第12話 二つ目の魔法

「悪い。待たせた」

「いいよ。気にするな。俺もついさっきまで昼ご飯食べてたところだからな」

「そうか……それでもいいのか?」

「あぁ。ちょっとだけ待ってくれ」

 そう言うとラインは自分が作ったものなのか、ハムが入っているその食べかけのサンドイッチの残りをその口いっぱいに頬張り、水と一緒に飲みこむ。

「ん……ぷはぁ! ふぅ……ごちそうさまでした」

 そう言ってラインはサンドイッチを入れていたバゲットを近くの場所に置き、こちらに寄ってくる。

「待たせたな。それじゃあ早速始めるとするか!」



 「まずそもそもの基本として魔法っていうのは空気中のそこら中に存在しているマナ。これを自分の体内に取り込み、それを魔法というエネルギーに変換して使う。ここまでは良いか?」

「あ、あぁ……」

 今の所、ゲームとかで良くありそうな感じの説明なもんだから、何とか理解は追いついている。とはいえこの後実際のやるとなると本当にできるのかどうか怪しく思えてきた。

 レースゲームやドライブゲームで運転できると思い込んだところで、実際に車の運転がしっかりできる程現実は甘くない。

「……どうした? ボーっとして」

「あ、いや。気にしないでくれ。ちょっと考え事をしてただけだ」

「そうか……それじゃあさっき教えた通りにやってみてくれ」

「ああ。えっと……確か」

 まずは空気中に漂うマナを知覚し、自分の手に力を集中させる。こうして詠唱をしている間、手の中が不思議と暖かくなっている気がする。多分これがほとんどの人が使える『マナを体に溜める』っていう感覚なのか……そして──

「慈悲に溢れた氷の精霊よ。わが力に応えよ。アイシクルショット!」

 その掛け声とともに一気に力を引き出す。一応目の前の木に向けてそのアイシクルショットを打ち込んだ……はずだった。

「ってあれ? なんで出ないんだ?」

 確かに詠唱の言葉は一字一句も違わなくないし、しっかり頭の中で氷をイメージしながら放出しようとした。

 だが実際にはその魔法自体が発動していないし、狙っていた木はどこにも穴が空いていかった。


* *ライン

「え? なんで出ないんだ? 俺の魔法……」

 そう言って彼は再び魔法を引き出そうとするもそれでも彼の手の平から氷が出てくることは無かった。

「え……マジでなんで出てこないんだ……アイシクルショット! アイシクルショット!」

 そう必死に叫んでみるもカイの詠唱にマナは答えてくれず、無くただ時間だけが過ぎていき、体だけが疲れ行くだけだった。


* カイ(アレン)

 あれあら何度も詠唱を繰り返すも魔法を使えないという事実が覆ることは無く、肉体に限界が訪れたのか鼻血が垂れていたことに気づく。

「カイ……一旦休憩しよう? な? 体を休めた方がいいぞ……」

「……それもそうだな。多分今だけ調子が悪いのかもしれないしな……けど最後にもう一回だけ……はっ!」

 一度冷静になって一度体を休ませる前にせめてもう一度魔法を出せればと思い、手のひらから力を込めていると何かが地面に落下して鈍い音が聞こえた。

 そして地面に視線を落とすとよくわからない球体が転がっていた。

「これって……一体なんだ? 俺が出したのか?」

 見るからに普通にただのダークマター的な何かだ。マジでこれはいったい?




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