第80話 ほんとにそうか?
切り合いながら、2人は会話を続ける。
「私は強くなりたかった。強くなって強者と戦いたかった」
「その方法がサイボーグになることだったわけだ」
「失望するか? 自分の力で強くなることを捨てた私を」
「それも含めてアンタの強さだろ」他人からもらったとしても自分の力だ。「アンタが選択した道だろ。胸を張れよ」
「そうだな……」
サヴォンは少し変則的に剣をふるいながら、続ける。
「サイボーグ化の条件は1つだ。国王の人気が落ちれば、私自身が大罪人になり討伐されること」
……なんとなく予想はしていたが……
サヴォンはさらに続ける。おそらく……誰かに吐露したかった気持ちなのだろう。
「私は国家転覆を企む犯罪者だった。そしてその犯罪者を討伐した者は、新たな英雄として名を馳せることになる。その筋書きを受け入れることがサイボーグ手術の条件だった」
「受け入れたのか? どうして?」
「強くなりたかったからだ……!」サヴォンはアレスを蹴り飛ばして、「しかし人間の体では限界がある。だから機械の力を求めた……!」
……殺されることを運命として受け入れる。その代わりに人類最強の称号を手に入れる。
それはきっとサヴォンにとっては命よりも大切な事柄だった。
サヴォンは攻撃の手を緩めずに、
「私が手に入れた力……その全力をぶつける相手が欲しかった。逆賊として殺される前に、力を試したかったんだ……!」
「……だから時間がないって言ってたのか……」国王の人気が落ちれば殺されるのだから、もうすぐなのだろう。「で……どうだ? その力を試せた気分は?」
「最高の気分だ。キミとこうやって戦っていると、久しく忘れていた高揚感を思い出せる!」
最高の気分、ね。
「ほんとにそうか?」
アレスが言った瞬間、サヴォンの剣筋が少しだけ乱れた。その隙をつくことはできたが、やらなかった。なんだか野暮な気がした。
「……何が言いたい……?」
「アンタ……全然楽しそうじゃねぇけど」
むしろ苦しそうだった。今までのサヴォンとは別人のようだった。強者と戦うのが楽しい、というサヴォンの本来の顔が見えなくなっていた。
そんな状況のサヴォンに勝つことに意味はない。アレスは最強の状態のサヴォンと戦いに来たのだ。
「もっと素直になれよ。告白は受け入れてねぇけど、アンタが苦悩を吐き出せるのって、俺だけだと思うぜ」
強さだとか器だとか、そんな話じゃない。
今のこの場で、他に誰もいない場所だから言えること。
「……大した慧眼だ……」サヴォンは歯ぎしりをして、力任せに剣を振るう。「ああそうさ……! 最悪の気分だよ!」
ようやく本心が見えた。
「最悪の気分? なんでだ?」
「キミは……!」サヴォンは大ぶりの攻撃を繰り返しながら、「キミは人間の身でありながら私の領域にいる。私と違ってキミには未来がある! 機械の力などに頼らずともその領域にいるキミが……妬ましくてたまらない!」
「……そうか……」
ずっと感じていたことだった。
サヴォンはアレスに憧れていた。妬んでいた。
アレスはサヴォンに憧れていた。妬んでいた。
お互いがお互いに無いものを持っていた。だから憧れた。だから妬ましかった。
「私は……!」鍔迫り合いの最中に、歯ぎしりの音が聞こえた。「私が機械の力を借りて、くだらない策略に乗せられてまで手に入れた力。その力をキミは上回っている。ただの人間として、その力を得ているんだ……!」
「……」
「わかっているさ! すべて自業自得だ! 私は機械の力を手に入れる前に、もっと鍛錬を積むべきだった。機械の力などに頼らなくても、自分の力だけでその領域に行き着けばよかった! キミのように……!」
さっきも言ったが、他人の力を借りるのは悪いことじゃない。機械の力だって自分の力だとアレスは思っている。
だけれどサヴォンはそう思わないのだろう。人間の力の限界を悟り機械の力を借り、その結果として権力の犬に成り下がった自分が許せないのだろう。
「人の身のまま、キミと戦いたかった……! それだけが後悔だ……!」それからサヴォンは苦しそうな笑顔を作って、「キミがもう少し、早く生まれていればな……」
「……俺とアンタの生まれる順番が違ったら……俺がアンタになってたかもな」
アレスが騎士団の団長で、サヴォンが無冠の帝王になっていた。そんな未来もあったかもしれない。
アレスはサヴォンを蹴り飛ばして、
「じゃあどうする? 悔やんでも過去は変わらねぇぞ」
「わかっているさ……私に残されたのは最強というプライドだけだ。だから……」サヴォンは胸に手を当てて、「今まで後悔した過去も含めて、私の力のすべてを持ってキミを倒す。その後のことは……勝ってから考えるよ」
「そうだな……俺も後のことは、勝ってから考えることにするよ」
サヴォンVSアレス。
いよいよ決着だ。
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