かくれんぼ 7
「失礼します」
まず入ってきたのはかなり大きな男の人だった。いかにも柔道やってました、な太い首、ずんぐりとした体型に顔までいかつい。確かに、そのへんの人間だったら睨まれただけで何もしていなくても「ごめんなさい」と謝ってしまいそうだ。
その後ろに青い影がちらりと見えた。一瞬、心臓が跳ねる。
あの服だ、記憶の片隅に残るチェック。なんだろう、服の印象だけ残って顔が浮かばない。
大きな影からごく普通の身長のまだ若い男が姿を現した。
「入って」
大きな職員に
「はい」
聞いてもこの声だったかと思い出せない、これもまた印象に残らない声がそう返事をして室内に入る。
「あの、こうたりです」
そう言って印象の残らない様子で頭を軽く下げた。
「ええと、こうたり君? 主席だった?」
「あ、はあ、まあ一応そうです」
褒められたと思ったのか照れているようだ。
「こうたり」と呼ばれたその若い男が私を見て、ぱあっと顔を輝かせた。その様子を見て、しらかわ女史も観念したようだ。彼で間違いない、と。
「あの、こうたり君、ちょっとそこに座ってくれるかな」
「はい」
「こうたり」は私とありさが座っている正面の、一人がけのソファに腰をかけた。
「えっと、こうたり君、このお二人に見覚えあるかしら」
女子が最後の頼みの綱、という風に「こうたり」に声をかける。知らないと言ってくれ、そんな響きが混じっている。
「ええ、もちろん」
残念ながら「こうたり」は満面の笑みでそう答える。
「そ、そう、知っているの。あの、それはどうして?」
「え、どうしてって」
「こうたり」は不思議そうに女史を見ると、
「自分の恋人を知らないなんていう人間いますか?」
そう言い切った。
「こ、恋人? お付き合いしているの?」
「はい」
「嘘よ!」
私は思わずそう言って立ち上がっていた。
「会ったことも見たこともないのになんでそんな嘘つくの!?」
動悸がする。血の気が引く。このままでは倒れてしまいそうだ。
「ちょ、ちょっと落ち着いて、落ち着いて話をしましょう、ね? 一度座って」
「はい……」
言われて、ありさに支えられるようにして、もう一度座り直す。
「あの、こうたり君?」
「はい」
「あなたはお付き合いしていると言うけど、彼女は知らないって」
「嫌だなあ、照れてるんですよ」
「こうたり」は邪気のない満面の笑みでそう言う。
「いきなりこんなところで公表するなんて、配慮が足りなかったね、ごめんごめん」
「嘘よ!」
もう一度大きく否定する。
「あなたなんて会ったことも見たこともない! なんでそんな嘘つくの!」
しらかわ女史はどちらが本当か伺うように2人を見ている。
※「小説家になろう・夏のホラー2021」に参加するために書きました。投稿日は2021年8月26日です。
「ホラー」として他の話を考えて書き始めたものの、途中で「かくれんぼ」というテーマがあるのを知り、慌ててて書き直したのでほぼホラーにもなっていないという情けない作品ですが、締切ぎりぎりに思いついて書き始めて無理やり結末まで持っていった自分をほめてもいる作品です(笑)
元のタイトル「かくれんぼ ~いても見えない誰かがいる~」全20話の第7話になります。
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