第17話

 こうして俺とウェリカは、冒険者ギルドが運営している市街地の宿屋で宿泊手続きを行い、部屋へと入室した。この宿屋は冒険者であれば格安で宿泊が可能となっているのだが、幸い冒険者ライセンスを手放すことはしていなかったので俺の料金分は安く済んだ。安くなっていないウェリカの分も、貴族令嬢とはいえさすがに生徒に払わせる訳にはいかないので俺が払った。


「多くの冒険者は定住せず各地を回ってクエストをこなしながら過ごすから、いたるところにこういう宿屋が用意されているんだ」


 寮の部屋よりも一回り広い部屋をぐるっと眺めながら、ウェリカに説明する。掃除も隅々まで行き渡っていて快適に過ごせそうだ。


「それはいいのだけれど、どうして相部屋なのよ!?」

「仕方ないだろ。ここは本来冒険者用の宿屋で、基本的に冒険者じゃない人は冒険者と一緒じゃなきゃ宿泊出来ないんだから」

「あんたもう冒険者じゃないでしょ!」

「冒険者ライセンスを手放してないからまだ冒険者という扱いなんだよ」


 俺は自分のライセンスカードを取り出し、ウェリカに見せてやる。ウェリカは俺の手からそれを抜き取るとまじまじと確認し始めた。


「違法じゃないの?」

「一度冒険者資格試験に合格したら、自主的に返納しない限りずっと冒険者でいられるんだよ」


 冒険者になるには、年に数回王都で実施される資格試験に合格する必要がある。逆に合格さえしてしまえば、実際に冒険者でいるかどうかは関係無く、今回のように冒険者としての恩恵を受け続ける事が出来るのだ。


「難しいの? その試験って」

「魔物の特徴、武器の扱い方、道具の種類や効果、戦術……幅広い知識が求められたな。あと迷宮での実技試験もあるから大抵はそこで落とされる」

「難しそうね……。あたしにも合格できるかしら」

「貴族が冒険者になったって話は聞いた事が無いな。仮になろうとしても、危険な職業だから周りが止めるだろうし」


 俺自身も公爵子息だった頃は冒険者になろうなんて考えもしなかったし、なる道自体用意されていなかっただろう。


「そうよね……普通は止められるわよね」

「ま、そもそもなろうとも思わないだろうな。普通の貴族は」

「アルドリノールはさ」


 ウェリカがベッドにだらしなく仰向けに倒れ込みながら、俺の名前を口にする。


「あたしが冒険者になりたいって言ったら、止める?」


 俺のライセンスカードを器用に投げ返し、尋ねてきた。


「なりたいなら止めないけど、今のお前じゃイーヴィス先生みたいに試験官を吹き飛ばして不合格だろうな」

「ど、どうしてあんたが知ってるのよ!?」

「メーデル先生から聞いた」

「メーデル先生ぇぇぇ!」


 ウェリカがうつ伏せになり、脚をバタバタとさせて悶絶し始めた。今のウェリカは白いブラウスに裾が短めなキャミソールワンピースという服装なので、白く細いふとももが後ろから露わになっている。俺はウェリカのスカートを直してやりながら、背中に語りかける。


「何にせよ、まずは魔力制御だ」

「うん……」


 うつ伏せのままウェリカが頷くと、二つ結びの間のうなじが揺れた。それを見た後、俺も隣のベッドの上で仰向けになった。


「……本当にいやらしい事しないの?」

「したらクビになるだろ。ここでそういう事をする冒険者も少なくないって聞くけど」


 こちらを向いてきたウェリカの問いに答える。そういやカイリとリリサも隙あらばよくイチャついてたな。そりゃ結婚もする訳だ。


「……あんたも、した事あるの?」

「ごふっ!?」


 ウェリカの言葉に思わず呼吸を乱され咳き込んでしまった。息を整えた後、俺は起き上がり、横になりながらもやたら真面目な顔をしているウェリカを見る。


「言える訳ないだろ!」

「言いなさいよ!」

「なんでお前に言わなきゃなんないんだよ!?」

「あたしが聞いてんだから答えなさいよ!」

「……はぁ」


 俺はウェリカの尊大な言い分を聞いてベッドから降りると、隣のベッドでうつ伏せになっているウェリカの身体を持ち上げて仰向けにした。そうしてウェリカを押し倒しているような体勢になった俺は言う。


「そんなに知りたいなら教えてやるよ。お前の身体でな」

「な……なに……するのよ……」


 ウェリカが怯えた表情を見せ、震えた声で尋ねてくる。俺はまともに受け答えしないまま、ウェリカの髪留めに指を掛け、一気に引き抜く。そうして結ばれていた髪の毛が解放されてベッドに広がったのを見ると、ブラウスに手を掛ける。


「あの……あたし……まだ……」


 ウェリカが涙目になったのを確かめると、俺はベッドから離れた。


「明日は早いからさっさと寝ろ。これに懲りたらもう聞くな」


 ウェリカは俺から顔を背けた姿勢になったまま、何も言わなかった。少し怖がらせ過ぎてしまっただろうか。でもまあ、これでこれ以上追究はされないだろう。俺は自分のベッドに戻ると、枕元の照明を消し、仰向けになり毛布を被って目を閉じたのだった。

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