秘め事は休日の戯れに 2/9

 あたしはスマホをパンツのポケットから取り出し彩華さんにコールする。

 いつもの様に数回の呼び出し音で明るい声が聴こえて来たわ。



『あらぁ、どうしたの? お店が忙しくて手が必要?』


『いえいえ。実はいま璃央とショッピングモールに居て、聞きたい事が在るんですよ』


『デート? 良いわねぇ。それで聞きたい事って? そうそう、モールの近くに休憩できる素敵なお部屋が在るわよ』


『なんて事を云うんですかっ。そんなんじゃ在りませんから!』


『可愛い反応ね。そんなって何かなぁ? 私は休憩って云っただけよ?』


『捏造しないで下さいってっ。いま、お部屋って云ってましたからねっ』


 あたしは『お部屋』と云ってしまった事で我に返り、璃央の顔を視た。

 その顔は平然を装ってるけど明かに動揺を隠しきれてなく、妄想を膨らませてるに違いないわね。

 きっとこの会話が漏れて聴こえてしまってるのだと思う……

 早く本題に移ってお話しを終わらせないと不味いっ。


『あら嫌だ。口が滑ってしまってたみたいね。ふふふ』


『無意識ですか……そうですか……』


『でもそこってね、私が嫁ぐ前のデートで透真さんに連れて行って貰ったのよぉ。ちょくちょくね』


『まだ続けますか……そんな生々しいお話しは結構ですから、あたしは彩華さんに聞きたい事が在るんですっ』


『生々しいって……でも素敵な事なのよ。お互いに解かり合って分かち合う為に必要な、それでいて凄く気持ち好いんだからっ』


 ちょぉぉおおお! 彩華さんっ。

 いつまで引っ張る心算なのよぉぉお。

 これで璃央が暴走でもしたらどうするのっ!

 お陽様の高い昼間からそんなお部屋でそんな事なんて……

 夜ならまだしも――いえっ。夜ならもっと現実味を帯びてしまうわね。


 念の為だけど、そう云う事を否定したり拒否してる訳じゃ無いの。

 寧ろ嬉しいって感じてしまうのだけど……

 でも、そう云うのはインスタントな情欲に流されるのでは無くて、もっとお互いに求め合って欲求を徐々に昂ぶらせてからじゃないと、悦びも半減してしまうものでしょ?

 だから保険の意味を含め、帰りの運転は璃央には任せれなくてあたしがしないと駄目になったじゃないっ!


『そっちから離れて下さいってぇ……』


『そっちってどっちよぉ』


『彩華さんが離れてくれないなら、あたしが離れますねっ。それで聞きたいのは紫音と綾音の事なんです』


『これくらいで勘弁してあげましょうかしらね? 今日の所は。うん、それで紫音と綾音の何が聞きたいの?』


 何か変なスイッチを押してしまったみたい――

 ちょっと様子見しただけみたいな軽いノリで撤退してくれたけど、いつ本格的な攻勢に転じるか予想も付かないから言葉は慎重に選ぶ必要が在りそうよ。


『今日だけじゃ無くて良いですからね。 えっとぉ、紫音と綾音に水着を買ってあげたいのですけど、子供服ってサイズが解らないので聞こうと思って』


『えっ? 良いの? 子供用と云っても馬鹿にならないお値段するわよ? 何か申し訳ないわ』


『そこは気にしないで下さいね。あたしが紫音と綾音の水着姿を視たいからプレゼントするだけですので』


『そぉ? それならお言葉に甘えてしまいましょうか。子供服のサイズに詳しくなるのも予行練習みたいな事なのだし……それに時間の問題よね?』


『お話しを戻さないでく・だ・さ・いっ!』



 熱っついっ。

 特に顔が真っ赤になってるのは、鏡を視なくても解かるくらいに。

 この滝の様に流れる汗は冷や汗では無く、純粋に発汗して身体を冷やそうとしてる生理現象だわ。

 それも顔だけじゃなく、背中を伝う雫をイメージ出来るリアルさで、Tシャツに沁み込む様子までもありありと感じてしまえるの。

 

 そして、じんわりお腹の辺りに灯った火照りも……

 身体の芯が熱を帯びて疼き潤って来る。

 衝動に身を任せてしまいたくなるのを必死になって堪えて――


 もし、いまあたしが璃央を求めたら、拒む事なく受け入れ悦びへ導いてくれるだろうってくらいの自信と信頼は在るわ。

 いま及べば周期的に確定で当たる予感も。

 でもそのタイミングじゃないと直感がそう告げてる。

 あの子を迎える時はいまでは無いと……

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