109. 悪人の末路:この地獄から逃れるすべはない
スクリューが激しく水をかき混ぜることにより生じる爆音を鳴らしながら、一隻の小舟が本島から離れた小島へと向かっていた。
その船の後部座席は鉄格子で囲まれており、中には手錠をつけられた一人の女性が座っていた。ダイヤ達と対峙したローブ三人組の一人、DOGGOのメンバーだ。
「いや……いやあ……」
彼女は恐怖に震えうわごとのように何かを呟いている。
彼女が捕縛された日からしばらく経ち、裁判が終わり彼女の刑が執行される日が来たのだ。
「…………」
「…………」
「…………」
彼女を連行するのは三人の人物。
執行人、副執行人、彼女が暴れた時に取り押さえる役のAランクの人物。
余計な世間話などせず、彼らは忠実に職務を遂行する。
航行は順調で彼女が逃げ出すような様子も無い。
しかし目的の島が見えてきた辺りでそれは起こった。
「出して!ここから出して!あんなところに行くのは嫌!絶対嫌!」
女が鉄格子を掴み暴れ出したのだ。
三人はその様子をチラりと見たが、すぐに興味を失った。Aランクの人物だけは念のため監視を続けているが、特殊な道具によりスキルが使えず身体能力も減少している彼女には叫ぶ以外のことが出来ないと分かっているためそれ以上は何もしない。
「お願い助けて!何でもしてあげるから!私のこと好きにして良いから!」
連行役が男だからか、彼女は己の若さと性を武器に篭絡しようと試みる。だがその程度のアピールで動じるようではこんな仕事はしていない。
やがて彼女はどうあがいても彼らの心を動かせないと察したのか、心の闇をストレートにぶつけるように変化する。
「絶対に許さない!こんな目に遭わせた奴らを全員皆殺しにしてやる!お前らも!島の奴らも!何もかも殺す!殺す!殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」
すると二人の執行人がまたチラりと彼女の様子を確認した。それは彼女の様子を危惧したからではなく、あることを確認するためだった。
再び前を見た執行人達は囚人に聞こえないように小声で話す。
「確認出来たか?」
「はい、私から報告しておきます」
それだけでお互いに言いたいことが分かった。というよりも、それ以外の話題を口にすることを禁止されているため、曖昧な表現でも通じるというだけのこと。
彼らが確認していたのは女の瞳。
その瞳は『殺す殺す』と暴れ回っていた時に赤黒いオーラを纏っていた。
連行途中に瞳にオーラを纏い狂暴になる囚人が最近増えて来ているのだ。それどころか、オーラを纏った状態で犯罪を犯して逮捕される犯罪者も出て来ている。
とはいえ今は力を封じて檻に閉じ込めているため暴れようが関係ない。そしてこの先の
暴れる女を乗せた小舟は、何ら異常なく小島へと到着した。
その小島には小さな建物が一軒だけ建てられている。中には看守の生活場所と、ダンジョンの入り口となる扉がある。
女は小島に着くとすぐに、ダンジョンに入らされた。
ダンジョンに入った直後、床に大きな結界が設置されていて、丁度その真ん中辺りが巨大な鉄格子で区切られていた。
「いやああああああああああ!」
その鉄格子の向こうこそが彼女が罰を受ける場所であり、どれだけ泣き喚こうが構わず中に入れられてしまう。執行人達は彼女が聞いているかどうかなど関係なく、この場所の説明を開始した。
「この結界はスキルを封じ、貴方の身体能力を大幅に低下させる効果があります」
ゆえにすでに手錠や能力封じの装備などは外されているが鉄格子を破壊してダンジョンから脱出することは非常に難しい。
「また、日本で最上位の結界師の力を借りて設置した結界ですので、破壊も出来ません」
結界を無効化したり破壊するスキルは存在するが、結界の強度があまりにも高すぎるため、それらを鍛えまくったとしてもまず通用しないだろう。それに彼らのステータスは体内に埋め込まれたチップにより随時チェックされており、仮に結界を破壊できる程に育った場合は別のダンジョンに輸送されるだけである。
「一日の中で特定の時間だけ看守がダンジョンの中に入りますので、その時間に合わせて中で採れた魔石を持ってきてください。その量に応じて水や食料や装備などを支給します」
つまり女はこれからダンジョンの中で魔物を狩り、ドロップした魔石を持ち帰り食糧などと交換して生きていかなければならない。毎日、休日も無く魔物達と戦い、世界が必要としている魔石を集めなければならないのだ。
これがスキルを悪用して重大犯罪を起こした者への刑罰である。
人口が足りていない今の世の中では犯罪者を遊ばせておくことなど出来ず、社会の役に立つ形で罰を受けさせられないかと考えて考案された新しい刑罰である。
もちろん食料が要らなければ魔物と戦わずに逃げ回っていても構わない。同じダンジョンに入っている囚人たちとイチャコラしたって構わない。好きな時に休み、好きな時に戦い、ダンジョン内であれば自由な行動を許されている。
だが楽など出来ない。
女が入れられたのはCランク上位のダンジョンであり、自分の実力よりもやや上のダンジョン。ほんの少しの油断が命取りになるため、気楽に探索など出来る訳が無い。つねに命の危機に晒されながら生き延びなければならない。魔石のノルマもきつめだ。そして必死に生き延びて実力が向上すると、より高ランクのダンジョンへと移送させられる。決して楽などさせて貰えない。
死ぬまで永遠に社会の為に魔石収集役として戦わせられることになる。
「助けて……ダンジョンから出られないなんていやぁ……」
地獄の日々となることは間違いなく、女は絶望に項垂れるしかない。未来ある多くの若い女性の人生を壊してきたのだから当然の報いである。
「詳しくは貼り紙に書いてありますのでそちらをご確認を。それと看守が居る時は質問に答えますので遠慮なくどうぞ」
女の反応など全く気にせず、執行人は説明を終える。
「それでは刑を執行します」
そしてそれだけを告げるとダンジョンから出て行ってしまった。
その場に残されたのは女だけ。
背後には実力以上の魔物が蠢く魔境。
絶望しかないが、何もしなければ飢えて死ぬだけだ。
どれだけ苦しくても、飢え死にも、魔物に殺されるのも嫌だ。
ゆえに女は生きるためだけにフラフラと魔物と戦いに赴いた。
この刑が厳しすぎるのか、妥当なのか、あるいは生温いのか。
その議論が尽きることは無いだろう。
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