24.力(物理)の証明
エランツァの口利きによって、無事迷宮の探索申請を終えた俺たちは早速、近場の迷宮へと足を運んでいた。
「いいですかマリー、迷宮には危険がいっぱいなんです。魔物はもちろんですが、罠なんかもあってですね……」
「ふーん……」
レティーナの講釈に傍らのマリーメアが関心の薄そうな相槌を返す。
今、俺たちが潜っているのは冒険者ギルドから比較的近い場所にある迷宮で、ギルドの定める危険度はE。言うほど危険はいっぱいではない。
「ですから、はぐれたりしないように気を付けてくださいね!」
「分かってる、です。……レティ姉こそはぐれんなよ、です」
「は、はぐれませんよ……!」
やや狼狽えたようなレティーナ……そういえば初めてレティーナと会った時は思いっきり迷子になってたな。そんなことを思い出しながらレティーナを見やると偶然目が合う。
「……はぐれませんからねっ!?」
「あぁ、うん……」
俺の視線から何かを感じ取ったのか、念を押された。
今回の目的は探索ではなく、あくまでレティーナの実力をマリーメアに見せることであって、長居するわけでもないし、迷宮自体の規模も小さい。それではぐれる方が難しい。
進むこと数分、目当ての魔物はすぐに見つかった。緑の体色に子供のような体躯、手に棍棒ような物を持った
「……!」
迷宮で魔物を見るのは初めてなのか、マリーメアの僅かに息を飲む気配。
だが、すでに危険度Cの迷宮でも後れを取らない戦闘力のレティーナにとっては全く脅威たりえない相手だ。
「見ててください!」
「! レティ姉!?」
レティーナがいっそ無造作ともいえるような足取りで小鬼との距離を詰める。小鬼たちもそれに気づき、耳障りな威嚇音を放ちながらこちらに向かって駆け出した。
一定の間合いに達した時、レティーナが足を止める。適度に脱力した緩い構え。相手の動きを見切り、最適な力を開放するための静。
飛び掛かる小鬼たちに、レティーナは微動だにせずその瞬間を待つ。
そうして迂闊な小鬼たちがまんまとレティーナの
「【ホーリーバースト】!!」
真下から突如立ち上がった光の柱に焼かれて吹き飛んだ。
「うぇ!?」
眼前を照らす白光に目を白黒させるレティーナ。
「レティ姉! 大丈夫か!? です!」
光の柱——強力な聖属性の攻撃魔法を放った犯人、マリーメアが慌てた様子でレティーナに駆け寄る。
「えっ……だ、大丈夫……です?」
事態をよく呑み込めていないレティーナが疑問形で返事をした。
「怪我は……してねー、ですね。よかった……レティ姉」
マリーメアが神妙な表情でレティーナに語り掛ける。
「は、はい」
「やっぱり嘘はいけねー、です」
「…………はい?」
レティーナは首を傾げた。
「やっぱりちゃんと魔法使えないんだろ、です。見え張って危ないことしちゃダメ、です」
「!?」
まるで聞き分けのない子供でもあやすかのような声音だった。どうやら、レティーナの迎撃の構えを、魔法が使えないことで魔物の接近の許してしまったのだと勘違いしたようだ。
「ち、違いますよー!! あのまま倒せたんですっ!!」
「……レティ姉が頑張ってるのは知ってるから、もう帰ろう、です」
「でーすーかーらー!」
その後も同じような押し問答を続けた末、レティーナがこちらを見た。
「アデム様、リンファ様~!」
泣きそうな表情で助けを求めてきた……。
「なにやってるんだか……」
リンファも呆れ顔である。
ただ、当初のレティーナの有様を思えば、マリーメアの気持ちも理解は出来るんだよな……。このまま放っておいても埒が明かなさそうなので、俺からも言ってみることにする。
「その、なんだ……レティーナのことを信じて見守ってやってくれないか?」
「はぁ? なんでお前なんかの言うことを……」
マリーメアが顔を顰める。何故か最初からあまりいい印象を抱かれていなかったみたいだからな……素直には聞いてくれないか。
「……その程度の信頼なんだな」
「あ?」
どうしたものかと考えていると、リンファがそんなことを言った。
「いや、レティーナのことを随分慕っている風なのに、全く信用していないようだからさ……その程度の信頼関係なのか、と思ってね」
「っ……! マリーはレティ姉のことを心配して……!」
「当のレティーナからすれば余計なお世話なんじゃないか?」
「なッ……!」
マリーメアがリンファを睨みつける。
「リンファ様、そこまでで……マリー、あなたが私のことを心配してくれているのは分かっていますし、嬉しいです。でも、今は少しだけ、私のことを信じて欲しいです」
「う……」
レティーナの切実な訴えに、マリーメアがたじろぐ。
「……わ、分かった……です」
「マリー!」
若干、不穏な雰囲気にもなったが何とか話は収まったので、改めて魔物を探すことにする。
幸い、次の魔物はそう時間を置かずに見つかった。先ほどと同じで小鬼が2匹。同じ流れで、構えるレティーナに小鬼たちが襲い掛かり、
「ほ、【ホーリーバースト】!」
「ちょっと!?」
先ほどと同じように光の柱に飲まれて消えた。まさかの天丼だった。
「もー! マリー!!」
「ご、ごめ……ついっ」
流石に怒った様子のレティーナに手をあたふたさせるマリーメア。
「でもやっぱ危ねー、ですよぉ……」
「本当に大丈夫なんですってばぁ! 信じてくださいっ!」
「うぅ……」
口を尖らせながらマリーメアが頷く。反射的に魔法を撃ってしまった辺り、よっぽど心配なんだな……。
いくら心配でも、こう何度も同じことをされると話が一向に進まない。仕方がないので俺がマリーメアの杖を預かることに(当然すこぶる嫌そうだったが)なった。
気を取り直して3度目になる小鬼との
「ちょ、多くないか、です!?」
「もうこっちからいきますっ!」
「レティ姉!?」
その宣言通り、レティーナは地面を蹴りつけるようにして疾走する。今度は小鬼が気付く間もない程に、瞬く間にその距離を
「しッ!!」
鋭い呼気と共に回し蹴りを一閃。一瞬の静寂。
「……!?」
「…………?」
突如目の前に現れたレティーナの存在に、小鬼が驚いたり、小首を傾げたりと、それぞれの反応を示した後、棍棒を構えて襲い掛かろうとする。
「あぁぁ! やっぱダメじゃねーか! です! 杖返しやがれ! です!」
泡を食ったように、俺から杖をひったくろうとするマリーメア。
「いや、もう終わってる」
「は?」
俺の発言に怪訝な表情でレティーナの方を見るマリーメア。
今にも襲い掛からんとしていた小鬼はしかし、そのままの体勢を維持したまま一向に動こうとしていなかった。
「……? どういう……」
マリーメアが疑問を口にしようとした時だった。
ずるり。
レティーナの目の前、小鬼の群が
そうしてそのまま、ぼとり、とその上半身を地面に落とし、残った下半身も遅れて伏せる。4匹小鬼、そのすべてが真っ二つとなっていた。
「えっ」
「ふふん、見ましたかマリー!」
誇らしげな表情のレティーナ。対するマリーメアはレティーナと小鬼たちの亡骸を交互に見比べて――
「…………えっ」
そんな声を零した。
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