93. 作戦会議≒ハーレム会議
「向こうはこっちのこと気付いてないのかな」
「そうみたい」
「じゃあ……のんびり……してよ……」
「ですね」
四人は真剣な表情で扉の先を見つめ……てはおらず、花開くように並んで仰向けに床に寝転がっていた。衣服が汚れてしまうが、キングコブラとの戦いで全員ボロボロなので今更だ。
「ふわぁあ、こうしてるとなんか眠くなってきちゃいそう」
「扉の向こうに仇敵がいるのですから、油断は禁物ですよ桃花さん」
「分かってまーす」
「あはは、でもかなり激しい戦いだったから疲れちゃったのは仕方ないよね」
「いっそのこと……もう一晩……休む……?」
「そうしたいのは山々なんだけど、学校が再開しちゃうからなぁ」
それに食料も尽きているため、時間が経てば経つほど不利になるのはダイヤ達の方だ。キングコブラ戦の疲労をある程度回復させたら先に進むべきだろう。
「それでダイヤ君、何か分かった?」
「もう少し時間頂戴」
「はーい」
彼らはただ単に休んでいるだけでは無い。怒涛のように押し寄せた展開を落ち着いて受け止めようともしているのだ。尤も、女性陣はそもそものダンジョンに関する知識がダイヤよりも少ないため早々にドロップアウトし、考察しているのはダイヤだけになってしまっている。
ダイヤが色々と考えを巡らせている間、桃花達は他愛もない会話で時間を潰していた。
「ふりちゃんと奈子ちゃんはハーレム平気なの?」
「わたくしは皆様に嫉妬してしまいそうで少し怖いですわ。ダイヤさんはそうならないように努力して下さる気がしますが」
「うんうん。何か策があるらしいよ」
「それは良い情報ですわ」
ダイヤと共に人生を歩めるのであれば多少の嫉妬は我慢しようと考えていた芙利瑠だが、ダイヤがそんな我慢をさせないようにと考えてくれていることを知り喜んだ。
「私は……あんまり……気にならない……」
「そうなの?」
「幸せな……ハーレムの……漫画を……沢山……読んだから……」
「そういえば最近多いよね」
減少した人口を回復させるためにハーレムが法的に認められるようになったとはいえ、世間的には歓迎される空気には中々ならなかった。ハーレムなど性にだらしない人間達が構築する忌避すべきものだという感覚がどうしても頭から離れないのだ。
政府としてもハーレム解禁でいきなり真っ当なハーレムが作られるとは思っていなかった。狙いは次世代。アンチハーレムに染まり切っていない子供達に、ハーレムという仕組みを上手く活用して欲しかった。
そのために性教育を始めとした様々な施策が実施されたのだが、その中にハーレムを取り扱う漫画を増やすというものがあった。子供達にとって漫画の影響は非常に大きく、ハーレムの良い部分と悪い部分の両面を描くことでより深くハーレムを理解し、ハーレムに憧れて沢山子供を産んでもらいたいという狙いがあった。
その狙いにずぶずぶ嵌まってしまったのが奈子だった。数多くのハーレム漫画に触れ、幸せそうに恋するヒロイン達の様子を素直に羨み、ハーレムへの抵抗感がほとんど無くなっていたのだ。
「気を悪くしたらごめんなさいなんだけど、少し意外だったかな。これまでえっちなこと苦手っぽい反応だったし」
「あれは……過激な……漫画のせい……」
「あ~そういえばえっちな少女漫画多いもんね」
「わたくしの知らない世界ですわ」
「ふりちゃんは……あ、そうか」
「漫画を買う余裕がありませんでしたから」
貧乏なため娯楽に回す費用が殆ど無かったのだ。色々な意味で浮いていた芙利瑠だが、皆との会話に混ざるようなネタを持っていないというのも浮き続けた原因の一つだった。
「じゃあ今度私が持ってる漫画を貸してあげるよ!」
「よろしいのですか?」
「もちろん!」
「私のも……貸してあげる……」
「うう……ありがどうございばずー」
友達から漫画を貸りる。
そんな普通の事に涙して喜ぶほど、芙利瑠は普通の子供らしい人生を歩めていなかったのだろう。
「(こんなに喜ばれたらどんどん餌付けしたくなっちゃう)」
「(大量に持って来よう)」
桃花と奈子が彼女を甘やかしたくなるのも当然の事だった。
するとここで、一人黙々と考えていたダイヤが会話に混ざってきた。
「良ければ僕も貸して欲しいな」
「ダイヤ君も漫画をあまり読んでこなかったの?」
「ううん、少年漫画は読んでたよ。でも少女漫画がどれだけ過激なのか気になって」
男子が少女漫画を読むのは精神的ハードルが高く、家族に姉か妹でも居なければ読む機会はまずないだろう。それなのに表現が過激だとか奈子に言われたら気になって仕方ない。貸して欲しいと思うのも自然なことだろう。
「僕も持ってる漫画を貸すからさ」
「うん分かった。それじゃあここを出たら貸し借りしよ」
「私も……それで……良い……というか……ダイヤが……話に……入って来た……ってことは……?」
「一応だけど考えがまとまったよ」
いきなり話をぶった切るのは悪いと思い、会話に入りながら切り出そうと思っていたのだ。そのことを奈子が察してくれたので切り替えのタイミングを気にする必要が無くなって助かった。
「それじゃあダイヤ先生よろしくお願いします」
「わーぱちぱち」
「凄い……考察なんだろうなぁ……」
「ハードル上げないで!?」
普段弄っているからやり返される羽目になるのだ。ダイヤが悪い。
「こほん。それじゃあ僕が考えたことを説明するけど、まず最初に言っておくね。ここからの脱出に関係しそうな点についてだけ考えたから、赤黒いオーラや大量の緑の靄やそこの扉とかについては考えて無いよ」
床から噴出した大量のエネルギーと、その後に出現したトップトゥエンティに類似した扉。これらについては後で考えれば良いことであり、彼らが最優先すべきは無事にここから帰ることだ。ゆえに考察に優先度を設けた。
「でも何となくだけど、赤黒いオーラが敵で緑の靄が味方って感じがするよね。緑の靄が経験値とかアイテムになるからかもしれないけど」
「うんうん。それはなんとなく私もそう思うよ」
「ですが緑の靄の方は、祖父祖母の世代の方にとって恐怖の象徴なのでしょう。こうも印象が違うのは不思議ですわよね」
「アレの原因って言われてるからね。僕達も勉強はしたけど、いまいち実感が湧かないよね」
世界中を揺るがしたダンジョン出現という出来事。それはとある大災害とセットに発生したものであり、緑の靄はその大災害に深く関係しているものなのだ。だがダイヤ達にとっては緑の靄は良いことしか与えてくれないため、大災害の世代とダイヤ達の世代とでは緑の靄に対する印象に大きなギャップがある。
「それはそれとして、今はこの先のことについて。まずは洞窟の構造についてだけど、多分次の部屋が本当のボス部屋だったんじゃないかな」
「え? じゃあ私達がさっき倒したのは?」
「中ボスかな」
ダンジョンの中には中ボスが存在していて、それを倒さなければ次に進めない作りのものがある。この洞窟はその手のダンジョンと同じタイプだろうとダイヤは予想したのだ。
「隣の部屋に例の三人がいるけど、隅の方に魔物が結界に捕らわれているのが見える?」
「うん、なんか大きな鳥みたいなのがいるね」
「あれが本当のボスということなのでしょうか」
「あの蛇より……強いのだなんて……絶望……」
一般的に中ボスよりもボスの方が強いのが普通だ。となるとキングコブラよりも強い魔物が待ち受けているはずである。
「それが変なんだよ」
「変?」
「うん。あの魔物ってケイブコンドルっていうDランクボスなんだけど、キングコブラよりもかなり弱い魔物なんだ」
「中ボスよりもボスの方が弱いということなのでしょうか?」
「そう。変でしょ」
その理由をダイヤは考え、一つの仮説を思いついた。
「本当はあのケイブコンドルが中ボスで、キングコブラがボスだったんじゃないかな」
「入れ替わったってこと?」
「うん。多分あの三人のせいで」
「どういう……こと……?」
桃花達はダイヤの予想を聞いてもどうしてそうなったのかまだピンと来ていない様子だ。
「僕達をここに誘った何者かはボス部屋でキングコブラと戦わせて、この壁画とか謎の扉とかを見せたかったんじゃないかな。でもその前に出口からあの三人が入ってきちゃった」
「だから慌てて入れ替えたってこと?」
「うん。だから中ボスの部屋でイベントが盛りだくさんだったんだ」
本当は最後の最後に派手にイベントを起こして印象付けたかったところ、招かれざる客が逆走して来てしまったがゆえに、
「元々の予定ではここで中ボスを倒してからも洞窟がまだ続いていて、その後にボス部屋があったんじゃないかな。でもイレギュラーが起きて入れ替えちゃったから、この先の洞窟を探検させる意味が無くなっちゃった」
「じゃあさっきのゴゴゴゴって何かが動いてた音って、洞窟の構成が変わってる音だったんだ」
「多分ね」
ゆえに中ボス部屋の直後にボス部屋が来るなんて変な作りになっているのだろう。
「ゴールから入って来れないようにしておけば良かったですのに」
「作りが……甘いよね……」
「…………」
洞窟の作りにダメ出しする芙利瑠と奈子だが、この会話を聞いている何者かが激怒しないかが少し不安なダイヤであった。
「もし僕の考えが合ってたら、出口はすぐそこだと思う」
次がボス部屋であるのならば、三人の背後にある扉こそが洞窟の出口に違いない。
「ということは、あの三人をどうにかして、結界に閉じ込められている本当のボスを倒せばクリアってことなのかな?」
「ボスについては相当弱らされているから、簡単に処理できるとは思う。だから問題はやっぱりあの三人だよ」
「あそこに居るということは、わたくし達を待ち構えているということでしょうか」
「ボス部屋なら……外に出るために……必ず通過する……待ち伏せするには……これ以上ない場所……」
「僕も奈子さんと同じ意見だよ」
ローブの三人は最初の洞窟から脱出すると急いで周辺を調査し、新たに出現した地下洞窟の出口を見つけた。中に入るとそこはボス部屋で、ボスを倒すまでは誰も外に出られない。そこでボスを敢えて倒さず放置することで、誰もこの洞窟から出られないようにしてダイヤ達が来るのを待つ。そしてダイヤ達を殺したり捕らえて洗脳し、自分達も洞窟の崩落に巻き込まれた
この予想が当たっているとなると、脱出するにはやはり三人をどうにかしなければならない。
「ちなみにあの三人だけど、あのローブの人達と同じかどうかって誰か分かる?」
「今はローブを脱いでますものね」
「あの時は……暗かったから……顔が分からなかった……」
待ち構えている三人の見た目は若く、ダイヤ達と同じ学生だろう。女性が一人で男性が二人。ボスを結界で閉じ込めていることから、結界魔法の使い手がいて、ローブの連中である可能性は高い。だがそれだけだとまだ確証はもてない。もしも別人だとしたら戦うべきなのかどうか迷いが生じる。出来ることならば確実に敵だという証拠が欲しい。
「あの女の人は私を洗脳しようとした人で間違いないよ。近かったから顔が見えたの」
「そうなんだ!」
桃花の証言により、三人組の正体が確定した。これで遠慮なく戦うことが出来る。
「それじゃあ戦う方向で作戦を考えよう」
相手は魔物では無く人だ。しかも自分達よりも格上であることは間違いなく、本気で戦ったら死人が出る可能性もある。
人間同士の殺し合い。
それはあまりにもおぞましいことなのだが、ここで怯むわけにはいかない。
「ご丁寧にこの先を見せてくれてるんだ。期待に応えて無事に突破しなくちゃ!」
この洞窟を操作する謎の存在は、扉を透過させてこの先に三人が待ち構えていることをダイヤ達に教えてくれた。しかもダイヤ達からしか見えないということは、明らかにダイヤ達だけを支援してくれる意図が感じられる。
おそらくはダイヤ達がここで知り得た情報を無事に持ち帰ることを期待しているのだろう。それならばその期待に応えてやろうと、ダイヤ達はじっくりと作戦を練るのであった。
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