第85話 余計に惚れそうになったってだけです
激辛仮面2号、とやらは扉の前にいた。
美しい金髪を持った美少女だった。ヘンテコな仮面をつけているせいである程度台無しであるが、それでもなお美しさが漂っていた。
そいつは……刀を一本背負っていた。アレスからすれば見慣れた刀だった。
「ひ、ひとつ!」なんか語り始めた激辛仮面だった。「辛いのは料理だけで十分……!」
なにを言ってんだこいつ。口上とかしなくていいから。決め台詞まで真似しなくていいから。
「ふ……ふたつ……」まだ続くのかよ……「人生は甘くて良し……!」
「……なんだあれは……」国王が呆れていた。「……育て方を間違えたかな……」
どこぞの激辛大好きな味覚の狂った女に影響を受けただけである。
ともあれ激辛仮面2号は続ける。
「よ……よっつ!」みっつはどこに行った。「僕の親友を傷つけるやつは、誰であろうと許さない……!」
……
ミラ……
「むっつ!」
「早く来てくんない……?」
「あ、すいません……」
「いや……謝ることじゃない。ナイスタイミングだぜ」それから付け加えておく。「……照れるならやるな。こっちまで恥ずかしくなる……」
「……すいません……」
仮面で顔を隠していてもわかる。激辛仮面2号は耳まで真っ赤だった。たぶんテルの口上を真似したは良いが、思ったより恥ずかしかったのだろう。
それでも最後まで言いきったことは評価するけれど。アレスなら途中でやめていたけれど。
ともあれ激辛仮面2号……ミラはアレスのところまで近づいて、
「こちらをお届けに参りました」ミラは背負っていた刀をアレスに渡して、「もとはといえば……僕のボディガードとして働いてくれたから失くした刀ですからね。僕が取り返してくるのがスジってものかと」
アレスは刀を受け取る。
いつもの刀だった。しばらく触れていなくても、それが自分の愛刀だとすぐにわかった。
妖刀
「……ありがとう。助かった」アレスは
「いえいえ」ミラは背後にいるバケモノを見つめて、「それで……これはなんですか? 国王様のペットですか?」
「んなわけないだろ」どんなペットだよ。「……サヴォンだよ。国王が暴走させてる」
「……団長ですか……? これが……?」ミラはバケモノを見上げて、「なるほど……変装するならこれくらい気合を入れろってことですか」
「そうじゃなくてだな……」
なんでこんなに話が噛み合わないんだよ。激辛仮面になるとIQが下がるのか? 呪いの装備なのか?
アレスは触手を避けてから、
「というかミラ……なんでそんな仮面をつけてんだ? 普通に登場すればよかっただろ……」
「……ちょっとやってみたくて……」じゃあしょうがない。「ニーニャさんにお願いして仮面を作ってもらってたんです」
「……来る前に受け取ってたのは仮面かよ……」
なんて役に立たないものを……どうしてそんな無意味なことを……
まぁとにかくミラが現れてくれて助かった。刀さえあれば、まだ勝機がある。
しかしまだ疑問はある。
「ミラ……お前さんの目的のほうはどうした?」
「……とりあえず国王様には会いましたよ。それが僕がサフィールさんの妻として王族になることの了承も得ました」
「じゃあ目標達成か?」
「……殴ろうとしたらカウンターを受けたこと以外は、ですね」ミラにカウンターを打ち込めるレベルに強いのか……「……顔面殴られました。仮面を作ってきてよかった……」
なるほど……顔の傷を隠すために仮面をつけていたのか。それはかなり役に立ったな。
ミラは続ける。
「交渉はしました。マッチポンプはしてもいいですが、国民に被害は与えないように。そう約束しましたよ」
「よく受け入れられたな」
「僕の能力を貸すことが条件ですけどね」
「マッチポンプでの人気取りよりも、ミラがいたほうが効果的って思ったわけだ」
「そういうことです」
ミラの能力のほうが魅力的だった。
さてミラは威圧感のある笑顔で国王に迫る。
「さて国王様……国民に被害を与えない、という約束でしたよね? なぜアレスさんを襲ってるんですか?」
「襲うつもりはなかったんだよ。暴走しちゃっただけ」
「しょうもない詭弁ですね……」ミラがそこまで言うなら相当だ。「止める方法は?」
「ないよ。殺す以外は」
「……教えるつもりはなさそうですね……」
本当は止める方法があるのだろう。そうじゃないと国王だって殺されてしまうのだから。
しかしその方法は国王しか知らない。だからアレスたちからすれば殺す以外に存在しない。
ミラは深く息を吐いて、
「……致し方ありませんね。サヴォン団長という戦力を失うのは痛いですが……」ミラはアレスに向き直って、「お願いいたします。サヴォン団長を……眠らせてあげてください」
「……いいのか……?」
「はい。団長だって……こんな姿になってまで最強を証明したいとは思わないでしょうから」
それはそうかもしれない。
サヴォン団長は、人のままアレスと戦いたいと言っていた。その願いは叶わなかったが……ならばせめてこの時点で眠らせてやるのが救いかもしれない。
その理屈はわかる。だが……
「なぁ……ミラ」
「なんでしょう」
「ちょっと……あがいてみてもいいか?」青臭いことを言っているのは承知の上だ。「無謀なことかもしれないが……俺は、サヴォンを殺したくない」
アレスが言うと、ミラは首を傾げて、
「……少し意外です。アレスさんがそのようなことを言うとは」
「ダメか?」
「いえ。余計に惚れそうになったってだけです」そんなことをシレッと言うな……「いいでしょう。僕だって団長には生きていてほしいですから」
「ありがとう」
「僕もお手伝いしたいところですが……足手まといになりそうですね。大人しく遠巻きに見学しておきます」
「ああ。そっちもケガのないようにな」
理性を失ったサヴォンがミラを攻撃してしまうこともあるかもしれない。
さて……またサヴォン団長との戦いだ。見かけは異形の怪物になってしまったが、中身はサヴォン。
……
ライバルってのは……何度戦っても気分が高揚してくるもんなんだな。
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