第77話 簡単な条件だな
階段をおりきると、
「……なんだここ……」
「見てわかりませんか? 牢屋ですよ」
「それはわかるけどな……」
少し想像していた牢屋とは違った。
薄暗くてジメジメしていて肌寒い。そこまでは想定通り。血の匂いがするところまでも考えていた牢屋と同じ。
だが……
「……もっと騒がしいところかと……」
いくつか鉄格子が見えて、そして中には罪人らしき人物が拘束されている。しかしその人物たちは全員がとてもおとなしく、地下牢の中はとても静かだった。
さらに、
「思ってたよりも捕まってる人間って少ないんだな……」
牢屋は空室が目立った。誰も入っていない鉄格子も多数あった。
「ここにいる罪人は……存在そのものをもみ消されるレベルの大罪人ばかりですよ。罪人の大抵は地上の牢屋に入れられています」
なるほど……他にも牢屋があって、ここは特別というわけか。
……アレスも捕まっていたらここに入っていたのだろうか……
「そしてここが静かな理由ですけど……それも簡単です。拷問や取り調べが厳しすぎて、叫ぶ気力も暴れる体力もないんです」
言われて罪人たちを見てみると、相当な傷を負っているのが見て取れた。しかも表情にも覇気がまったくない。生きているのかも怪しいくらいに衰弱していた。
ちょっとやりすぎなのでは……と思わなくもないが……
「……やるなら徹底的に、ってことか」
中途半端に捕まえても意味がない。また脱獄やらをして、この罪人たちは暴れ始めるだろう。ならば最初から徹底的に痛めつけておいたほうが効率的だ。
「そういうことです。僕は……犯罪者の更生よりも、最初から真面目に生きている人々を優先したいですからね」
犯罪者が更生すると美談みたいに言われるが、それよりも最初から犯罪をしないほうがよっぽど上等だ。だが現実では往々にして逆転現象が起こる。
なにも犯罪行為をしていない人はもっと称賛されるべきなのだ。ミラはそれをやろうとしているだけ。
「さて……」ミラは牢屋の中を歩き回って、「テルさんはどこでしょうか……」
……テルも同じように拷問を受けていたらどうしよう……不安になってきた。傷ついて苦しんでいるテルなど見たくない。
そう思ってアレスが牢屋の中を探していると、
「よく来てくれた」サヴォン団長の声が牢屋の中に響いた。「待っていたよ、無冠の帝王」
「……」アレスは声のほうを向いて、「待たせて悪かったな。英雄さん」
ずいぶんと待たせてしまった。本当ならもっと早くに戦えていただろうに。
サヴォン団長は暗闇の中から現れた。牢屋の中が暗くて見えづらかったのは確かだが、まったく存在に気が付かなかった。気配を消す能力も一流だ。
暗がりの中、アレスはサヴォン団長と向かい合った。やはり猛獣と対峙しているかのような威圧感があった。
しかし今回は本気でやりあうつもりできている。恐怖という感情は湧いてこなかった。
「テルはどうした?」
「そこの牢屋にいる」サヴォンが牢屋を指して、「大した女性だ……この状況で熟睡とは」
アレスがテルのいる鉄格子に近づく。
そこにはテルが拘束されていた。他の罪人よりは拘束が緩かったのはサヴォン団長のはからいだろう。
とりあえずテルが息をしていることに安堵して、
「……ホントに寝てやがる……」
スースーと規則的な寝息を立てて、テルは眠っていた。不安なんてまったく感じていない様子だった。
アホなのか大物なのか……相変わらずよくわからないやつだった。
ともあれ、アレスはサヴォンに言う。
「足の治療、してくれたんだな。ありがとう」
「……そもそも折るつもりはなかったんだがね……想像以上の実力だったから、少しばかり焦ってしまったよ。手加減している余裕がなかったんだ」
それでテルの足まで折ってしまったわけだ。
「さてアレスくん……」サヴォン団長が鍵を取り出して、「テルくんの牢屋の鍵だ。この鍵が欲しければ……私を倒して奪い取れ」
「なんだ……簡単な条件だな」世界一難しい条件だ。「……じゃあ、さっさと始めようぜ」
現状の、最強決定戦を。
「望むところ、と行きたいところだが……」サヴォン団長が言った。「せっかくの頂上決戦、最終決戦だ。もっと……それにふさわしい場所で戦おうか」
……テルもニーニャもサヴォンも……どうにもロマンチストばかりだな。
ここまで来たのだから付き合ってやろう。
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