記憶
第20話 初対面
ましろんと初めて会ったのは中学二年の始業式の日だった。
「す、すみません……!わたしとちゅきあってくだしゃい!?」
帰りの支度をしていると彼女――千歳ましろという少女が初対面でいきなり教室の中で告白をしてきた。噛みまくっていて少し可愛かったが声量が大きかった。それが駄目だった。一瞬にして教室にいるクラスメイトたちの視線が一気に私達の方に向けられた。
好奇な目で見る者や天を仰いでいる者、嫌悪感をあらわにしているカースト上位の女子たちの視線が痛い。目の前の彼女はそんなことを気にせず頬を紅潮させながら私のことだけをただただ見つめている。
「はぁ……周りの人の視線が痛いからとりあえず外でよ?」
「周りの人の視線……?―――っ!?すみましぇんっ……」
彼女は慌てながらメインバッグを取りに向かったので私もついていく。彼女が一体何を考えているのかわからないが悪い人ではなさそう。告白してくる時点で下心はあるだろうけど。
「待たせました……」
「じゃあついてきて?」
「……なんで手繋いで……!?」
私は彼女の手をとりそのまま教室から出る。彼女がなにか言ってる気がする。手を繋ぐことは別におかしいことではないし彼女からしたら逆にありがたいと思うのだけど。ホント彼女の考えがわからない。
気づいたら私達は下駄箱に着いていたので手を離し靴に履き替えて外に出る。彼女が「あ……」と言葉を溢していたのでもう一度手を握ろうとするが引っ込められてしまう。
「嫌なの?私のこと好きだから告白したんでしょ?」
「す、すきだからです……すきだから恥ずかしいというか」
「ふ〜ん……じゃあこれは…?」
私は自分の胸を押し付けるように腕に抱きつく。すると、彼女はみるみると顔を紅潮させて硬直する。流石に可愛そうなので私は抱きつくのをやめる。
「本当に私のこと好きなんだ?」
「す、すきです!一年生の頃から一目惚れしてて……それで今年同じクラスになれたことに舞い上がってつい告白をしてしまいました……」
本当に私のことが好きなんだ。こんな身長が小さくて髪色が普通の人と違う私のことが。だとしても私はあなたのことを知らないし好きというわけではない。だから一体どうしたらいいんだろう。
「でも私はあなたのこと何も知らないし同性愛者でもない」
「それでもいいのでおねがいしましゅっ!?……うぅ……舌痛い」
舌を思いっきり噛んだのか少し涙目になっている。小動物みたいでなんだか彼女が不憫で可愛く見えてしまった。
この子は私のこといじめてきたりしないよね。私に告白してきてるんだし。
「私はあなたのこと何も知らないから今は付き合うことは出来ない」
「そ、そんなぁ……」
「な、泣かないで……?だから……えっと、友達からでもいい?」
――友達……いつもの私なら絶対に言わないであろう言葉が自然と出てしまった。いつもなら軽くあしらって終わらせるのに。なのに不思議と彼女にはそんなことは出来なかった。
どうして?――わからない、そんな自問自答を頭の中で繰り返してしまう。こんなにもわからないことは私の人生で初めてのことかもしれない。
だから私にこんな思いを抱かせたあなたを間近で観察させて。そしてもっとあなたのことを私に教えて?
「……なにか言ってほしいんだけど」
「はっはい!お願いしまっ――いったぁ!?」
何度目か覚えてないけど彼女はまた舌を噛んだ。話し慣れていないのかそれとも過度に緊張しているせいなのか。
「もしかして緊張してる?それとも話し慣れてないだけ?」
だから私は聞いてしまった。彼女という人間を知りたい…そんな好奇心と探究心に駆られて。口に出して言葉を紡いで――
「ねえ、もっとあなたを教えて?」
「あっ……♡――っ!?」
「ここ学校……いきなり公共の場でそんなことしないで」
「してません!!私は変態じゃないですっ!変態!」
彼女は顔を真っ赤にして反論して私を変態呼ばわりする。普通人に対して変態呼ばわりするものなのだろうか。私はそういう行為はしないでって言ってるだけで変態と言って罵ってるわけじゃない。
「私もあなたも変態じゃない。あなたは変態じゃなくて変人の方が似合ってる」
「うぅ……変人でもいいです……いつかお嫁さんの方が似合ってるって言わせるまでです……キャッキャ♡」
この子本当に大丈夫か心配になってきた。独り言をブツブツと言っていて不気味だと思ったら急に乙女みたいな表情になるし。
「はぁ……とりあえず今日は帰ろ?」
「そ、そうですね……えっとさようならですっ――!?」
「一緒に帰ろって言ってる……なんでわかんないの……友達いないの?」
「うぐっ?!――ゴホッ……う、ううぇっ……」
何故か彼女は思いっきりむせ始めた。痛みを押さえるかの如く胸元を押さえながら苦しんでいる。
――やっぱり彼女は面白い。
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