第22話 違和感
それから私は羞恥心のあまりベッドから逃げようとしたが、狂三さんに手首を思いっきし摑まれ押し倒された。
「逃げようとしないで。お話終わってない」
「そう言いながら跨らないでください……!重いです」
そんなことを言ったのが間違いだった。私の手首を摑む狂三さんの手がより一層力が入り、痛さが伝わってくる。
「……そんな事言うんだ。ふぅーん?――喰べちゃうよ」
耳元でそんな甘美な響きの言葉が囁かれる。身体に電流が流れるようなそんな感覚が全身に駆け巡る。
このままじゃまずい。このままだと本当に身体の隅々まで捕食されてしまう。逃げなきゃいけない……そんなことわかってるのに身体が言うことを聞いてくれない。
「な、なんで……やめて!」
「じゃあ、言うことあるよね」
「ごめんねさい」
私は心の中で胸を撫で下ろす。自分の貞操が守られたことに安堵するが何故だか胸がモヤモヤする。貞操が守られて嬉しいはず――いや、別に嬉しさは感じていない。それに貞操に関しては既に……
あの夢が本当のことなら私はとっくに狂三さんとそういう行為をしている。そんな記憶今の私にはない。ないはずなのに……なのにそんなこと考えてるとその時の刻み込まれている感覚が私の身体を震えさせる。
「身体は覚えてるんだ……ねえ、ましろん――誰とそういった行為をしたのかな」
「……え?そ、それは狂三さんじゃ」
「私は別にそういった行為したことない……キスはしたけど」
狂三さんはそう言いながら頬を膨らませ拗ねている。拗ねている彼女はとても子供っぽくて可愛いが、そんなことどうでもよくなるくらいに彼女の言ったことに驚き戸惑う。
私が見たあの夢どういうことなのかがわからなくなる。確かにそういった行為をするところまでは見れてないからありえなくはない話ではある。狂三さんがヘタレで出来なかった可愛そうな人っていう路線。
狂三さんの顔をじっと見つめてみるがヘタレだとは到底考えられない。ヘタレだったら私のこと押し倒したりする度胸はないだろうし。だとしたら私の勘違い?できれば勘違いであってほしくない。もしそうだったら恥ずかしくてどうにかなってしまう。
「私はヘタレでもないし度胸がないわけでもない。ヘタレで度胸がないのはましろんのほう」
「勝手に人の心を読まないでください……確かに私はなのちゃんとか桃に襲われ……?」
待って…私は今何を言った?もしかしてなのちゃんと桃に襲われたって言った……?
そんなわけない。そんなこと彼女たちがするはずがない――間違ってないはずなのにとてつもない違和感を感じる。どこか歯車が噛み合わないようなそんな違和感。今までの違和感と同じで何かがおかしい。
初めて狂三さんと会った時だってそうだった。一回も会った記憶がなかったのに見覚えがあった。なんで見覚えがあるのか考えようとしても何かが邪魔してきて考えることすら出来なかった。
私の身体に起こっていることなんてものは理解できない。理解できていたら私は既に記憶なんて取り戻している。正直誰が正しくて何が間違ってるのか判断材料となる記憶がないから私にはわからない。
だから目の前の狂三さんを信用していいのかすらわからない。
「ま、ましろん……?急に黙ってどうしたの」
「ごめんなさい……私考え事したいので帰ります」
このままここにいたらきっと良くない思考が出てしまう。
狂三さんは顔をそっと背けながら私の手首から手を離す。ちらりと見えた狂三さんの表情は寂しげな表情を浮かべていた。こんな時は帰るのを止めてそばにいたりすればよいのかもしれないがそんな勇気なんてものはない。
立ち上がろうとしても彼女は依然として私に跨ったままなので立ちき上がれない。目線で訴えてみてもそっぽを向くばっかり。
「……どいてほしいです」
「今何時か知ってて言ってる?こんな時間に外歩いてたら悪い人に捕まるから……だから朝までは泊まって」
「……嫌ですって言ったら?」
私がそう問いかけても狂三さんは何も答えてはくれない。ただただドス黒い狂気じみた笑顔を向けてくるだけ。
私より胸も身長も小さいのにどうして可愛さより怖さを際立たせることができるんだろう。私より胸小さいのに。
「私が何も言わないのをいいことに好き放題言うのやめて……奴隷ちゃんに降格させるよ?」
「私より胸小さいくせに――っん!?」
突如として私の口の中に狂三さんの指が入ってくる。一瞬キスをされたと勘違いしてしまった。
「キスされると思ったんだ。でも駄目だよ……?私のこと絶壁でまな板って言うその口にはあげない」
「わひゃし……そほまでぃぇゆってにゃいっ!?」
「ましろんかわいいよ……!だから、私の指――存分に味わって?」
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