第5話 煩悩鹿は駆け抜ける!

 それからリンぜとサナ、そしてソームに連れられて、俺は街を案内された。


 この街は名前を【ガヤール】と言うようで、産業的には中心部にある巨大な鉱山の、【アルテモロン】という希少金属の産出が基幹となっているらしい。

 パン屋、服屋、質屋に靴屋、様々な問屋が存在しているということは、それなりの文明レベルがあるということでもある。


 少なくとも、日本よりは進んでいない。奈良のようにコンクリ仕立ての建物があるわけでもなく、また奈良公園のような大きな公園があるわけでも、東大寺のような巨大施設があるわけでもない。唯一日本に対して越であると言えるのは、せいぜいが道の広さ程度だろう。


「それで~、ここが街のシンボルタワーなのぉ~」


 リンゼが最後だと言って案内してくれたのは、巨大な塔。石造りの塔で、ビル5階建てくらいになる。


「私は狩りの時以外はここで見張りしてるの!」


 サナは自慢気に尻尾を振りながらそう告げる。曰く、街の自警団のために作られた塔のようで、観光客にも開放されてはいるものの、基本としては警戒用らしい。

 日本にも古代からこうした見張り櫓は建てられていたと聞く。


「きれいでしょ~」

「キュイ~……キュ?」


 その景色は、確かに素晴らしいものであった。町中の屋根を見下ろし、かつ俺が居た森まで見通せる。

 だが、その森の方を見ていた時、なにか蠢くものが目に入った。


「すんすんすん……」


 これは……ザーメン臭! イカ臭い!

 うげぇ、という顔をする。すると、二人が俺の見ていた方向へ目を向ける


「わぁ! ゴブリンの群れだぁ~」

「まずい! みんなに知らせなきゃ!」


 また、物騒な事に巻き込まれそうだな……。

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