第28話 魔石のつくり方?

《百五十三日目》


 なんだかんだで溜まっていた疲れを癒したあたしたちは、次の行動に出るべく、若い見た目のサージとマーサに見送られてミルスの別邸を出た。

 即ち、ミルスの鉱山の浄化だ。外で増えた魔物を狩り続けるのは時間がかかる。手っ取り早く魔物を減らすのは、魔物の発生源である鉱山の魔素を抑えるのが効果的である。

 ただ、一般的には鉱山の魔素を人為的に減らす手段が無いので、発生した魔物を狩り続ける対症療法しかないのが現実である。

 あたしの魔法で鉱山を浄化するのは簡単だが、一つの問題があった。ミルスでは魔石採掘が大きな収入源だ。魔石は魔素を取り込んでできる石だから、完全に浄化してしまうと魔石が採れなくなる訳だ。

 幸い、サンクトレイルの旅の途中で、魔物の発生源である洞窟を浄化した経験がある。それをベースに加減というものをうまく扱えばいいはず。

 今日は別邸から一番近い、馬の足で半日程度の距離にある、中規模の鉱山でテストする予定だ。

 相変わらず、ブランシュの上でクレアが私の前、ノアールの上ではクレスがシンの後というスタイルで移動。

 魔物は相変わらずあたしたちを避けているが、魔物の数自体はミルスに入ってから圧倒的に増えた感じがする。あたしの〝探知〟範囲に引っかかるほどだ。シンやクレアにはもっとたくさんのものが視えているだろう。

 ミルスという土地は鉱山で有名だから、荒れた山肌を晒したところを連想するが、実際は殆ど森と泉にに覆われた自然豊かな土地柄である。半面魔物も多く、それに対処してきた歴史がある。魔物に対する対応力は近隣諸国でも随一だろう。

 そんな土地柄でも対処できない程の魔物で溢れかえっている。早く鎮めないと他の国への影響が大きい。

 あたしたちは何事もなく、目的地の鉱山に到着した。鉱山の前面には小規模の町とも言える施設が拡がっている。所謂門前町だ。鉱夫たちの宿泊施設や管理する部署が詰める建物が並んでいるが、皆、避難した後で現在は無人であった。

 町に入って、拠点を構える。選んだのは管理部署が詰めていた建物。理由は一番きれいだったから。

 そこで軽く昼食をとってから、鉱山前にやって来た。

 以前見かけたサンクトレイルの洞窟よりかなり大きく見える。

「さて、どのくらいの出力でやればいいかな? クレアちゃん、ここは前に浄化した洞窟と比べてどのくらいの大きさになるかわかる?」

 洞窟の時と比べて試すことは前もって伝えてある。

「そうですね。10倍くらいかと。だけど、あの時は全て吹き飛んだ感じでしたし、半分くらいの力でどうでしょうか。」

「そうねぇ。いや。ここはもう少し慎重にやった方がいいと思うの。足りなかったらやり直せばいいのだし。十分の一くらいの出力でやってみよう。」

 あたしが、慎重な意見を出すと、シンが訊いて来た。

「出力コントロールか。マシロは器用だな。俺は何というか、苦手の様だ。」

「いつもシンの対象は殲滅だもんね。コントロールの機会が無かっただけじゃない? 今度教えてあげる。そんなに難しいことでもないし。」

 確かに、魔物相手だと遠慮は要らないし、対人では基本スキルの剣術だけで十分に対応できる。けど、今後その間を必要とする相手だって出て来るかも知れない。出力操作は覚えた方がいいだろう。

 あたしは十分の一ほどに絞った出力で、〝聖光天臨〟を放った。

「あ。」

 クレアが妙な声を上げたのであたしはドキッとした。

「クレアちゃん! どうしたの? 何か起こった?」

「い、いえ。少し強かったようです。鉱山の中の魔素が綺麗にリセットされました。ご、ごめんなさい。半分の力でいいなんて適当なこと言っちゃって。」

「えええ? あれでも強いの? 結構ビビりながら撃ったんだけどなぁ。」

 あたしが首を傾げていると、シンが感想を言った。

「確かにな。あの洞窟の時は、まさに何かが吹き飛んだもんな。それに比べたら、さっきのは言ってみればちょっとそよ風が吹いたレベルのもんだった。」

「そうですね。けど、感知スキルのないぼくでも感じたのですから、実は結構高出力だったのでは?」

 クレスは普段、魔力に関しては無頓着で、クレアに色々と注意されたりしている。

「大丈夫かなぁ。採掘に影響でなければいいんだけど。」

 あたしが言うと、クレアは首を振って答えた。

「大丈夫ですよ。今ある魔石が消失したわけではありませんし、むしろ魔物がいなくなって採掘し易くなったと思いますよ? 勿論、次の魔石が育つのが随分後になったとは思いますけど・・・」

 微妙なところということか。

「そういえば、あの洞窟はどうなったのかな。やっぱり魔石ごと消失した感じ?」

 あたしが訊くと、クレアは少し楽しそうに言った。

「ふふ。そうですね。ある程度魔石が採れそうな洞窟でしたが、完全に消失したでしょうね。それどころか奥に清浄な泉が湧いているかも知れません。今後何代もの間、あそこで魔素が凝縮されるとは思えません。そのうち誰かが発見して話題になるかも知れませんよ? 清浄な地として聖地化されるかも!」

「え~~? まあ。やらかしたことは黙ってましょう。みんなも協力してね!」

 あたしがそう振ると、みんなは、は~い、と明るく返事してくれた。


        ♢ ♢ ♢


 思いのほか早く終わったので、あたしたちは拠点に帰って、今後の計画をどうするか見直すことにした。

 ミルスの別邸を出る時には、手が掛かりそうなら一旦戻り、順調に行けそうなら領都まで行こうかと、大まかな計画は立てていた。

 クレスとクレアは一刻も早く、両親の状態を知りたいだろうし、あたしもケガを負ったと聞く父親を治してあげたい気持ちがある。

 あたしは正直、こんなにあっさりと鉱山を制圧できるとは思ってなかったから、拍子抜けだった。この調子ならば、国中の鉱山を元に戻すのも手間ではないだろう。

「あたしは、このまま領都まで、途中の鉱山を浄化しながら行くでいいと思う。ちょっと、力加減が難しいけどね。ついでに森の魔物も討伐して行けるんじゃないかな。二人も早く両親の消息を知りたいでしょ?」

 そうあたしが言うと、兄妹が頷いた。そしてシンも同意して言った。

「そうだな。確かに魔物は多いが、マシロのおかげで全く移動に支障は無いからな。それに討伐の事なんだが・・・一つ思いついたことがあるんだ。」

「え? なあに?」

 あたしは言葉を促した。

「ほら。俺の剣で討伐すると自然破壊がひどいじゃないか。」

 まあ、確かに色んなものが爆散しちゃってるね。

「う~ん。そうだね。特に森の中は障害物が多いからね。仕方ないんじゃない?」

「それでだ。今日の鉱山の浄化を見てて思いついたんだが・・・結界の中を浄化できないだろうか。つまり、森の中に結界を張ってその中にマシロが魔法を放つ。そもそも森の中の魔物の大部分は野生動物が魔素に中てられて魔物化したものばかりだろう? マシロの浄化で元に戻るんじゃないかな?」

 シンの言葉を頭の中で再現してみた。

 つまり、森の中で大きなドーム状の結界を張り、その中の魔物を浄化するイメージだろうか。

「うん。イケそうな気がするけど・・ ドーム状の結界を張るにはあたしがその中心にいないといけないから、魔物たちは逃げちゃうんじゃないかな。あ、けどスキル切っておけばいいのか。シンが一緒にいてくれれば大丈夫かな。」

 あたしがイメージを披露すると、シンが答えてくれた。

「ああ、そう。ドーム状に結界を張ってもらって、魔物は外からのみ通過できるように設定すればどうよ。」

「あ、なるほど。つまり魔物ホイホイね。ある程度魔物が溜まったら浄化する感じだね!」

「そうそう! 早速、やってみようじゃないか。ところで魔物ホイホイってなんだ?」

 そういえばシンはあたしとは違う世界の人だったっけ。翻訳が難しいのはそのまま伝わるみたい。

「えとね、シンが言った様な自動捕獲システムのことよ?」


        ♢ ♢ ♢


 あたしたちは拠点からそう離れていない森の中に来ていた。

「さぁ。張るよ? 最初は50メルテくらいの大きさでやってみよう。」

 あたしは、今や結構思い通りの結界を張れるようになっていた。大きさも結構いけると思う。

「ああ。やっぱり綺麗。わたし、マシロさんの結界キラキラしてて大好き。」

 クレアが上を見上げて言った。あたしも少しは見えるけど、クレアにはどんな景色が見えてるんだろう。因みに、シンやクレスには結界に魔物が干渉した時にしか結界の存在は見えないみたい。

 次に、あたしたちはスキルを切って、来た道を引き返す。元々密度の高い魔物たちは、一斉に流れるようにこちらに向かって来た。

 結界ドームにどんどん入ってくる。あたしたちは結界の外側端っこに待機していると、結界内に100体程入ったところで、背後からも魔物が接近してきた。その時点でスキルを解放し、魔物を追い払った。結界内の魔物たちも反応したが逃げられない。

 あたしは続けて結界内に浄化スキルを放った。適当な出力で撃ってみたら、結構な衝撃波が感じられた。物理じゃないのに衝撃波が生じるのはどういうこと?

「あ、うさぎさん・・」

 クレアがある方向を指差して言った。見ると、小さなうさぎが結界を通り抜けて外に出、きょろきょろして跳んでいった。

 結界の中は、多くの動物が倒れているが、小さなものから息を吹き返し、結界から外に出て去っていく様子が見て取れた。

「どうやら成功のようだな。魔物化が解かれたショックで気を失ってる様だが、小さいものの方がダメージが小さいようだな。」

 シンが観察した様子を言葉にした。

 それからあたしたちは、回復した動物の名前を教え合いながら、その様子を観察し続けた。

 半刻ほどで、最後のクマに似た動物が息を吹き返したところでシンが言った。

「みんな魔物化が解かれた様だな。死んだ者もいない様だ。マシロのスキルが有効なことが証明されたな。」

 それを聞いたクレスが感想を述べた。

「こんな方法があるとは。けど、マシロさんにしかできない技ですから、広められないですけどね。」

「そうだねぇ。じゃあ、あたしがいる間に、必要なところは浄化しちゃおう! それにしてもシンのアイディアは大当たりだね!」

 そうあたしが言うと、シンはにっこりと笑って返した。

「ああ。良かった。これで無駄に動物たちを殺さずに済むし、森だって破壊しないで済む。マシロさまさまだよ。」

(そっか。シンの魔物討伐は、依り代の動物も殺すことになるんだった。気にしてたんだな。)

 あたしはシンに近付きそっと腕に触れた。シンは嬉しそうに頷いた。

「よし! 俄然やる気が出て来たよ。 次にいってみようか!」

 シンの役に立てることを認識したあたしは、張り切って森の浄化を進めた。やってみて分かったことだが、あたしは相当広い結界が張れるようだ。何回か、浄化を繰り返した後、クレアに訊いてみた。

「クレアちゃん。この周り、クレアちゃんの感知内に人はいる?」

 あたしはクレアの感知範囲の広さ同等に結界を広げることにした。大体半径1万メルテになる。浄化スキルは人には影響を及ぼさないとは思うが、証明はされていない。何の影響が出るかも分からない。

「はい。人はいません。そしてここは魔物が多いです。」

 クレアも慣れて落ち着いたものだ。

 中心で結界を張った後、1万メルテの距離を結界の外まで退避するのは結構大変だ。だが、ここまでやってきてひと工夫があった。ドーム結界の中心でしか張れないのなら、張った後にあたしたちの周りだけに小さな結界を張ればいいじゃないか。こんな単純なことを提案してきたのはクレスだった。よく気が付く子だ。

 今日の最後は街道にあるトーチカを中心にやることにした。浄化をした後はここに泊まりだ。

「よし。いっくよ~!」

 あたしは気合を入れて結界を広げた。

「凄いな、マシロ。俺にもその魔力の動きが感じられるほどだ。」

 シンの言葉にクレアが反応した。

「本当に。辺りの魔素がどんどん消費されているのが分かります。あれ? 魔物の反応も減ってますね。逃げてるんではなくって。ああ、これは魔素を吸われてますね。浄化と同じ反応です。すると、浄化って魔素を吸い出されるってこと? ううん?」

 クレアが何だか自分の考えに気を取られている。頬に手を当てて首を傾げている。

「クレアちゃん、このくらい?」

 結界の広さはクレアにモニターしてもらっている。

「はい。丁度です。」

『ピロン! スキル〝結界〟のレベルが20になりました。上位スキル〝聖櫃〟を獲得しました。聖女クラス43になりました。』

 なんか、久しぶりにクラスが上がった。

「ふう。じゃあ、トーチカに入って夕食にしましょうか。そのうち魔物が沢山集まって来るから。」

 折角なので、あたしはトーチカの周りに〝聖櫃〟を使ってみた。辞典で調べてみると、〝結界〟が阻むのは物理だけに対し、〝聖櫃〟は何でも阻むらしい。例えば魔法攻撃とか。魔物が魔法攻撃をしたことは見たことないので、効果を実感することは無いと思うが、今後、例えば対人戦があったとしたら役に立つかもしれない。

 あたしたちはゆっくり食事をして、いつもの通り、ゆったりと団らんして過ごした。

 あたしはふと、外の様子が気になった。

「なんか、静かすぎない? いつもの避難小屋だと、夜はもっと賑やかだったよね? ちょっと見て来るね。」

 あたしはトーチカを出て外壁に近付き、のぞき窓から外を見てみた。

「なんだこれ・・・」

 見ると、視界が魔物で埋め尽くされている。改めて〝探知〟を発動させると真っ赤っかだった。

「きゃあ!」

 クレアの声だ。慌てて戻ると、クレアがびっくりした様子で震えている。あたしの様子からも察したらしいシンが説明してくれた。

「俺も確認した。見たこともない数の魔物だ。マシロが様子を見に行ってすぐにクレアもスキルを発動したら、集まった魔物の魔力に中てられたようだ。」

 最近は慣れて来たこともあって、食事中や寛いでいる時は、皆、感知系スキルを切っていることが多い。しかし、今回色んな事に気付かなかったのは、初めて張った〝聖櫃〟の効果で、音や気配も遮断したところが大きい。

(新しい結界は使いどころを選ぶかなぁ。)

「とにかく、さっさと浄化しちゃいましょう。クレアちゃんも少しの辛抱だからね。」

「わたしは大丈夫です。ちょっとびっくりしただけだから。それにしても凄い魔素量。なんか勿体ないな、とか思っちゃったり・・・」

(怯えてる訳ではないのか。それにしてもクレア逞しくなったなぁ・・・)

 何となく子供の成長を見るようで嬉しい。

 すると、シンが顎に手を当てながら考える様子で言った。

「確かにな。これだけの魔力を有効活用できたらって思うよなぁ。この国では魔素と呼ぶんだっけ。魔力というものに対し物質的な表現をしてるよな。つまり、魔石に充填する〝もの〟として意識しているからだと思う。魔素自体には有害な要素はないけど、魔物を生み出し人が襲われることで負のイメージがあるに過ぎない。う~む。」

 シンが色々と考え出した。こうなるとこれまでの経験上、暫く還ってこないかもしれない。

(魔素の有効利用かぁ・・)

 あたしはクレスとクレアに訊いてみた。

「ねえ。魔石って具体的にはどうやってできるか知ってる?」

 それにはクレスが答えた。

「はっきりとした答えは得られてないのですが、説としては二つ。一つは鉱山にある魔素と相性のいい石の中に長い年月をかけて濃縮される、というのと、魔素自体が凝縮して石になるもの、と言うものですね。」

「ふ~ん。凝縮されるという点は共通してるのね・・」

 何かいいアイディアが浮かぶかと思って、あたしもシンを真似して顎に手を当て考えるポーズをしてみた。

 そうすると頭の中に閃いたではないか。

「いいこと思いついた。ちょっと出てくるね。」

「ちょっ! ちょっと待ってください! シンさん、シンさん、マシロさんが出て行こうとしてますよ!」

 クレスが慌てて、シンの意識を引き戻す。

「マシロ! どうしたんだい?」

「ちょっと実験。魔素の有効利用をしたいんでしょ? できるかどうか分からないけど、ちょっと試したいことがあるの。」

 あたしはトーチカの外壁に上って、スキルを解放した。すると、あれだけ密集していた魔物たちがあたしの前を避けて、逃げていくようにいなくなった。とは言え、逃げるスペースも少ない現状では結構至近まで魔物の壁がある。外に出るにあたって、シンが一緒に来てくれるのは正直心強い。

 少し歩いたところで、半径10メルテほどの覚えたばかりの〝聖櫃〟を設置して、境界まで戻る。そして、そのサイズを小さくするように意識した。ドーム状の結界だが、実際には球状であり、半分は土の中だ。土や水などは阻害しない様設定しながら、更にサイズを小さくしていく。

「よく見ないが、張った結界を小さくしているのか? もしかして空間に漂う魔素を封じ、それを圧縮しているとか。」

 シンが答えを言ったので、あたしは頷いた。

「うん。そうだよ。これで魔素を凝縮できたらって。実験ね。」

「なるほど。だが、魔素は結界を通り抜けるんじゃなかったっけ?」

「そうなんだけど、さっき上位スキルを獲得したんだよね。使えるかと思って。」

 早速、シンは検索をかけているようだ。そして小さく頷いて言った。

「おお。なるほど。なんか行けそうな気がする!」

 そうしてるうちに結界の縮小具合に抵抗をもってきた。

(あ。空気か。)

 物理要素を除いたつもりだったが、空気も物理的な存在だった。空気が圧縮されて抵抗になっていたようなので、結界を通過するよう設定した。すると抵抗がなくなり、どんどん結界の縮小が進む。

「ええ~? 無くなっちゃわないかな。」

 あたしは、小さくなっていく結界を追いかけ、遂には手のひらサイズになった結界の下に手を差し伸べる。

 そこからは、暫く大きな抵抗に会い、少し時間がかかったが、遂には紫黒色の結晶が手の平に落ちた。綺麗な真珠大の結晶だ。

「ちっさ!」

 思わずあたしから出た感想がそれだった。シンが横からそれを覗く。

「取り敢えず成功みたいじゃないか。さすがだな。持ち帰ってクレアに診てもらおう。魔素の事だから何かわかるかも知れない。」

 あたしは頷いて、トーチカに戻った。


        ♢ ♢ ♢


「これ・・ 間違いなく魔石ですよ? それも凄い純度の高い・・ ああ、綺麗。」

 クレアが目を丸くしてあたしが持ちかえった石を眺めている。

「ねえ、ねえ。クレアちゃんって魔石の鑑定ができるの?」

 あたしはクレスの耳に口を寄せて訊いてみた。

「ああ、クレアは母上に似てまして、小さい頃から母上と同じ、精霊の加護があるんじゃないかって言われてて。母上は魔石の鑑定ができるんですよ。かなり精度の高い。それで、クレアも母上に付いて教わっていたことがあるんです。まさか本当に母上と同じスキルに目覚めるとはね。ぼくもびっくりです。」

 そうクレスがあたしを真似て、耳打ちしてくれた。中に興味深い新情報があったけど、〝精霊の加護〟てなんだろ? あとで調べてみよう。

「じゃあ、あたしの実験は成功ってことね! けど、こんな小さいのしかできないんじゃイマイチよねぇ。」

 そうあたしが言うと、とんでもないとばかりにクレアが言った。

「いえ! これだけの純度の魔石はなかなか見ません。普通に手に入る魔石だと、頭くらいの大きさの魔石と等価かと思います。」

「へ、へえ・・ そうなんだぁ・・」

 あたしはどれだけの価値か今一つ把握できなくって、生返事をしてしまった。するとシンが声を上げた。

「よし! ついでだ。マシロ。もう一回行こうか。今度は俺の実験に付き合ってくれ。」

 シンに促されて、あたしたちは再び魔物がひしめき合う外に出た。

「内側の結界に魔物を阻害しないように設定したらどうだろう。そうしたらもっと広範囲に張れるんじゃないか? そうしたらもっと多くの魔素を凝縮できる。どうだ?」

 歩きながら、シンがそんな提案をしてきた。

「う~ん、そうね。やってみよう。」

 あたしは魔物を含む領域に〝聖櫃〟を張った。それに先程の設定に加え、魔物を通過できるようにした。そして結界を小さくしていく。

「あら? 魔物が通過できないね。あ、あっ! このままじゃスプラッタになっちゃう!」

 あたしは慌てて結界を解除した。それを見たシンが言った。

「ふむ。どうやら、魔物は魔素寄りの存在みたいだね。結界で動物を分離するのはだめということか・・ よし! 次は跳ぶからね。上空の空間に結界を張ってくれないか? 結界の高さは1万メルテくらいあるんだろ? 跳んだ高さくらいの半径で頼む。」

 すると、シンはいきなりあたしをお姫様だっこして跳び上がった。

「ちょっ! ちょちょちょちょっとぉ! きゃああ!」

 あたしは突然のシンの行動に動転して悲鳴を上げた。どんだけ跳ぶんだ。改めてシンの勇者ぶりを感じた一瞬だ。

「さあ! ここらで頼む。」

 シンが涙目のあたしを覗き込んで言った。その余裕のある目を見て、あたしは少し冷静さを取り戻し、再び〝聖櫃〟を張った。

 と、思ったら、落下が始まる。お腹がきゅーんとなった。

「きゃあああ~!」

 着地。だけど、あたしはがっちりとシンにしがみついて離れられない。体が固まってしまった様だ。

「ああ、すまない。少し怖がらせてしまったかな?」

 シンが優しく耳元で囁き、頭を撫でてくれたことで、ようやくちょっとだけ落ち着き、シンの腕から離れることができた。

「もう! いきなりはやめてね! 心の準備というものがあるんだからね!」

 あたしはシンを恨めしそうに睨みながら文句を言ったが、お姫様だっこも悪くなかった。まあ、チャラにしておこう。

 そうすると、シンは頭を掻きながら言った。

「悪かった。そんなに怖がるとは思わなかったんだ。ところで、結界はどんな感じなんだ?」

 シンが上空を見て訊いて来たので、あたしも上を見上げた。

「そうね。半径大体100メルテくらいの結界になったよ。ってか! そんなに跳んだの? シンのスキル凄いね。」

 そう言いながら結界の収縮を始める。球状結界は中心で固定することになるので、設置したところを中心に収縮していく。

 暫くすると、魔素が凝縮していく独特な光が見え始めた。当たり前だが、大きい結界を張ったので、最初の時よりも光が強くて大きい。

 前回と同じで、凝集の抵抗があった後、ふと光が無くなった。

「できたみたい。結界を解くよ?」

 何しろ結界の中心が100メルテも上空にあるものだからよく見えない。手を翳して上を眺めていると、何か凄い勢いで降って来た。

「ぴえっ!」

 ちょっと変な声をあげてしまった。落下物はすぐそばでドカンと大きな音を出して、土煙を上げている。

「危なかったな! 落下点を見誤った様だ。すまない。」

「いやいや。シンが謝ることないよ。あたしもボ~っとしてた。」

 見ると、拳大の魔石が土に埋まっている。それを拾って、クレアに見せに戻った。

「まあ! これは! 凄いです。ひと財産ですね。普通の人が一生食べていけるほどですよ! それにまん丸でとても綺麗。」

 クレアに見せると、そんな答えが返って来た。

「なるほど。魔石の作り方は分かった。けど、結構面倒ね。いちいち跳ぶのも心臓に悪いし。今日はもう寝ましょ。明日の朝一番に浄化しちゃって次に行きましょう。」

 あたしは、ちらっとシンの顔を一瞥して言った。

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