第79話 人間の定義になんて
周囲は静まり返っていた。普段は舞踏会場として使われている広い部屋が、本来はありえないほどの冷たい空気を放っていた。
2人の足音だけが響いた。アレスとサヴォンはお互いの目を見ながら、円を描くように回る。
合図をしたわけでもないのに、2人は同時に足を止めた。
そして……
サヴォンの地面がえぐれるほどの踏み込みで、その戦いは始まった。
アレスは刀を抜いて、サヴォンの剣を受け止める。相当な衝撃だったがしっかりと踏ん張って、その場に体を残した。
一瞬でも力を抜けば吹き飛ばされる。そんな激しい鍔迫り合いの最中、
「この場所には誰も入るな、と言ってある」サヴォンが言う。「誰にも邪魔されず、決着がつけられるな」
「ああ。どっちが強いか……ハッキリさせとこうか」
英雄なんて称号はいらないが、最強は1人でいい。
アレスはサヴォンを押し返して、今度は蹴り技を放つ。
サヴォンも同じく蹴りで対抗して、
「キミは蹴り技が好きなのか?」
「……そうかもな……」アレスはもう一発蹴りを連続で放って、「アンタは喋るのが好きなのか?」
「どちらかというと寡黙なほうだ」サヴォンは蹴りをスウェイで避ける。「キミと話すから面白い。強いて言うなら好きなのはキミだ」
「悪いけど、恋人がいるんだ。アンタの気持ちには応えられねぇよ」
「残念だ」
今度はサヴォンの突きが飛んでくる。直撃されたら一撃で戦闘不能、あるいは即死するであろう威力、速度の突きだった。
皮一枚で回避するが、風圧だけで吹っ飛びそうになる。
その後、2人は激しく切り合い続けた。激しい金属音と、重たい打撃音が響き渡っていた。
しかし、
「お互いに」サヴォンが少し距離を取って、「攻撃力より防御力のほうが上回っている。このままでは決着はつかないな」
どちらも防御力が高すぎて、致命傷に結びつかないのだ。
「引き分けは俺達の戦いにふさわしくないもんな」決着はつけなければならない。「だが……どうする? 今のままじゃ互角すぎる」
ハイレベルで拮抗しすぎている。このまま続けたって長引くだけだ。
「そうだな……」サヴォンは軽く息を吐いて、「キミなら受け止めてくれるだろう」
「……?」
意味深な言葉を残して、サヴォンはまた一直線に飛び込んできた。
なにも変わっているようには見えなかった。とりあえずアレスはサヴォンの攻撃をかわして、相手の右肩に向けて突きを繰り出した。
どうせかわされる、そう思っていたのだが――
「……!」
その突きはサヴォンの右肩に直撃した。おかしな手応えとともにサヴォンの右肩に刀が突き刺さった。
アレスはその手応えから、前々から持っていた仮説が正解だったことを悟った。
「アンタ……やっぱり……」
刀が突き刺さったサヴォンの肩からは血が出ていなかった。手応えとしても、人体を切った感覚ではなかった。
サヴォンは肩に刀が刺さったまま、
「いつ気づいていた? 私の体の秘密に」
「気づいてたというより、ただの仮説だけどな……」もしかしたら、とは思っていた。「テルがドラゴンを殴ったときに言ってたよ。サヴォン団長と同じ手応えだったって」
アレスは刀を引き抜く。その刀身には血がついていなかった。
「なるほど……」サヴォンが肩を鳴らして、「あのドラゴンも私も、最新の技術を盛り込まれているからな。手応えが同じでも当然か」
「……ああ……」テルの直感も大したものだ。「アンタ……サイボーグだな。機械人間か」
「機械人間……か」サヴォンは少し悲しそうに、「私の体はほぼ機械になっている。もはや人間かどうかは怪しいよ」
「人間の定義になんて興味ねぇよ」
興味があるのは……どうやったらこの強者を倒せるのか、その方法である。
とりあえず……
体のほとんどが機械なら、ある程度ぶっ壊しても死にはしないだろう。
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