家出少女





我が家近くのコンビニ(徒歩30分)の駐車所はやたらと広い。


クソ田舎にあるコンビニあるあるで運送トラックが立ち寄ること率が高い。長距離ドライバーに休憩は必須。頻繁に運ちゃんが車内で食事をとってる姿や寝ている姿を見かけた。


あと単純に土地が余りまくってるとか、そんな立地条件も相まって田舎のコンビニの駐車場はやたらと広い。都会に行けば駐車場が無いコンビニだってあるのにね。


そんなやたらと広い駐車場には様々な人が訪れる。


大型トラックを初め、走り屋のバイクがズラリと並んでいたり、ガラの悪い連中が地面に直に座って酒盛りをしていたり、果てはテントが立ててキャンプしているアンポンタンも居たりふる。




「おいオマエ。こっから家近い?」




夜中に不意にアイスが食べたくなったのでフラりとコンビニまでアイスを買いに来た。フラりというには距離は結構あるのだが。食べたくなってしまったのだから仕方無い。


お土産として我が家に住まう可愛い人外少女達全員分のアイスも買ってコンビニの店外に出たところで気がつく。



アイス、溶けるな(片道30分)。



夏の夜。当然ながら。クソ暑い。


蓬くん心の一句。


確実に買ったアイスは帰宅までに溶けてしまうだろう。なんでこんな簡単なことに気が付かなかったのか。それもこれも夏の暑さが悪い(責任放棄)。


クソボケ冷凍ババアをチルドボックス代わりに無理矢理連れてくればよかったという後悔と共に途方に暮れていたーーそんな時に声をかけられた。



へそ出しパンクファッションに地雷系メイク。クマ隠しの為か、やたらと濃い赤黒アイシャドウ。手首は包帯でぐるぐる巻きになってる。多分、包帯の下はリスカの跡とかありそうな雰囲気。


パッと見の感想は、まあ、ヤンキーの彼女って感じの女だった。




「で?」


「まあ、近いと言えば近いかな」




徒歩30分は近い方(断言)。




「なら今晩泊めろよ。お礼してやるから」




ヤンキー彼女は右手の親指と人差し指で輪っかを作り、左手の人差し指をその輪っかに出し入れする。ナニを連想させる卑猥なモーション。


その動作で彼女の言うとは何なのかを察する。これはビッチですね。分かります。



うーん。どうしたもんかな。



見てくれは悪くは無い。化粧はケバいが。素材がいい。スタイルも引き締まってーーいやこれ肉ついてないだけだな。


泊めてやるのはいいけど……。如何せん、ヤンキー彼女に対して全くと言っていいほど興味が湧かない。


ということは、この女はただの普通の人間だろう。混ざりモノの気配も感じられない純粋な人間。




「オマエどうせ童貞だろ?オレが筆下ろししてやるよ」


「童貞ちゃうわ」


「嘘こけ。オマエからは童貞臭さが滲み出てんだよ」




口が悪いし、やたらと上から目線だし、人の事を何か知らんが童貞呼ばわりするし、なんなんこの女?そんな高圧的な態度取られるとコッチのボルテージが上がっちゃうんですけど?


あっ、でもアレだ。よくよく思い返してみると普通の人との経験が無い。ある意味童貞かも。これが所謂、素人童貞?いやちょっと違うか。




とりあえず、お持ち帰りすることにした。











「なんか聞かねーの?」


「興味無い」


「…………ふーん」


「アイス食べる?」


「貰ってやるよ」


「はい」


「うえ……。溶けてんじゃねえか。クソが」




ドロリと溶けたアイスがヤンキー彼女の手を汚す。それを眉間に皺を寄せながら振り払う。


コンビニからの帰路。街灯すらない暗いあぜ道をヤンキー彼女と並んで歩く。セミの大合唱が非常にやかましい。




「つーか。どんだけ歩くんだよ。オマエ、家近いって言ったよな?」


「もうちょっとで着くから」


「チッ……。童貞死ね」




セミよりなにより隣のヤンキー彼女がとてもやかましい。


不平不満を我慢することなく口から漏らしつつも、ヤンキー彼女は黙々と歩く。


ワンチャン嫌になって帰らないかとも思ったがヤンキー彼女に帰ろうとする気配は無い。なんか帰りたくない事情があるんだろうね。あと単純に帰る場所すら無いか。知らんけど。興味もない。



これ相手に果たして愚息は元気になってくれるであろうか。厳しいなあ。もう既にガン萎えですもの。なんとか気分を盛り上げるしかあるまい。











ーー名前は?



「エリザベス」



ーーそれ偽名でしょ?



「名前なんかなんでもいいだろ」



ーーどっから来たの?



「なんでそれに答えなきゃなんねえの?」



ーーこういうことよくするの?



「まあな。家には帰りたくねーし。よくやる」



ーー男性経験ある?



「あるに決まってんだろ。童貞くんと違ってな」



ーー経験人数は?



「ヤッた男の数なんて覚えてねーよ」



ーー恋人は居る?



「居るだろ、普通。ケンカ中だけどな」



ーー恋人居るのにこういうことするんだ?



「浮気だって言いてーのか?そんなこと知るかよ。誰とヤろうがオレの自由だろ」



ーー彼氏くんに申し訳ないとか思わないの?



「アイツだって浮気すんだからお互い様だろ……ーーつーか、なにこれ?こんなことしてないで、さっさとヤルこと済ませろよ童貞」



ーーうーん……。それじゃ。そろそろ始めるかー。











ヤルことはヤッた。




「男なんざ馬鹿みてえに腰振るだけのクソ野郎ばっかりだ」


「そうだね」


「その中でもオマエは飛びっきりのクソ野郎だ」


「そうだね」


「オマエはオレのことを何一つ見てやしねえ。興味も関心もねえ。意識すらしてねえ」


「そうだね」


「チッ……。作業みてえにしやがって……。これじゃ気持ちよくもなんともねえ。クソみてえな気分だ。オマエみてぇなヤツは初めだよ」




そうは言われましても、普通の人間じゃあんまり興奮出来ないからなぁ。これでもなんとか頑張ったんだけども。ご満足頂けなかったようである。




「オマエ……一体何者なんだよ」




何者、ね。ちょっと精神汚染されただけの普通の人間なんだけどけね。




「エリザベスちゃんさぁ」


「なんだよ」


「もしよかったら人間やめてみない?」




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