第83話 お母様に叱られた!


 宿場町近くのモンスターを撃破して、ひとまず騒動は沈静化した。

 幸い被害は一部の畑を使い物にならなくなった程度で済んだ。

 済んだ、とはいえ農家の人にとっては死活問題だよね。

 そう思っていると


 「こういう時は国が補償してくれるんだと。あの王、しっかりと王の責務を果たしてんだな。」

 「ええ。でも、それだと国の予算もかなり厳しいんじゃ……」

 「だろうな。畑を一反一町とはいえ、そこで造る作物の生産量を考えるとな。それは農家だけじゃない、国の収入にも影響がでる。」

 「本当に、モンスターって厄介です。」


 そうして既に陽も暮れた中、ルーベンス王の元へと帰還したところで……


 「お、お母様!」

 「シャヴィお母様!?」


 シャヴォンヌお母様が居た。

 それにカナンさんを始めとして龍族の人たち?

 シャヴォンヌお母様は何故かちょっと怒った表情をしてる。

 私とシャルルの所まで歩み寄ってきたと思ったら


 ゴツン!


 と、私とシャルルの頭にゲンコツを喰らわした。


 「痛い!」

 「お母様!痛いです!」

 「もう!お前達は!」


 やっぱり何か怒っているみたいだ。

 シャヴォンヌお母様のゲンコツはとっても痛いんだよ……


 「どうしてそう自分達だけで全てを抱え込もうとするんだ!」

 「「 え? 」」

 「お前達だけで全世界のモンスターを同時に対処などできないのは判っていた事だろう!なぜ私達や兄妹を頼ろうとしないんだ!」

 「で、でも、お母様……」

 「シャヴォンヌお母様?」

 「お前たちの気持ちはわかる。だがな、抱え込んだ所で限界だってできない事だってあるだろう。」

 「……」

 「仲間を、家族を頼って負担をかける事に迷いがあるのはわかる、でもな、頼る事を厭うな、悪いと思うな。お前たちが成そうとしている事はそれだけ大きなことなんだぞ。」

 「は、はい……」

 「ごめんなさい……」

 「ふう、まったく。ルナもウリエルも、お前たちが付いていながらどうしてなんだ。」

 「あー、す、すまない。」

 「うむ、面目ない、な。」

 「まぁ、仕方がないといえば仕方がないんだが。個人的な話だがお前達を心配する身にもなってくれ。」

 「……はい。」


 要するにお母様は、他者へ頼ろうとしない私達にヤキモキしていたんだと思う。

 自分たちだけで何とかしようと、それに固執しすぎている私達に諫言しに来たのかも知れない。

 でも、私達は、私達意外の他の人に辛い危険な事をして欲しくはないって思いは変わらない。

 この世界で、幸せに暮らす全ての人達を守りたいだけ、なんだ。

 

 でも。

 そうは言っても各国の対モンスターに従事する兵士さん達だって、思いは同じという事も理解していた。

 そうして亡くなった人が居る事も。

 確かに、私達は拘り過ぎていたのかもしれない、かな。

 お母様達も、兄弟姉妹のみんなも、想いは同じ、なのにね……


 ひとしきり叱られた後、シャヴォンヌお母様は私とシャルルを抱きしめた。


 「いいかお前達、トキワからも聞いたと思うが想いはみんな同じなんだ。仲間が居るんだ。その有難さ、大切さは向うで学んだんだろう?」

 「お母様……」

 「シャヴォンヌお母様。」

 「仲間を信じて頼れ、家族を頼れ、タカヒロもそうして頑張ってきたんだぞ。」

 「「 はい。 」」


 仲間、家族……

 そう言えば、私自身も事ある毎に「我が家族の役目」って言っていた。

 どうも視野狭窄になっていたみたいだ。

 自分たちだけで何とかしようなんて、目線を変えてみれば傲慢だったのかも知れない。


 現に、たった今どうしようかと困っていたんだし。

 お母様達は、そんな私達を見て諫めてくれたんだ。

 やっぱり、仲間や家族って大切なんだと実感した。

 ありがとう、シャヴォンヌお母様。


 「てことで、ですよシャルル様、ディーナ様!」

 「カナンさん?」

 「シャヴォンヌ様を隊長として、私達龍族戦士がこの地に駐留します。」

 「お母様?」

 「ああ、ここのコアの現状は聞いた。その対処は私達が受け持つ事になったんだ。」

 「え、で、でも……」

 「実はな、ロマリア西方で異変が確認されたとの報告があってな。お前達にはそこに向かってもらいたいんだ。」

 「い、異変、ですか?」

 「それってどんな?」

 「それがよく分からんのだ。ただ、ロマリア大統領経由でイワセに依頼が来てな。フラマン国へ向かってほしい、とな。」

 「フラマンって、ロマリアの西端ですよね。」

 「ああ、そこの首相は姫神子の親族らしくてな、ラファールからもお願いされたんだよ。」

 「姫神子様の?」

 「姫神子様って独身なんじゃ?」

 「あー、その辺はよく分からんがな。とにかくその要請を受理したんだよ。ただ……」

 「??」

 「モンスターの脅威が大きいのは確かなんだが、そのモンスターの行動が不可解なんだそうだ。」

 「それってもしかして、統率された軍隊のような行動、とか?」

 「やはりそれを知っていたか。しかしそれだけではないらしいんだ。それを調べて欲しいというのが依頼の内容なんだよ。」

 「……わかりました、お母様。早速向かいます。」

 「まぁ、ひとまず休んでからで良いがな。」

 「シャルル様達も討伐から帰ってきた所なんですよね?」

 「はい、そうです。」

 「明日一番で向かえばいい。今夜は休んでおくことだ。」

 「はい。」


 カルメン周辺のモンスター対処は、シャヴォンヌお母様達が請け負ってくれるという事になった。

 私達はこのままフラマン国へと向かう事になったんだ。

 

 「ところでお母様、イワセ周辺の防衛ってどうしたんですか?」

 「それがだな、イワセやラディアンス、からエスト、ネリスあたりはここ数日現状モンスターの出現が減っているんだよ。」

 「減っている?」

 「まぁ、そうでなくてもサクラやリサ、それにスペリアとハーグが待機しているからな、充分対応はできると思う。」

 「……減っている……」

 「シャルル、どうした?」

 「いえ、あの、ここのコアを見た限りだと、出現が減っているっていうのは不自然な気がする……」

 「そうなのか?」

 「シャヴィお母様、コアの封印は間違いなく弱まっている様子なんです。こちらには報告しましたけど」

 「ああ、その報告は聞いたが……」

 「これは少し、警戒が必要かも知れません。」


 あまりにも不可解な事象だと思う。

 それとフラマンでの不可解な行動とは、何か関係があるんだろうか……



 ―――――



 フラマンの北にあるとある荒野に、その3人は居た。


 「なあ、じいちゃん」

 「終わったかお前達。」

 「終わったけど、何か変じゃねぇ?」

 「お前にも解るか。」

 「オレには解んないけど、何?」

 「あのな、全然俺達の相手じゃないけどさ、それが分かってて俺らに向かってきてるような気がしたんだ。」

 「そういや、やけくそ気味に突っかかってきた個体もいたなぁ。」

 「それによ、2体ほど遠くで眺めてた奴がいた。終わる前に逃げてったけどな。」

 「あ、オレもそれは気付いてたよ。逃げてったのも。」

 「もしかするとそ奴らは指揮官みたいな奴かもしれんな。いずれにしてもお前達の相手ではないがな。」


 老人と子供の二人はモンスターを殲滅して一息ついた。

 この地のモンスター出現頻度は日増しに高まっているが、人間の住む所まで行く前に3人はある程度減らしている。

 それでも、人間の住む国々では脅威が増えている事に変わりはない。

 そんな3人の前に、アズライールは出現した。

 

 「相変わらずだなお前。子供にやらせて自分は高みの見物か?」

 「何しに来たんだお前は。ヒマなのか?ならケンカの相手してやるぞ?」

 「あ、アズラさん、久しぶり!」

 「元気してたー?」

 「ああ、二人とも相変わらず元気だな。こいつにこき使われて大変だろう?」

 「ああ、大変だぜ!」

 「じいちゃん人使い荒いもんな!」

 「やかましいわバカ者。で、何の用だ。」

 「いや、お前が言う通り少しヒマなんだよ。だからお前を揶揄いに来たんだ。」

 「まったく、かわらんなお前も。あの方の一部を授けられたってのにまだそんな感じかよ。」

 「まぁそう言うな。彼は一部が私に宿っているだけに過ぎんのだ。というか、一部といっても欠片も欠片、鼻クソ程度だぞ?」

 「お前、あの方を鼻クソだなどと!」

 「鼻クソがダメならヨダレでもよい。」

 「このバカ者が!なんて無礼な輩なんだ!以前のお淑やかな毒舌アズラは何処に行ってしまったんじゃ!」

 「お?純粋な悪魔のお前に無礼な輩だなんて言われるとは!」


 「……やっぱりあの二人仲いいな。」

 「じいちゃん、アズラさんと居ると生き生きしてるもんな。」


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