第85話 モンスターの動向とその影響はちょっと看過できない
フラマン国首都のフランダースに着いた。
メヘレンという地区に国会議事堂があり、私達はそこまで来た。
衛門で話をすると衛士さんは
「あ、貴女方がディアマンテスの方々ですね!お待ちしておりました!」
と、手続きもせずに衛士さんは首相執務室へと私達を通してくれた。
執務室に入ると、首相が私達を出迎えてくれたんだ。
「初めまして、ディーナと申します。」
「初めまして、シャルルと申します。」
「ようこそおいで下さいました、ディーナ様、シャルル様。」
「誰かと思ったら、マルグリットじゃないか。そうか、お前が首相か。」
「あ、ルナ様!貴女様も?」
「え?ルナ様首相を知って?」
「ああ、彼女はラファールの実姉の孫だ。」
首相のマルグリットさんは、姫神子様の姉のお孫さんなんだって。
姫神子様の親族って、そう言う事だったんだ。
でも、なぜルナ様と知り合いなんだろう?
「彼女はな、一時期アインフリアンに留学していてな。たまたまラファールに話があって向かった時に知り合ったんだよ。」
「ルナ様、そ、そのお話はちょっと……」
「まぁな、お前昔から血気盛んなヤンチャだったからな。」
「そ、それって……」
「あ、あの、恥ずかしい話なのですが、腕試しと称してルナ様に挑みまして……」
「ま、それ以来会うたびに話をするようにはなったな。」
「へ、へぇー……」
「そう言えばルナ様って、しょっちゅうあちこち行ってたもんね。」
マルグリットさんはルナ様と親しくなった頃にフラマンに戻り、首相になったそうだ。
元々マルグリットさんの家系は政治家でもなく、マルグリットさん本人も政治に感心は無かったらしいけど、民衆から選挙への出馬を請われ出馬したところ圧倒的支持で就任しちゃったそうだ。
実は対抗馬の前首相も、密かに応援してたらしい。
つまり、選挙は形上行ったに過ぎず、悪い言い方をすれば出来レースだったみたいだ。
「しかし、何でお前が首相に?」
「結果的に、としか言えません。私自身は政治家になるつもりはありませんでしたが、あれよあれよという間に首相にまでなってました。」
「そうなのか。とはいえ、この国は良く纏まっているな。お前の政治手腕が確かなものという証左だろうな。」
「いえ、ただ無我夢中で仕事に取り組んでいるだけなのですよ。信念や思想、未来の事を考える余裕もありません。」
「へへ、そうは言ってもお前は民衆第一に考えてる政治家の鏡だろうよ。」
「ウリエル様まで!」
どうやらウリエル様とも知り合いみたいだ。
「ま、積もる話は後だ。アタイ達への依頼ってのは何だよ?」
「それなのですが……」
マルグリットさんは最近のモンスターの不可解な動向を説明してくれた。
以前、モンスターはある程度決まったルートを通ってロマリア連邦まで来ていたそうだ。
大陸東にあるコアからの侵攻ルートはほぼ決まっていて、その数もそれほど多くなかったと。
というのも、ロマリア連邦ではネリス公国やアリシア王国でうち漏らしたモンスターが稀に出現する程度だった。
普通に考えれば、西へ行くほど出現する割合は減るはずだし、実際これまではそうだった。
でも、ここ数年その数も増え、これまでのルートとは別の所から出現するようになり、さらには集団行動までするようになった。
ロマリア連邦東側で出現確認が無かったにもかかわらず、突然ロマリア連邦の西側や北側に集団で出現しては消えているという。
兵によって撃退されるモンスターが居る一方で、兵と衝突することなく存在が確認できなくなったモンスターも居るとか。
その為、現時点でのモンスターの数が特定できないんだそうだ。
そもそも兵士さんの数も少ないので、わざわざ消えたモンスターを捜索する事もできず、再び出現するモンスターが消えた個体かの確認もできないらしい。
さらには
「これまでのモンスターとは明らかに形状が異なる個体も確認されました。」
「明らかに異なる形、ですか?」
「はい。それは言ってみれば人間を模した形、獣人のような個体です。」
「人間を模した形だと?」
「そればかりか、その個体は武装していたとの報告もあります。ただ、それについては確認は取れておりませんが。」
「武装……」
「それに、変な気をまき散らしていて、その個体に近づいた兵は取り乱して自害する者も居たそうです。」
「ルナ様、これって……」
“変な気”というのは、“瘴気”で間違いないと思う。
でも、それにあてられて取り乱して自害するっていうのは、これまで聞いた話とは少し違う。
フランお母様に聞いた7烈士の話の中ではそんな事もあったみたいだけど、それはジパングの特殊部隊の人だから自害して被害が広がるのを防いだって言っていた。
それと同じなのか、あるいは……
「なるほどな。話はわかった。ディーナ、シャルル。」
「「 はい。 」」
「今回は探索と討伐、情報収集を同時にする必要がある。行けそうか。」
「やります。この前言った方法ですね。」
「私の飛行能力を駆使して、ですね。」
「ああ。かなりの長期遠征になるだろう。今から準備を進めよう。」
「はい。」
「取り合えずだ。1週間分くらいで良いだろ。アタイらはどこかに拠点を設けて、そこを中心に行動って事になるな。」
「あ、あの……」
「どうしたマルグリット?」
「拠点でしたら、ロマリア連邦のほぼ中心にある私の実家を使ってください。」
「お前の実家って、そこに住んでる人はどうするんだ。」
「あ、今は空き家になっています。ラファール叔父様の側近の方が管理していますので、こちらから連絡を入れておきますので。」
「良いのか?」
「近くに街もありますし、家も広く周囲は休畑と森なので人気はありませんから最適かと。」
「そう、だな。すまないが借りるとするか。」
ひとまずここフランダースで物資調達をする事にした。
今日は首相官邸に宿泊させてもらい、明日朝に出発だ。
そうして今はフランダースの街中を歩いている最中だ。
食料品や衣服、その他を買いつつも、私の頭の中は2つの疑問が渦巻いて消えない。
何で居たはずのモンスターが消えたように確認できなくなったんだろう?
瘴気にあたった人は本当に自害する程、そこまで正気を保てるものなんだろうか?
「ねぇディーナ、どうしたの?」
「やけに大人しいな、トイレか?」
「ち、違います。えーっと、ちょっとさっきの話で引っかかるというか、納得できないというか……」
「もしかして、確認できない個体と“瘴気”の事?」
「うん。ってか、よく分かったね。」
「私もちょっとおかしいなぁって思ってるんだよ。」
「鋭いなお前達。落ち着いてから話そうと思ってたんだがな。」
「ルナ様も?」
「ああ、とりあえずその話は帰ってからにしよう。」
「そうですね……」
調達も終わって、私達はマルグリットさんの居る官邸まで帰った。
夕食を頂き、お風呂を済ませて休んでいると、どこかへ行っていたウリエル様が戻ってきた。
「あんまり有力な情報は得られなかったな。」
「ウリエル様、情報集めしてたのですか?」
「ん?ああ、軽く、だけどな。ここに残っている兵士連中に話を聞いてたんだよ。」
「疑念は尽きないが、一番注意しなければならないのは、瘴気の事だな。」
「あ、やっぱりそうですよね。」
「恐らくだが、兵士の中に瘴気に中てられて変質している人間がいる可能性が高い。」
「やはり……」
「あのな、兵士の中には辞めて去っていった者が数名いたそうだ。そいつらに共通するのはモンスターとかち合ってから少し様子が変わったって所だな。」
「魔族やハーフの人達はある程度瘴気には免疫があるというか、悪意に飲み込まれない性質です。となると、その辞めた人って人間の人だけ、という事になりますよね。」
「その通りだよ。アタイもルナもその瘴気ってのは存在すればすぐ分かる。けど、今ここに居る兵士からそれは感じられなかったな。」
「これは少し、マルグリットだけじゃなく各国首長に知らせておくべき事だな。」
「ああ、下手すりゃそれが元で人間同士で何かやらかす可能性もあるからな、あっちの世界みたいにな。」
「それはちょっと、というか大問題ですよね……」
これまでとは違うモンスター、そしてその動向、それによる影響……
これは看過する訳には行かないよね。
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