間章二

100. ねらいは私と同じだよな!な!な!

「チクショー!奈子まであの変態に取られちまったー!」

「よしよし」


 弓聖の少女、雨衣あまい ねらいの部屋でさめざめと涙を流すのは、トレジャーハンタークイーンの葉切はきり ゆう。ねらいの太ももに顔を突っ伏すように豪快に泣いていた。


 涙の原因はもちろん、パーティーメンバーのいんに続き奈子までもダイヤのハーレムに入ってしまったからだ。ハーレム男など大っ嫌いの勇にとっては悲劇でしかない。


「奈子はあいつのことが心底嫌いだと思ってたのに!」

「私は怪しいなって思ってたよ」

「マジで!?」

「うん、口ではえっちなこと嫌がってるけど興味津々な感じに見えたから」

「なん……だと……!?」


 ねらいは気付いていたのに自分は全く気付いていなかったことに愕然とする。一か月という短い期間だが既にお互いのことをかなり知り仲を深められていたと思っていたのは勇の勘違いだったのだろうか。


「ね、ねらいは……ねらいはあいつのとこに行かないよな!」

「安心して、私は本当にハーレムに興味ないから」

「だよな!ハーレムなんて異常だよな!」

「そこまで言うといんちゃんと奈子ちゃんに悪いかな」

「あ!そ、そうだな。確かに言い過ぎた。すまんいん!ごめん奈子!」


 いくら自分が認められないとはいえ、親友がそれを選んだのならばけなすのは良くないことだ。これが社会的に認められていないことならまだしも、むしろ推奨されていることなのだから異常だなんて切り捨てるのは親友のやることではない。


「はぁ……どんな顔してあいつらに会えば良いんだよ」

「別に普通で良いんじゃない?」

「つってもよお。私はハーレムなんて嫌だ!あいつは大っ嫌いだ!って公言してるわけだし、あいつらだって気まずくね?」

「大丈夫だよ。皆、勇ちゃんが優しい子だって分かってるから」

「な……!や、優しくなんかねーよ!」

「(照れる勇ちゃん可愛い)」


 普段は勇がチームメンバーをひっぱる役割なのだが、ねらいと二人っきりの時は立場が逆になるのだろうか。


「ただ、それとは別に問題があるよね」

「問題?何だ?」

「一つは奈子ちゃんも色々な意味でレベルが上がっちゃったこと。私達頑張ってるけど、差がつけられちゃったね」

「あ~確かにな」


 自分達が対等な存在だといんに認めてもらい、本当の友人関係になるために努力して鍛えていたが、奈子は一足跳びにダイヤやいんの仲間入りをしてしまった。このままでは勇とねらいが足手纏いになってしまう。


「四人でパーティー組んでも戦力のバランス悪くなっちゃうし、いんちゃんと奈子ちゃんは高いランクのダンジョンに挑みたいだろうし、どうしよっか」


 実力が同等になるまでパーティーを組むのは止めるべきだろうか。だがそうなるといんや奈子はその間に新たな居場所を見つけて、勇達とパーティーを組む機会が無くなるのではないかという不安がある。


「まぁしゃーないだろ。寂しいけど私達に気を遣わせないようにして、あいつらがやりたいようにやらせてやろうぜ」

「勇ちゃんはそれで良いの?」

「だから寂しいって言ってるだろ。それにいずれ向こうの方から実力的にパーティーを組みたいって言わせてやるぜ」


 高校で最初に出来た友達だからではなく、探索仲間として相応しいからパーティーを組む。そう思ってもらえるように切磋琢磨するというのは真っすぐな勇らしい考えだ。


「あ、でも分不相応なダンジョンに挑むなんて無茶はしないでコツコツやるからな。ねらいも焦るなよ」

「うん。やっぱり勇ちゃんは凄いや」

「何が?」

「なんでも」

「何だよそれ」


 いんや奈子が経験したような命を懸けた戦いに身を投じる選択肢だってあったはずだ。特に彼女達との実力差に焦りを感じているのならば暴走してもおかしくない。だが勇はあくまでも冷静に真っ当なやり方で強くなろうと考えている。簡単そうに思えて中々に出来ない判断だ。彼女にとっては当然のことなのだろうが、ねらいにとってはその判断が出来る勇のことを尊敬していた。


「じゃあもう一つ質問。例のクランに勇ちゃんは入る?」

「あいつが作ろうとしているクランか……」


 ダイヤがクランを作ろうとしているというのは学校中で周知の事実だった。入団希望者が殺到しているという噂も流れている。


 勇が『ハッピーライフ』に入るメリットは、いんや奈子と一緒にクラン活動が出来ることだ。それに精霊使いを始めとした優秀な人材が集まることが想定できるため、ダンジョン探索や鍛えることにも役立つだろう。


 一方でデメリットは団長のダイヤが心底嫌いだということ。


「私は止めとく」

「理由は?」

「私があいつのことを生理的にどうしても受け付けないから」


 勇はデメリットの方を重要視し、『ハッピーライフ』に入らないと決めた。だがそれは単なる好き嫌いの話ではない。


「あのクランは『楽しいことややりたいことを全力でやる』ってのが方針だろ。私はあいつが嫌いだから楽しめない。我慢するのはクランの方針として違うから私はふさわしくないだろ。入団面接とかあるなら落とされるんじゃねーかな」

「真面目な理由だった」

「ったりめーだろ。こんな大事なこと、ただの我儘で決められねーよ」


 自分がクランにとって必要とされる人物なのか。条件を満たしているのか。

 岐路に差し掛かった時に、感情だけではなく論理的に考えて答えを出せるというのは、ダンジョン探索においても非常に重要だ。


 そんな勇だからこそ、いんも奈子もねらいも信頼しているのだが、本人はそのことに気付いていない。


「いっそのことライバルクラン作っちゃうとかどうかな?」

「はは、それも面白そうだな。だが私について来てくれる人なんかいるか?」

「はーい!」

「…………なぁねらい。すっげぇ嬉しいけど、ねらいも私に構わず好きに行動して良いんだぞ」

「うん。好きにしてるよ。だから勇ちゃんと一緒にいるの」

「そ、そうか」


 ねらいの瞳の奥に一瞬だけ怪しい何かを感じたが、すぐに消えたので気のせいだと忘れることにした。


「うし、ウジウジしてるのは終わり。ダンジョンにでも行くか!」

「お供するよ」

「頼りにしてるぜ」

「今日は一回くらいは当てるよ!」

「目標低すぎだろ!弓聖!」


 冗談を言い合いながら彼女達はEランクダンジョンへと足を向ける。


 一歩ずつ、着実に、焦ることなく。


 友へ追いつくために出来ることを進めよう。


 それが彼女達が選んだ道であり、そのことに後悔など決してしない。

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