第3話 祖父の死

第三話目でもう旅立ちの話。早すぎるが、こればかりはあまり覚えていないので仕方がない。


誰だって昔の記憶は薄れるモノだ。だが実際、私は他の人より昔の記憶が曖昧なのかもしれない。最近私は不思議に思っていたことがあった。昔の思い出があまりないからだ。母曰く、私は幼稚園生のころ目がほとんど見えていなかったそうだ。幼稚園の先生方が私と目線が合わないと母に伝えていたそうだ。それを知った母は私を眼下に連れて行き、見えていないことが判明した。私は視力の矯正をする強い度の眼鏡を中学一年生の初めまでかけていた。そのおかげで今では眼鏡を掛けなくても視力が1.5ある。もしかしたら眼鏡をかけるまで物事が見えていなかったから記憶に残っていなかったのかもしれない。そんなエピソードが最近あった。


話を戻すと、私が小学一年生になったころ祖父は天国へ旅立った。当時は何度も入院していたので心配はしていた。大人たちは祖父が病気を患っていたことは子供の私には教えなかった。ある日のよる、祖父はトイレで吐いた。そして救急車で運ばれた。私は救急車で祖父が運ばれたことが理解できなかった。私もよく喉を詰まらせたり気分が悪くなったりすると吐いていたので、ただ吐くだけのことでなぜ入院するのかよく分からなかった。


祖父は癌を患っていた。祖父が入院していた病院にランドセルを見せに行ったことがある。そのとき祖父がどんな反応をしていたかは覚えていない。でもその日雨が降っていて、駐車場から病院の入り口まで歩いているとき素早くターンして回ると濡れないということを体験した。その日はその記憶しか残っていないのでたぶん祖父はまだ元気そうだった。


お見舞いに行った一週間後あたりに祖父は旅立ったのだが、またしても亡くなったことを告げられた時の記憶はないに等しい。しかしこれだけは覚えている。たしか亡くなる数日前に母は私にこう伝えた。「じいちゃんは良くなってるよ」と。優しいような嘘だった。その時はその言葉を信じた。

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