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翌日、ケンが寄って来て弁解しまくった。SNSも通話もすべてブロックしたからだ。
涙を自在にあやつる男は、さっそく
口もきかず顔をそむけ、社長室へ行った。クラブJOYと縁を切りたいと言った。
源田社長の態度が豹変した。カネを返せと言う。受け取った前払金は、拘束料込みだというのだ。その他にも小遣いをもらっている。母の入院やらで家計の足しにしたから、ほとんど残っていない。
おカネは怖い。縛られて身動きできなくなる。いわれのないおカネはなおさらだ。女医の封筒を受け取らなくてよかった……
「働いて返しな。給料から天引きだ」可愛がっていた犬に手を咬まれた──そういう顔をして社長は告げた。
逆らえない。取り巻き連中がヤバい。指定された店で働くしかなかった。
ケンの豹変ぶりはそんなもので済まなかった。もうワタシのカラダで遊べないとわかると、モンスターが皮膚を破って表に出てきた。別人のような野卑な人格を露わにした彼は、ワタシを下女のように顎で使った。重量物を運ばせるのも、男性従業員でなくワタシに命じた。
源田社長に店を任されるのも悪くない。手っ取り早くおカネが稼げる。最初のうちはそんなことも思っていたが、このとき考えが変わった。
やっぱりお陽さまの下で生きていたい。ケンと同じ世界に棲むなんてごめんだ。
ワタシは、もう一度、真摯に学業と向き合った。
看護学科に進むと決めてからは、一心不乱に勉強に集中した──
***
雪ちゃんはハンカチを顔に当てて嗚咽を
高校生が経験するような世界じゃない。別世界の物語を聞いたようだ。
「そんな状況で、あそこまで成績上げたんだ。流美ちゃん、すごい」涙声で雪ちゃんが言う。
「ホントにそうだ。アネゴ、えらいなあ。オレなんか潰れちまうよ、ぜったい」
「ごめんね、嫌なハナシ聞いてもらって。でも、なんだかすっきりしちゃった」ふっ切れたように爽やかな声で言った。「待ってて。何か飲みものでも買ってくる。聞いてもらったお礼」
「あ、オレが運ぶ」立ち上がりかけるが、
「いいからいいから、ちょっとだけでも二人きりで居なさいよ」コンビニの方角へ駆けていった。
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