第126話 仲良くしたいっ!




「ねえ、カメキチ。私、とんでもないことに気づいちゃったんだけど」

「はい。なんでしょうか、マスター」

「私、もしかして、友達がゼロになったのかも知れない」

「そうですか」

「悲しいねえ……。あはは……。あは……」


 リアナとは友達と言いたいところだけど、おそらく、リアナに確認を取れば、違うと言われてしまう気がする……。

 だって、さ……。

 日本から異世界に戻った別れ際――。


 ありがとうございました。

 この御恩は忘れません、ファーエイル様。


 って、言われた。

 それって、うん。

 その時には、普通にお礼として受け流していたけど……。

 もう友達ではない、という宣言だよね……。

 冷静に思い返してみれば。


「あー。オワタぁ」


 私はテーブルの上に顔をつけて倒れた。

 ダークになりたい気分なので、スキル「平常心」はオフにした。

 自ら望んで落ち込むのです。


 ちなみに私がいるのは、超機動戦艦ハイネリスの自室だ。

 最近、1日に3時間はこちらにいる。

 まるで王宮のように豪華な艦内を散歩して、いろいろな施設を確認して、自室ではのんびりとカメキチと雑談して。

 とても楽しく暮らしている。


 外なる神のこととか、気になることはあるけど……。

 多分、今すぐに何かが起きるということはないだろうし……。

 何かが起きるのなら、私にはわかるようだし……。

 今のところ、不穏な噂や気配もないので、とりあえずは気楽にやっていくのです。


「ねえ、カメキチ」

「はい。なんですか、マスター」

「そういえば、でも、カメキチとはオトモダチだよね?」

「いいえ。私はマスターのサポートメカです。友人の枠には入りません」

「そっかー」


 あははー。


 がっくり。


「しかし、マスター」

「なぁに、カメキチ」

「リアナ、ウルミア、フレイン。この3名については、マスターと口頭で友人同士であると宣言をした仲なのですよね?」

「うん。それはね、まあね、そうなんだけどね……」

「そして、その宣言は破棄されたわけではなく、現状では、マスターが勝手に相手の言動からもうオワタと思っているだけですよね」

「……オワタって、そんな言葉も使うんだね」

「マスターが使っていたので真似させていただきました」

「なるほど」

「これは前世のマスターが言っていたことですが――」

「うん。なぁに?」

「決めるのはすべてマスターです。マスターが友人であるとするなら、それは友人であり、永遠の絆なのです」

「またそんな、神様みたいなことをぉ」


 私は苦笑いして――。

 思った。

 そういえば私は、神なき時代の神なのだった。


「よし」


 私は身を起こした。


「ねえ、カメキチ。私、オトモダチ・パーティーを開こうと思うんだけど」

「それは素晴らしいアイデアですね」

「協力してくれる?」

「もちろんですとも。せっかくですし盛大に開催して、オトモダチのオトモダチも誘って、オトモダチを増やされては」

「……私にできるかな?」

「マスターに不可能などありません。必ずや大成功しますとも」

「そっかぁ。なら私、やってみようかなぁ……」


 オトモダチ、ほしいし。


 それにカメキチの協力があれば、もはや成功したも同然だよね。


 ちなみに――。


 異世界を揺るがせた光の化身の騒動からは、すでにそれなりに日数が過ぎていた。

 日本では10月に入った。

 ようやく暑さも落ち着いて季節の変化を感じられるようになってきた。


 その間、私は、何もしていなかったわけではない。

 まず、うん。

 家に帰ると、パラディンが玄関で土下座していた。

 ウザいことこの上ないけど、ヒロがどうしてもというので、もう本当に仕方なく特別に許してあげることにした。

 なのでパラディンのSNSでのブロックは解除してある。


 時田さんと石木さんからは、なにやらいろいろと報告を受けた。

 どうも現代日本には多くの敵がいるようで――。

 蠢動を始めているらしい――。

 それについて、手を打っていいかと言われたので――。

 いいよー。

 と、丸投げしておいた。

 ただし、大騒ぎになるのは困るので、できるだけ虐殺はなしね、とはお願いしておいたけど。


 あと今後の方針についても聞かれたので――。

 ものすごく抽象的ながら、綺麗な世界を作ろうとは言っておいた。

 それは、まあ……。

 前世の私の受け売りなんだけどね。

 石木さんが以前に言っていたのだ。

 前世の私、ファーエイルさんは、穢れなき理想世界の実現を目指していた、と。

 なので、それをそのまま使わせてもらったのです。

 なぜならば――。

 私には、方針など何もないのだからっ!

 私は白紙!

 空っぽの子なのです!


 なら、うん。


 正直に「なし」と答えればよかった気もするけど……。

 とてもとても真剣に聞かれたので……。

 とてとてだったので……。

 さすがに「なし」は、まずいかなぁと思ってしまったのです。

 日和ったのです。


 まあ、いいけど。


 綺麗なら綺麗で、それに越したことはない。


 とにかく私は、平和に楽しく、暮らせればそれでいい。


「カメキチ、例の計画のその1の進展はどう?」

「その1は、ほぼ完成しています。まだ多少不安定なところはありますが、試していただいて問題はないかと」

「おお、そうなんだー。じゃあ、その2は?」

「そちらは試験段階なので、今しばらくお待ち下さい」


 早速、その1については試させてもらった。

 スマートフォンを取り出して、超機動戦艦の中からネットに接続を試みるのだ。

 さあ、どうだろう。

 私はドキドキしつつ、カメキチに言われるまま設定を進めて――。

 おお!

 柱が立ったぁぁぁぁぁ!


 そう。


 例の計画その1、異世界インターネット作戦。


 カメキチとおしゃべりできて、食べ物もいくらでも出てくるハイネリスの中は、本当に快適でお気楽なんだけど――。

 しかし、異世界なのでインターネットには接続できない。

 できなかった。

 なので、どれだけ快適でも、しばらくすると手が震えてしてしまうのだった。

 私は、うん。

 ネットなしでは生きていけない子なので。


 なのでカメキチに、なんとかならないかと相談してあったのだ。


 カメキチは頑張ってくれた。


 そして、なんとハイネリスの艦内からであれば、異世界の壁を超えて、インターネットに接続できるようにしてくれたのだったぁぁぁぁぁぁぁ!

 これは革命だ!

 私はスマートフォンで自分の動画チャンネルを確認しつつ――。

 興奮を抑えきれなかった。

 正直、ネット環境さえあれば、24時間、もうずっとハイネリスの中でいい。


「すごいねこれ! ちゃんとつながってるし、早い!」

「成功してよかったです」

「ありがとう、カメキチ! よーし、それなら早速、新しいPCを組んで、こっちにもネット環境を作らねばだねー!」


 最近、まったくゲーム配信ができていない。

 久しぶりにやらねばなのだ。

 なにしろ私には、私を待ってくれているリスナーさんがいる。

 少なくとも『キャベツ軍師』さんは、待ってくれているに違いないのだ!

 期待には応えねばならない!

 それが配信者というものなのだ!


 あと、異世界動画も、せっかく伸びているのだから、もっとアップしないといけない。

 今までは景色ばかりだったけど……。

 これからは異世界学習……。

 魔法講座とか……。

 剣技講座とか……。

 冒険者ギルドでの仕事の受け方とか……。

 そういうのも、やってみようかなぁと思っている。


 ちなみに「その2」は、異世界転移魔法を込めたアイテムの制作だ。

 指輪で考えている。

 完成したら、まずは石木さんに渡したい。

 石木さんには、現代日本でも異世界でも、いろいろとお任せしたいことがある。

 できれば、時田さんやアンタンタラスさんやメルフィーナさんにも渡したい。

 そういう「できる大人」な人たちに面倒なことをすべて丸投げできれば……。

 私は平和なのだ。


 私は、うん。


 朝から晩までネットに入り浸り――。

 ネットの世界で、ほんの少しだけ配信者としてチヤホヤされて――。

 たまにでいいから、リアルでも友達と遊べて――。


 毎日を適当に生きられれば――。

 それでいい。

 いや、それがいい。


 まさにそれこそが、穢れなき理想世界なのだ。


 私はそのために頑張るのだ。

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