第84話 ディナンとシャルルロアって……
カルメンを発つちょっと前。
私達の大陸、ユラシア大陸での状況の連絡がイワセから届いた。
無線での情報伝達だけど、内容はそれほど複雑じゃないので充分だ。
ちなみにイワセ側のオペレーターは結花お姉様だった。
「やっぱり大陸の東側はモンスターの出現が減っているみたいね。」
「逆に西側が増えているって事よね?」
「フラマンのモンスターの不可解な行動ってのも関係しているのかな。」
「結花お姉様、その辺の情報は無いのですか?」
『うーん、ロマリア連邦の情報って整理されてないモノも多い分、それぞれの話も辻褄があってないんだよねー。」
「辻褄が?」
「合ってない?」
『うん。とある地方じゃ大発生したって報告があるんだけど、隣接する地方じゃ一切発生してない、とか。』
「何それ?」
「同じ場所で違う状況ってこと?」
『まぁ、その辺りもあんた達に調べて欲しいんだけどね。』
「わかったわ結花お姉様、さっそく今から向かうよ。」
『気を付けてね。』
そんなやり取りの後、私達はカルメンを出発する事となった。
目的地はロマリア連邦の西端にあるフラマンという国だ。
「お母様、行ってきます。」
「ああ、気を付けてな。それと……」
「大丈夫、わかっています。」
「そうか。まぁ、どついて悪かったな、ディーナ、シャルル。」
「いいえシャヴォンヌお母様、むしろ目を覚ましていただいてありがとう。」
「ははは、コブになってなくてよかったよ。」
「ま、体裁的にちょっと言いにくいけどな、安心していてくれよ。」
「私も戦略的な視野を忘れないようにする。心配しないでくれ。」
「さすがにお前たちが言うと安心できるな。ともあれ、頼んだぞ、ルナ、ウリエル。」
「ああ。」
カルメンを後にする。
目指すフラマン国までは3時間程の飛行だ。
「ねぇシャルル、不可解な行動って具体的にどんな感じなのかなぁ?」
「うーん、わかんないけど、想像できないってくらいおかしな感じなんじゃないかな?」
「一つはアレだろう、指揮官みたいな個体の出現、それによる統率された動き、だと思う。」
「でもよ、出現したはずのモンスターが視認できなかったってのも謎だよな?」
「そういえば、封印前の事だがな、確かモンスターが隠密行動、いわゆるステルス化しているという事もあったな。」
「で、でも、ステルスって言っても視覚的に完全に見えなくなるような物じゃないんじゃ?」
「気配を消すにも、それなりの知能は必要だと思うし……」
「うーむ、いずれにしてもこの目で確認しないと何ともいえないな。」
「そう、ですね。」
そんな話をしながらも、大陸が見えてきた。
私達は大陸の端から少し入った開けた場所に降りた。
近くにはフランダースという地方があって、そこはフラマン国の首都だ。
そこまでは歩きと鉄道での移動となる。
「ここって、何か緑が多くて静かな場所よね。」
「ここはかつてベルギーと呼ばれていた場所だ。ここから南へ行くとディナン、西に行くとシャルルロアという町だった所だな。」
「お前、よく知ってんな。」
「あいつから聞いていたんだ。何でも若いころに一人で旅をした思い出の場所だったそうだ。特にディナンは思い出深い街だったそうだ。
なんでも、“サックス”という楽器の発祥の地なんだとか。」
「へー。メテオインパクト前の世界の事か。」
「ディナンとシャルルロア……」
「何か、私達の名前に似てるね……」
「そう言われればそうだな。」
「で、アタイらはこれからフランダースへ行くんだな?」
「そうですね。ナムルという所から鉄道で行くそうです。」
「じゃあとりあえずそこまで歩くか。」
「はい、行きましょう。」
降り立った場所から駅のあるナムルという街へと進む。
ここもモンスターの襲撃があったんだろうか、幾つかの集落が破壊され人の気配がない。
ナムルに近づくにつれ無事な町もあるけど、人達は疲弊しているのかあまり元気が無いようにも見える。
それに、兵士さんの姿も見えない。
川沿いの道を北上していき、ちょっとした町の飲食店で食事を摂ることにしたんだ。
「いらっしゃい。こんな所に旅人なんて珍しいね。」
「こんにちは。何か食事をと思って。」
「珍しいって?」
「ああ、ここはあまり旅人が通らない所なんだよ。ここから南は大きなクレーターがあって道が途絶えているしね。」
「そうなんですか。」
「で、食事だったね。お任せでいいかい?」
「はい。お任せで8人前でお願いします。」
「は、はち……」
「はい。」
「4人で食べきれるのか?結構な量になるけど。」
「あ、大丈夫です♪」
「そ、そうかい。よおし、腕によりをかけて作るよ。ウチのメシはこの辺じゃピカイチだよ。」
「楽しみー!」
と、運ばれてきた食事はホントに美味しかった。
ワーテルゾーイという魚のクリーム煮みたいなもの、ステーキ、ムール貝のナチュールっていう料理とフライドポテト、クロケットというコロッケ、だね、これ。
白いアスパラガスに、デザートはワッフルっていうパンケーキみたいなもの。
一緒に出されたジュネヴァという蒸留酒も、果汁と合わせたカクテルだったのでとっても美味しかった。
出されてくる傍から平らげる私達を見て、おやじさんは驚いてたな。
なんか、「負けちゃいられねぇ!」とかいって、結局10人前の料理になってた。
「勝手に出したんだ、2人前はサービスにしとくよ。」
とは言ってくれたんだけど、そうも行かないのできっちりお代は支払ったけどね。
「ねぇおやじさん、この辺りってやっぱりモンスターがよく出るの?」
「そうだなぁ、こんな辺境でも最近は出る様になったかな。南の集落はそれで壊滅しちまったしね。」
「やっぱりそうだったんですね。」
「お客さん達、見たところだいぶ軽装だけど、襲われたら大変じゃないか?」
「えーっと、大丈夫は大丈夫だと思います。」
「そうなのかい?確かに強そうな雰囲気は感じるし、君とこっちの嬢ちゃんは魔族っぽいしね。もしかしてハーフかい?」
「そうです。よく分かりますね?」
「ああ、隣町には魔族とハーフの人が多くてね。よく見かけるから自然とわかるようになったんだよ。それにこの辺を守ってくれてるしね。」
「そうなんですか。」
「国の兵士さん達は?」
「それがね、なかなかこっちまで手が回らないみたいでね。最近は南のナンシーって所に駐留しているみたいだよ。」
聞くと、ナンシーという所から東側でモンスターの出現が特に多くなってきたんだそうだ。
その為フラマン国、ピレネー国、ハンブル国の兵士さんの大多数がそこに集結しているんだそうだ。
なのでこうした地方の街は、魔族を中心とした自警団によって防衛しているのが現状なんだって。
ひとまず、その辺の詳しい話はフラマン国の首相に聞いてみようと思った。
「じゃあ、ご馳走様でした。ホントに美味しかった。」
「しかし、ホントにペロリと平らげたねぇ。見てて気持ちよかったよ。じゃあ、気を付けてな。」
「はい。」
食堂を出て駅に到着した。
ここからフラマン国の首都、フランダースまで鉄道で一直線だ。
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