保護者が学校に呼ばれる。

 保護者が学校に呼ばれる。

 って、自体がわたし、今回の件で一番戸惑った。


 考えてみれば当然なんだけど、いずれは絶対そうなるんだろうなって予想はしてたんだけど、それが思いの外早くてびっくりなんだけど、ええ? でもアレらを呼んだところで何がどうなるの? ってか混乱に拍車を掛けるだけなんじゃないの? って思ったわたしは、それはむしろやった方がいいなって元気になる。


 日がな一日連日ニュースで放送されている、小学生の女の子が同級生4人を失明させたという事件を眺めているしかないわたしだ。


 保健室登校ですらない。

 職員室から一番近い位置にある宿直の先生が泊まるらしい生活空間で、大人しくしているしかないわたし。

 テレビはあるから、まあ、退屈は紛らわせることができる。勉強は思い出した頃にやる。


 自分のクラスに行けないことも、

 部屋から出る時はここの内線を使いなさいとトイレに行くときすら許可を貰わなきゃいけない処遇も、

 ぜんぶぜんぶ納得してる。

 登下校は外のみんなと被らないようにズラしてもらってる。これは寝坊できるから嬉しい。帰りも早くて楽ちんだ。


 でも退屈なのはやっぱりどうしたって退屈か。わたしは遊んでるのも好きな方だったからみんなに会うことができないというのはそれだけでけっこうなストレスになった。

 嘘。

 怖いのもあったから助かったかな。


「あいちゃん。明日ママと一緒に学校に来てくれる? お仕事もお忙しいだろうけど」

 って、言い方には、質問という体を取っているが、強制で断れない雰囲気があった。

 わたしのやらかしたこと的にこれがフツーなら、「わかりました」の一言で済んでいるんだろう。だが……。

「はうーん?」

 はいって言おうとして、うーんって悩ましい声のまま、担任の由笠しおり先生の言葉にわたしは腕組みする。由笠先生はわたしがお母さんに言い辛いと察したのだろう。「私から電話しようか」と一言添える。

 わたしは「いい、いいいいい。自分で言う。言ーます」と手を振って応えた。


「ということだから、明日学校一緒に来て」


 の一言に、

「がっこう!」とコミちゃんがはしゃぐ。

「学校~?」とお姉さんが眉間に皺寄せる。

「はあ。学校」とおばあさんが頬に手を当てる。

「がっきょー」と赤ちゃんお母さんがわたしの真似っこをする。

「学校な」と偉そうにふんぞり返るタメダが渡したプリント片手に呟く。


「お前いつまでいんねん」

 という最早聞き慣れたわたしのツッコミに、「いつまでだろうなあ……」とやや疲れた呟きをみせるお人好しのタメダ。

「乗りかかった船を降りることほど、格好悪い生き方はねーよな」

「それ、ギャンブラーの思考だよ」

「どこで覚えた。んな知識」

「お父さん」

「ハッ。本当にろくでもねえな。怒るか?」

「怒らない。タメダも来るの? てか来て欲しい。来て」

「行くよ。説明役が必要だろうから」

「ぱぱ~」

「ぱぱって呼ぶなっつったろ。ひっつくな。おい。姉貴。こいつどうにかしろ」

「うるせー。ぱぱ。お前がどうにかしろ。あたしはこれから犬の散歩で忙しいんだ。三匹いるんだぞ。クソも三匹分だ。舐めんな」

「コミ」

「あいちゃん。オセロやろ」

「わかった」

「ばあさん。……ばあさんは?」

「あ、わかんない。どこ行ったんだろ」

「おいおい。またどっか徘徊してんのかよ。勘弁してくれよ。まーたゴミ持ってくんのか。今朝捨てたばかりなのに」

「ぱぱー」

「があッ!」

「お母さん美人だからドキドキするでしょ。タメダ」

「だから質わりいんだよ。どうにかしろよ。こいつ」

「ふ、ふ、ふええぇぇぇ」

「あ、タメダ泣かせた」

「だっこー」

「ほらタメダだっこだ」

「赤ちゃんプレイだな。詐欺師の兄ちゃん」

「オ・セ・ロ」

「はいはい」


 楽しい。

 大家族みたいで。

 今は。


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