作戦勝ち

「やったか……?」


 手に伝わる感触からは、相手の動きが全く見えない。大斧を退かそうとも、弾こうともしなかった。ピクリとも反応がないのだ。渾身の一撃を加えたのだ。しかしまさかもう戦闘不能に……?と疑ったが、その疑いは正しいものだった。


「装填・精密射撃」


 パンッと乾いた発砲音が響いたと同時に、ダリアの胸部に圧迫感のような衝撃が襲った。との拍子に体もその場から弾かれるように飛ばされ、突然のことで何が起きたか理解が追いつかず、ただただ襲う胸の苦しさに息を詰まらせた。


「……っかは!」


 よろけた体制を整えて視線を先程までいた位置に向ける。徐々に晴れていく土埃の中から、魔法銃にこちらに構えるセトの姿がそこにはあった。ガイの爆発魔法をモロに食らい、渾身の一撃を加えられたはずなのに彼は全くの無傷だった。


「ありがとう桝花、助かった」

「このくらい任せよ」


———あのエルフ族が防御結界マジックバリアを使ったのか!


 恐るべき反射速度。さすがは魔法に長けたエルフ族といったところか。

 息の荒れるダリアに治癒魔法がかけられ、息苦しさが和らいだ。グロシアとガイがそばに駆け寄る。


「あの盗賊、魔法銃も使うのか。短剣と二刀流で厄介だな」

「うん。大斧のリーチが活かせない……けどあの魔法銃は使用者の魔力を圧縮して放たれるものだね。魔力量の少ない盗賊には撃てる回数は限られてる。積極的に使わせて魔力切れを狙おう」

「でもそれには……あのエルフ族を先にやらないと勝ち目はなさそう。ガイの魔法が防がれちゃうし治癒魔法ヒールみたいな初歩的な魔法も使えるはず。治療されたら押し負けちゃうかも」


 この考えは皆同じ考えのようだった。同時付与に次の魔法への展開速度。長年冒険者を続けてきたが、これらを兼ね備えた魔導士は前衛で戦う者にとって、最高のサポーターだと称賛に値するものだ。

 おそらく彼女が勇者イリヤパーティーの要。その要を先に抑えなければ勝ち目などないに等しい。


「私とガイで盗賊を引きつける。サポーターに徹しているなら、前衛で戦う盗賊に気を取られるはず。その隙にグロシアはエルフ族を攻撃して。ついでに盗賊の魔力切れも狙おう」

「分かった」


 少しの作戦会議を終え、すぐさま次の攻撃に備え待機する。この作戦を気取られぬよう、相手に考える間を与えることなく再びダリアは大斧を振りかぶった。ガイもタイミングを合わせて魔法を展開する。


「兜割り!」

炎の玉ブレイズ!」


 セトの正面からは大斧が、背後からは炎の玉が迫りくる。背後の炎は桝花の防御結界に任せ、大斧を短剣で受け止めた。そして大斧を振り切った直後の僅かな隙に魔法銃を構える。


「装填・連続射撃」

「くっ!」


 至近距離で連続で発せられる射撃をすんでで躱す。防御結界に弾かれた炎がセトの背後で霧散した。


「まだまだ!」


 負けじと攻撃を仕掛ける。短剣と大斧では圧倒的にリーチの差があり大斧の方が有利だ。そのリーチを埋めるために彼は必ず魔法銃を撃ってくるはずーーーその予想は当たり、ダリアが大斧で攻撃を仕掛けるたびにセトは魔法銃を撃ってきた。

 大斧で、魔法で攻撃を与える。どれも防がれ通ることはなかったが、この作戦の本当の目的はエルフ族の集中を盗賊のサポートに向けることだった。ガイとグロシアは目を見合わせる。そして。


爆破メテオ!」

聖なる槍ホーリーランス!」


 同時に魔法を展開する。セトの周りには圧縮された魔力が弾け、桝花の頭上には光が集まり鋭さを帯びて彼女に降り注ごうとしていた。


「魔法の展開速度は速いが同時に2人は護れないだろう!」


 自身を護れば盗賊が、盗賊を護れば自身がダメージを負う。この戦闘中は盗賊の方に集中して防御結界を展開していた。咄嗟に盗賊への防御を外し、自身を護るために再び防御結界を展開できるほど機転を効かせられなければ、先に倒れるのはエルフ族だ。

 そして展開される間もなく降り注がれる光の槍。


「桝花!」


 盗賊がエルフ族の名前を叫んだ。盗賊はエルフ族の防御結界により爆破から護られている。


ーーー取った!


 3人ともそう確信した。僧侶は回復や付与などの支援がメインの職だが、光属性の魔法に関しては非常に威力の高い攻撃ができる。先ほど放った聖なる槍ホーリーランスも光属性の魔法だ。それが直撃したら軽いダメージだけでは済まないことを、彼らは知っている。


 しかし、


「これで終いか?」


 3人の周りに圧縮される魔力。それは盗賊ごと巻き込んでーーー爆ぜた。


大爆破グランド・メテオ


 それは爆破メテオの上位魔法だった。その爆破は3人が防御する間もなく爆ぜ、直撃し真正面から受けてしまう。


「ぅあっ……」


 立ち上がる力もなく膝から地面に崩れ落ちる。それは3人皆同じで視線を向けると倒れていた。


ーーー何故?聖なる槍ホーリーランスの威力が足りなかった?いやそれよりも盗賊は?盗賊も巻き込んで爆破されたが……あの男はどうしている?あの男のタダじゃ済まないはず、なのに、なのにどうしてーーー……


 ダリアは目の前の光景を信じることができなかった。上位魔法を味方ごと展開し、巻き込まれた盗賊は防御できなかったはずだ。魔法系の職業でない盗賊が防御結界マジックバリアを張れるはずがない。あれを防ぐ術はなかったはず。それなのに。


 セトは無傷でそこに立っていた。埃ひとつ彼に付かず、泰然自若とした佇まいでそこに立っている。


「ど……して」

「さすがに味方を巻き添えにするわけないだろう。セトには防御結界マジックバリアを張った上での攻撃だ」

「俺だってこんなところで自分を犠牲にするつもりはないね。ま、その様子を見る限り俺たちの作戦は成功ってことでいいかな?」


 作戦?と疑問が表情に出ていたのか、セトが話を続けた。


「俺が退避すればあんたたちは『何か攻撃が来る』って予想ができるだろ?そうすれば簡単に防がれるからな。だからあえて俺ごと撃ってもらったってこと」

「故にお主らを油断させるために我はサポートに徹し、セトが囮となって攻撃を引き受けた。そうすればお主らは我を厄介と見て我を先に落とそうとするだろう。あえて聖なる槍ホーリーランスを受けたのもそのためだ。セトが囮になったのも勇者であるイリヤより、先に周りから落とした方が勝機があると普通は考えるからな。セトが囮になるには良い条件だっただろう」


 つまり、2人の仕掛けた罠にまんまと嵌ったわけだ。油断を誘いここぞという場面で考える暇を与えず攻撃を仕掛ける。敵ながら見事な作戦だ。もうダリアたちに起き上がる気力もなく、力無く地面に伏せた。その様子を見て、セトと桝花は3人が戦闘不能だと判断する。


「イリヤの方はどうなったかな」

「我らも加勢しよう」


 くるりと踵を返し倒れる3人に背を向けイリヤの方へ視線を向けた。

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勇者だけど勇者パーティーから追放されました 歩火 ユズリ @Arukibi

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