだそうだ。」

 「ここはさしずめ別荘って事なんだろうな。それでいて故郷だ。」

 「こんないい所、手放したくはないでしょうしねぇ。」

 「そうよね。ちょっと家事を頑張って綺麗なまま使わせてもらいましょう。」

 「お?、お前ら炊事洗濯掃除は大丈夫なのかよ。」

 「そこは得意中の得意ですよ。何ならハウスキーパーの資格も持ってますよ?」

 「あー、そうだな。そういう所はお前達は母親達に厳しく躾られてきたものな。」

 

 ほんの少しゆっくりしたところで、今後の話だね。


 「ここを拠点として、は良いんですけど、具体的にどうしていくかですよね。」

 「まず、だ。目的はモンスター討伐と奴らの現状調査、だな。」

 「ここで私達が得た情報は直にイワセに伝達する必要がありますね。」

 「結花お姉様の話だと、今の所世界の対モンスターの中枢はイワセ、という事になっているそうです。」

 「まぁ、そうだろうな。アタイらはその遊撃隊、最前線って事だからな。」

 「でも、まずは私達が警戒行動をとる必要があります。モンスターが出てからの対応じゃ遅すぎると思います。」

 「そうだ。まずはその課題をクリアすることが必要なんだが……」

 「やっぱり私が周囲を飛行偵察するほうがベストなのかな?」

 「それも手なんだけど……あの、ちょっと試したいことが。」

 「ディーナ?」

 「さっきお母様と使い魔を通して通信した時に思ったんだけど、使い魔を有効に使えないかなぁって。」

 「まぁ、使い魔は遠くまで飛ばして見通せる能力だしな。シャルルの代わりはできるだろうが……」

 「まだ確信はないんですけど、使い魔は複数使役できるかもしれないです。」

 「そりゃあ、アルチナでもできなかったってやつじゃねぇのか?」

 「そうなんですか?」

 「ああ、一度試してみたらしいが、1体の使い魔しかダメだったらしい。」

 「まだ試してもいないんですけど、何となくできそうなんです。早速試してみようかと。」

 「というか、大丈夫なのかよ?」

 「うーん、とにかく、やってみますね。」


 精神を集中して魔力を集約し、使い魔を2体顕現させる。

 子ネコに蝙蝠の翼を付けたような赤い使い魔。

 子イヌに同じように蝙蝠の翼を付けたような黒い使い魔。


 「か、かわいいー!」

 「ど、同時に2体かよ……」

 「これは、凄いな……」

 「えーと、名前はネコのほうが“リード”、イヌのほうが”ベル”です。」

 「てか、なんでネコとイヌ?」

 「わかんない……」

 「きっとお前の潜在意識が決めたんだろう。ま、良いんじゃないか?」

 「で、この2体を使ってってことか?」

 「えーと、それがですね、」


 この子達はいわば“ホスト”というか“ハブ”だ。

 この子達を核にして、そこからまた分身体を放出するんだ。


 「最終的にはこの子達を含めて10の目と耳が増える事になります。」

 「す、すげーなお前……」

 「アルチナ顔負けだな。」

 「もっと分身体を増やすこともできますけど、この子たちと私の方が情報処理で追いつかなくなるのでこれで限界です。」

 「ねぇディーナ、この子とその分身体ってどこまで行けるの?」

 「たぶんこの大陸全土なら意志が届くはず。さすがに星全体はカバーできないなぁ。」

 「でもでも、充分じゃない?というか、アンタの魔力とか、負担は大丈夫なの?」

 「それは全然大丈夫みたいね。それほど魔力は使ってないし。」

 (というかだな。)

 「フェスタ―様?」

 (これ、魔力というよりお前の体力というか精神力を消費してるな。)

 「そうなんですか?」

 (もっとも、今のお前の体力はもうバケモノ級だから、お前にとっちゃ微々たるモンだけどな。)

 「バ、バケモノ級って……」

 (要するに、シャルルの龍形態での飛行能力と同じって事ですね。シャルルのそれも魔力よりも体力や精神力の消費のほうが多いですよ。)

 「そ、そうなんだ……」

 「なるほどなぁ。だからエネルギーの接種量が多いという事なんだろう。」

 「え?」

 「お前らが食いしん坊なのはそう言う訳ってこったな。」

 「くいしんぼ……」

 「ひ、否定できない……」


 と、ともかく。

 という事は、活動には制限があるっていう事よね。

 あまり限界まで頑張っても、あくまでそれが目的じゃない。

 発見してから討伐しないといけないんだものね。


 「ひとまずは試してみることから、だな。時間的な面も、索敵能力の面でも、な。」

 「じゃあ、早速やってみます。」

 「あ、その間私はご飯の準備しておくね。」

 「ありがとう。じゃあ、リード、ベル、行くよ!」

 《はーい!》

 《オッケー!》

 「しゃ、しゃべれんのかよ……」

 

 これで、この家が拠点になるんだ。

 あとは私とシャルルの頑張りでどこまでできるか、だよね。

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