第13話 フドウの里の文化


 「そもそもここに来たのは武具の整備なんだろ? 俺が見てやるよ。春雪しゅんせつは俺が打った刀だしな。これも縁だろ」

「春雪が? そうなんですね」

「おぅ、シュエンに初めて渡した刀だ。思い出深けぇ刀だよ」

 

 武器と防具をヤンガスに渡した。鍛冶屋街の代表を名乗る男に直接武具を見てもらえるチャンスだ。

 ヤンガスは厳つい顔で、武具を睨みつける様に点検している。


「おいおい、大陸ってなぁろくな鍛冶がいねぇのか? 刀が泣いてらぁ」

「オレの故郷の鍛冶師が、春雪を見て感心してましたよ。二級品でも上位だって」

「なん……だと……?」


 ヤンガスのこめかみに、癇癪筋がくっきりと浮き上がった。


「大陸の鍛冶ってのは腕が無ぇうえに見る目も無ぇのか! こいつが二級品だとぉ!? 自分の腕の悪さで価値下げてるのが分からねぇのか! ふざけるんじゃねぇぞ!」


 鍛冶場に怒号が響き渡り、鋼を打つ金属音が止まった。


「こいつは置いていけ。文句なしの一級品に研ぎ直してやる」


 春雪は一級品の刀らしかった。だとしたら、ダンの武器を見る目は節穴だったらしい。


「長旅くたびれただろ? ゆっくり休みな。飯が出来たら声をかけるから、先ずは風呂に入るといい」


 武具を後ろに下げ、よく通る声で後方の鍛冶師達に向けて叫んだ。


「おい! こいつらを部屋に案内してやれ! その後は風呂だ!」

「へいっ!」


 屋敷の入口で靴を脱ぐよう促され、裸足で中に入る。

 部屋に案内された。里長の部屋と同じ、何かの植物の敷物だ。


「すみません。この敷物は何ていうんですか?」

「あ? 畳の事か?」

「タタミって言うんですね。落ち着くいい匂いだなと思って」

「イグサの匂いだな。俺もこの匂いは好きだよ。風呂はさっき言った通りだ、ゆっくり休んでくれ。女はこっちだ、ついてきな」


 エミリーは別部屋に案内される。

 悪人に拐われていく少女のように。


「ふぅ……職人気質で無愛想だけど、みんな良い人だな」

「うん、厳つい人達に囲まれて観光どころじゃ無かったけどね……」

「まさか、里長自ら指導してくれるとはな」

「僕達もう一段階強くなれそうだね」

「だな。よし、風呂に行こうか!」



 脱衣所で服を脱ぎ中に入ると、大陸とは全く違う風呂に戸惑いを覚えた。

 

 体を綺麗にした後、木製の浴槽に浸かる。

 いい湯だ。しかも木のいい匂いがする。


「これは素晴らしい……文化によって風呂まで変わるんだな」

「ここは、自然由来の香り楽しむ文化があるね」

 

「あの湯気が漏れてる扉はなんだ?」


 扉を開けると、植物の香りの湯気がモクモク出てくる。中の椅子に座った。


「なるほど、この国のサウナだね」

「湿度が高いな。前が見えない」


 程よく汗が出てくる。

 後で聞くと、薬草蒸風呂と言うらしい。お湯も蒸風呂も素晴らしかった。


 風呂から上がって部屋でゆっくりしていると、ご飯が出来たとお呼びがかかった。


 木の板が張られた長い廊下を進み、大部屋に案内された。

 ヤンガスを正面に、弟子達が左右に向かい合って、小さいテーブルが並んでいる。お膳と言うらしい。各人の前の膳に料理が綺麗に盛り付けてある。

 皆既に席についている。エミリーもヤンガスの近くに、緊張の面持ちで正座している。


「おぅ、ここに座れ」

「すみません。いきなり押しかけたうえ、お風呂にご飯まで……」

「気にすんな。シュエンには世話んなったからよ。酒も用意してある、楽しんでくれ。よし、食うか!」


 宴会が始まった。

 海の幸をふんだんに使った料理だ。生魚の切身が美しく並び、焼き魚や獣の肉も綺麗に盛り付けてある。

 見た目を楽しむ食文化なのだろう。二つの椀には、見たことのない食べ物とスープ。


 ――二本の棒があるけど、これで食べるのかな……。


 周りを見渡すと、皆器用に食べている。

 ハシと言うらしい。持ち方を教えてもらうが、これは慣れが必要だ。

 スープを飲むのにスプーンを探すが、椀に直接口をつけて飲むスタイルらしい。

 食文化は各町それぞれだ。


「ヤンさん、この黒い液体は何に使うんですか?」

「あぁ、醤油だ。刺身に付けて食え。こっちは炊き込みご飯。米っていうこの島で採れる穀物だ。汁はすまし汁だ」


 なるほど、ライスは大陸の物とは形が違う。他は聞いたことのない物ばかりだ。


「サシミ美味しいですね! ルナポートのカルパッチョとはまた違う美味しさだ」

「ほんと! 見た目もキレイだしすごく美味しい!」


 トーマスもニコニコ頷きながら頬張っている。


「そうか、そう言ってくれるとカミさんらも喜ぶわ! よし、飲め! 米で作った吟醸酒だ」


 美味い酒だ、香りがいい。この国の香りはユーゴを落ち着かせる。龍族の血なのだろうか。


「おい、シュエンは元気か?」

「父は一月ほど前に旅に出ました。理由は分かりませんが、置き手紙だけして」

「そうか、気まぐれな奴だからな。何か理由があるんだろ。まぁ、元気でやってるんだろな」


 ヤンガスや弟子達とも仲良くなった。

 突如開催された宴会は、大盛りあがりで終わった。

 

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