第82話 主人公
その人物はいつの間にか舞踏会場の中にいた。自分たちの他に人間などいないと思っていたアレスは、少し驚いてしまった。
しかもその場所に現れたのは……
「……国王様……?」サヴォンが言う。「なぜ、こんなところに……?」
そう。舞踏会場に現れたのはこの国の国王だった。ミラの父親であり、国の安定のためなら何でもする男だった。
国王はいつも通り悠々と、朗々とした歩調で歩く。口元には普段と変わらない笑顔があった。
「最強決定戦を見学してたんだよ。いやぁ……すごい勝負だったね。年甲斐もなく興奮してしまったよ」
見学……つまり途中からこの部屋の中にいたということだ。まったく気配を感じなかった。
……そういえばミラが国王を探し回っているはずだが、どうやらミラより国王のほうが一枚上手らしいな。
しかし……なぜ国王なこんな場所に現れたんだ……? ここに国王がいるメリットとは……
「アレスくん」国王は言う。この人の笑顔は威圧感がある。「国王としての人気を保ち続ける方法……それがなんだかわかる?」
どこかで聞いた質問だった。当時のアレスには見当もつかない質問だったが……
「……自分より人気がある人間を消す、ってことだろ?」
そうすれば自分がいつまでも最高の人気を持つ人間になれる。
「そうだよ大正解。でも100点はあげられない」別にほしくないが。「私が常々やっていることは3つだよ。自分より人気がある人間を消す。そして自分でピンチを演出して、自分で助けるマッチポンプ」
獣人事件やらドラゴン事件を起こして自分の作った組織で解決する。それが国王のマッチポンプ。
国王は続ける。
「そしてもう1つは……自分が持っている最強のコマよりも強いコマの存在を消す、ってこと」
国王が持っている最強のコマ……それはサヴォン団長だろう。
つまり……
「俺を消すってことか?」笑い飛ばしてやろう。「なかなかジョークがうまいな。俺がそう簡単に消されるとでも?」
「キミを消すのはたしかに骨が折れるだろう。でも……キミみたいな強者に生きていてもらったら困るんだよ」国王は笑顔のまま、「掃き溜めの街で育って、街を守り続けてる。その子はとても強くて、人類最強の聖騎士にも勝ってしまった。しかも元王子の初恋の相手でもあって……おまけにイケメンときてる」
「褒めても何も出ないぞ?」
国王はアレスの軽口を無視して、
「そんな人間を、なんて呼ぶか知ってる?」
「……? いけ好かないやつ」
「それも正解だけれどね」自覚しているから文句はいわない。「模範解答はね……主人公だよ」
「主人公……?」
「そう。もしもこの世界の、物語の主人公がいるとするなら……それは間違いなくキミだろう」
「……誰もが自分の人生の主人公みたいなもんだろ」
「キミは相変わらずロマンチストだなぁ……」
……
この人は……いったいなにが言いたいのだろう……? そんな話をするために、わざわざこんなところに来たのか?
国王は続ける。
「主人公は必ず成し遂げる。どんな困難も乗り越えて目的を達成する。そしてその意志は受け継がれるんだよ。キミの強さを継いだ次の主人公がどこかに現れる。そんな主人公……私にとっては邪魔でしかない」
……国王よりも人気が出そうな人間の出現のことを言っているのだろう。
なんにせよ……
「まどろっこしいな……要するに俺が邪魔だから消すって話だろ?」
「そうだね。要約すると、そういうこと」国王は一層優しく微笑んで、「たまには悪人が勝つ物語があってもいいんじゃないかな?」
「俺が勝つってことだな」アレスは正義の味方ではない。「んで……どうやって俺を倒すんだ? まさかアンタが戦うつもりか?」
「20年前だったらそうしたよ。でも……最近は体が思うように動かなくてね。だから……切り札を使う」
「切り札……? それは――」
それはなんだ、と聞こうとした瞬間だった。
「な……!」後ろで話を聞いていたサヴォンが苦しみ始めた。「なんだ……これは……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。