タメダ3
「聞いた上で話してもいいかどうか。見せてもいいか。協力してもいいかどうかの判断を下してくれ。迷惑掛けるような真似は誓ってしない。ただ、それなりにキツい話になることを覚悟していてくれ」
覚悟するのは自分の方だ。
公園をつくる、という仕事上、子供と関わることは多い。意見を聞く、実態を知る必要があるからだ。その中でそれなりにものを見てきたという自覚はある。
踏み込んではこなかった。
もちろん、あまりにも酷いケースに出会った場合、然るべき機関を紹介するくらいはした。
あい。
見てきたどのケースにも当て嵌まらないこの子の運命が心配になった。
それだけだ。
「ふーっ」
重い息をつく。
この子はどうなるだろう? この年の子にしては肝の据わった子だ。ちょっとやそっとじゃ動じない精神の持ち主であるようには見受けられる。
あいは
「まあちゃんが言ってたこと、ほんとかも……」と何やらぶつぶつ言葉を吐いた後、ぐっと顔をあげる。
「いいよ」
重い口を開いた。
「俺はNPO法人団体の会長をしている溜田正嗣ってもんだ」
「まさつぐ」
「ああ。正嗣さんだ。べつに今まで通りタメダでいい。NPOはNon-Profit Organizationの略だ。日本語だと非営利団体だな」
「わからん」
「そっか。聞き流してくれ。まあ何をやってるかといえば、街に公園つくってんだ」
「公園?」
あいは訝しむような目を向けた。
「ああ、そうだ。公園。公園な。昔は、俺の子供の頃はもっとたくさんあってな? いろんな遊具があって子供がいっぱいいたんだ。今は公園もいつの間にか潰されて駐車場になってたり、マンション建たってたりだろ? それか、だだっぴろいだけの単なる空き地か。あっても鉄棒っくらいのもんだ。今の情勢と照らし合わせて安全性に考慮した上で子供も遊べる、大人も気軽に立ち寄れて軽く花だとか、まあ、四季折々の景色を楽しめる空間づくりをすること。それを生き甲斐に俺は生きている」
「はあ」
「じじぃみてえだな」
ばあさん(?)を掴まえている母親1/4が言う。こいつが恐らく姉ちゃんだろう。
ばあさんの目は先ほどよりは幾分か落ち着いている。
「そうかもな」
俺はあっさり認めた。
「見た目の割に」
「ああ。そうだ。これは単なる趣味だ」
シルバーアクセに触れ、それから色合いが派手な開襟シャツを示す。顎で姉を示した。
「あんたらの外ッ面の方がモノホンだろうよ」
「……」
「?」
あいがじれったそうにしていた為、続けた。
「あいのよくいるあの公園だって実は俺がつくったんだぜ?」
「だだっぴろいだけの空間じゃん。ブランコ欲しいんだけど」
「ブランコは難しいんだよ……。分かった。なんとかする」
まず住人――大人の理解を得られることの方が建てる建前上必要な為、先に花壇だとか、後はそう、桜など"見る"方を重視・優先してしまうのだ。
見て、楽しめる。
遊具はどうしても後回しになってしまう。あとぶっちゃけ遊具つくれる職人が今は激減しているため、手が回らないのもある。
内心で溜息を吐きつつ、これが終わったら電話する先を考えた。
「何で儲けてんだ? それ?」
「寄付金。国の助成金。活動に賛同してくれる人らの会費。事業収益を上げているNPOもあるが、俺らはほとんどないな。たまのイベントくらいでそれはどっちかっつーと出ていく方が多いくらいだ」
「はあん」
あまり八歳って感じはしないな、とタメダは思った。
「さて。ここからが本題だ。本題っつーかまずはお願いだ。杞憂で終わってくれればそれでいいんだ。いくはないが、しばらくはどうにかなるかなっつー。杞憂じゃなければ早々に手を打たないとマズい」
タメダは言う。
「あい。お母さんの通帳、それからこの家の重要な書類を全て俺に見せて欲しい」
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