かくれんぼ  6

「え?」

「この青に少し赤っぽい線が入ったチェックの服。なんか年寄っぽいと思って記憶に残ってました」

「うん、確かに」


 本人よりも、特にこれといった目立つ特徴もない服の方が記憶に残る、そんなおかしなことがと思われるかも知れないが、私もその方が確かに記憶に残っている。


「服が……」


 女史はまだ疑わしそうに見ていたが。


「ちょっと待ってね」


 そう言ってまた他の書類をガサガサと急いで繰った。


「ちょうど今来ているわね」

「誰がですか!」

「いえ、この学生」


 それはそうだろう。私にあの小箱を押し付けられたのだから、学校に来ていても不思議ではない。むしろそれを証明されたような気がしてホッとした。


「あまりこんなことは話すべきではないんでしょうが、彼、とても優秀で、それである学外との交流イベントのリーダーにとの話があってね、それで来てもらっているの。学生センターにいるわね。少し聞いてみます」


 携帯でどこかに連絡を取る。


「ええ、ええ、はい、はいそうです。そうですか。はい、では、はい、すぐにお願いします。すみません」


 携帯を切ると、


「今からここに来てもらいます」

「ええっ!」

「あの……」

「来て、あなた方を見た反応を見たいので、そこにいてね」

「ここにですか!」

「あの、会わないといけませんか?」


 女史の眼鏡の黒縁がまたキラリと光る。


「あのね」


 私たちに言い聞かせるように続ける。


「あなたたちの言ってることが本当かどうかそれも私は確かめないといけないの、分かりますか?」

「は、はい」

「分かります」

「一方的に片方の意見だけを聞くわけにはいかないでしょう? だからそうさせてもらうわね。大丈夫、他に男の職員も一緒に来てくださいますから」


 そう言っておいて、


「柔道黒帯よ?」


 いたずらっぽく片目をつぶってみせた。


 驚いた。四角四面規則に忠実なだけに見えたしらかわ女史に、こんな一面があるなんて。


「だからまあ、そんなに心配することはないわ。もしも本当だったら厳重に注意しますから」

「お願いします!」

「よろしくおねがいします!」


 ありさと2人で頭を下げる。


 よかった。もしかしたらもう今日中に片がつくかも知れない。もう一度あの人に会うのは怖いが、何しろトップ合格するほどの優等生だ、そんなことで注意されるなんてプライドが許さないだろう。これでやめてくれるかも知れない。エリートとはそういうものだと思う。


 10分ほどすると部屋のドアがノックされた。


「やまねです」

 

 低い太い男性の声だった。これがさっきしらかわ女史が言っていた黒帯の職員さんなのだろう。


「どうぞ」

 

 女史の声を待って扉がガチャリと開いた。




※「小説家になろう・夏のホラー2021」に参加するために書きました。投稿日は2021年8月26日です。


「ホラー」として他の話を考えて書き始めたものの、途中で「かくれんぼ」というテーマがあるのを知り、慌ててて書き直したのでほぼホラーにもなっていないという情けない作品ですが、締切ぎりぎりに思いついて書き始めて無理やり結末まで持っていった自分をほめてもいる作品です(笑)

元のタイトル「かくれんぼ ~いても見えない誰かがいる~」全20話の第6話になります。

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