92. もう訳が分からないよ!助けて明石っくレールガン!
「倒せた……?」
「おわりましたの?」
「消え……た……」
キングコブラを撃破すると同時にポイズンスネークも消え、敵だらけだった部屋は閑散としている。ゲームのように壮大な撃破音が鳴るわけでも無いため、突然訪れた静寂に桃花達は戸惑っていた。
そんな彼女達にダイヤがはっきりと現状を教えてあげる。
「おめでとう。僕達の勝利だよ!」
「!」
「!」
「!」
一瞬の後、喜びが大爆発した。
「やったあああああああ!」
「勝った……勝ったのですわ!」
「うう……痛かった……でも良かった……」
桃花は両手を天に突き上げくるくると回り、芙利瑠と奈子は両手で恋人繋ぎをしてぴょんぴょんと跳ねている。
「(可愛いしかない)」
強敵を撃破して嬉しいのはダイヤも同じはずなのに桃花達の喜びようをホクホク見守ってしまうのは、イベントダンジョンで死線を潜り抜けた経験がありこの手の展開に慣れつつあるからなのかもしれない。
「桃花さん、桃花さん。喜んでるところ悪いけど、僕達はアレやらないと」
「え……ドロップ操作だね!」
くるくる桃花をやわらかく受け止めたダイヤは、彼女と一緒にボスドロップの操作を開始した。
「ボクはやっぱりアレかな」
ドロップ操作でも魔物ごとに落とすアイテムが決まっている。ただしボスに限っては落とすアイテムに幅があることをダイヤは気付いていた。
ゆえにダイヤは今一番欲しいものをドロップとして願った。
ガランガラン。
かなりの音を立てて、複数の素材が床にドロップした。
「やった!グラの木材だ!」
Dランクダンジョンでしか入手できない大人気素材『グラの木材』。廃屋修復のために必要なキーアイテムをついに入手することが出来た。
「わたくしたちをおびき出すためのエサの素材をまさか本当に入手してしまうだなんて」
「これ知ったら……あいつら……悔しがりそう……おもろ……」
ドロップした木材の量は廃屋修復に必要な分だけある。ダイヤはこれまたほくほく顔でポーチにそれらを仕舞った。
一方で桃花が何をドロップさせたかと言うと。
「やった!出来た!」
喜ぶ桃花の方に視線をやると、彼女は謎の小瓶を手に取っていた。
「桃花さん、それ何?」
ダンジョンに詳しいダイヤが見たことのない謎のアイテム。ダイヤがスキルポーションを新発見したように、もしかしたらそれも新発見アイテムなのだろうか。
「ふふふ。ひーみつー」
「えぇ、教えてよ~」
「ダーメ。いつか分かる時が来るから」
「気になるなぁ」
だが桃花はその正体を教えてくれず、大事そうにハンカチにくるんでポシェットに仕舞ってしまった。とても気にはなるが、秘密を無理矢理暴くのはダイヤの主義ではなく、諦めるしか無かった。
「芙利瑠さんと奈子は普通に経験値かな」
ボスから何かがドロップする気配が無いため、普通に経験値が溜まったのだろう。かなりの強敵が相手だったからレベルが上がってそうだ。
「もっとコレを有効活用できますわ!」
鈍器レベルが上昇して嬉しいのだろう、バールのようなものをブンブン振り回す凶悪お嬢様。いずれ釘バットを使いそうで怖い。
「奇跡のレベルも上がったから、少しだけ発動率が上昇したかも」
それに起こせる奇跡の種類も増えているに違いない。色々と検証したいところだ。テンションが上がっているからか、自然に話せていることに彼女は気付いていなかった。
「(激しい戦いの後だし、ここでいったん休憩かな)」
このままダンジョンを脱出出来れば良いのだが、ここが最奥ボス部屋とは限らない。しっかり休んで先に進むべきだ。
改めてダイヤはボス部屋の様子を確認した。
ボス部屋は先の大広間と同じようにびっしりと壁画が描かれているのだが、その内容が少し違っていた。
「今回は純粋な人だけなんだ」
これまでは羽が生えていたり頭から耳が生えていたりと多種族が列をなしていたが、この部屋の壁画はダイヤ達と似た姿の人間だけが描かれていた。
「あれ、途切れてる」
しかも今回は行列の先に例の謎の物体が描かれているわけでは無く、まるで巻物が途中でビリビリと破かれたかのように途切れていた。
「ダ、ダイヤ君!あれって!」
桃花は壁画が途切れた先の方を指さしていた。ダイヤがそちらに目を向けると、確かにそこには驚くべき光景が刻まれていた。
「これは……星?」
巨大な球体に海と陸地らしきものが描かれている。しかもその陸地の形は、どこかで見たことがあるではないか。
「まさか地球なの!?」
そしてその地球の真上に、例の丸い謎の物体が口を地球の方に向けて描かれていた。まるでこれから地球を喰ってやろうかと思える位置取りだ。
「どういうことなの?」
「不吉ですわね」
「私達……食べられちゃうの……?」
謎の存在がダイヤ達に伝えたかったのはこれのことではないだろうか。地球に危機が迫っているのではないか。この壁画からはそんな悪い未来を想像してしまうが、まだ何も確信は持てない。
「(明石っくレールガンに早く連絡しないと)」
考察は考察ギルドに任せるべきだ。正解が分からない以上、ここで延々と考えた所で必要以上に悪い方向に考えてしまうだけだろう。
今は心と体を休めるのが先決だ。そう思ったのだが。
「これのことは一旦忘れて休憩……え!?」
突然、壁画の地球と丸い謎の物体の周辺が淡く緑色に点滅し始めたのだ。
「何が起こってるの!?」
「怖いですわ」
「ぶるぶる……ぶるぶる……」
不安気な桃花達がダイヤを頼りにそっと寄り添い、柔らかな感触が心地良い。しかしもちろんダイヤはそんなことを考えている余裕は無い。
「点滅が早くなってきた。何が起きるの!?」
まるでこの壁画が一番大事だと何度も何度もアピールしているかの様子だ。この点滅に何者かの意思をはっきりと感じられ、得体のしれない何かが起きていることに四人はボス戦よりも緊張感を高まらせる。
最初はゆっくりだった点滅は、早鐘を打つダイヤ達の心臓と同じくらいのペースに上昇している。
ごくりと誰かが唾を飲み込んだ音が聞こえた。
その直後。
「消えた?」
ふっと点滅が消えた。だがそれで終わりだろうだなんて思えるはずが無い。次に何が起きるのかと四人が警戒していると、突然背後から爆音が鳴り響いた。
「きゃあ!」
「きゃああああ!」
「きゃ!」
「何々!?」
慌てて振り返ると、地面から大量の赤黒いオーラが噴出していた。そのあまりの迫力と禍々しさに、ダイヤ達は身が竦んで動けない。噴出したオーラは東洋龍のような形になり天井付近をうねうねと凄い勢いで移動している。
「!?」
「!?」
「!?」
「!?」
すると今度は地面から大量の緑色の靄が噴出したでは無いか。靄もまた東洋龍のような形になり、赤黒いオーラを追って空中で激しいチェイスを始めた。横っ腹で体当たりをし、正面からぶつかり合い、それは紛れもなく戦闘だった。
「がんばれ……頑張れ!」
硬直していたダイヤの口から自然と応援の言葉が漏れた。それは緑の靄に対するものだ。不思議と赤黒いオーラが敵で、緑の靄が仲間のように感じたのだ。
「頑張って!」
「頑張るのですわ!」
「そこだ……いけ……!」
尋常ではない光景に圧倒されていたはずの四人は、いつしか全力で緑の靄を応援していた。彼らの硬直が解かれるだけの優しさを緑の靄に感じたのだ。
オーラと靄。
それぞれが激しくぶつかり合い、やがてお互いの身を絡ませ締め付けあうかのようにして螺旋を描く。そしてそのまま物凄い勢いで頭から床にぶつかった。
「うっ!」
目が眩んでしまいそうな明るさを必死に耐え、絶対に目を逸らすものかと何がどうなっているのかを確認しようとするダイヤ。もちろんスマDでの撮影も忘れていない。
二つの膨大なエネルギーは絡み合ったまま地面に吸収されるかのように消え、後に残されたのは赤黒いオーラを纏った一つの『扉』だった。
「うっそでしょ!?」
その扉の正体を即座に看破したダイヤはあまりの驚きで声を挙げてしまった。
「トップトゥエンティの入り口じゃん!」
「え?え?どういうこと?」
「トップトゥエンティと同じ見た目の扉が出現したということでしょうか」
「それってつまり……トゥエンティワン……?」
イベントダンジョンか、本ダンジョンか。
そもそもこの場所がイレギュラーであるため正確なところは分からないが、トップトゥエンティに酷似したダンジョンの入り口が出現したことだけは確実だ。
「何がどうなってるの……」
突然の事態の連続に茫然とするダイヤ達。
だが事態はまだ収束してはいなかった。
ゴゴゴゴゴゴゴ!
「今度は何!?」
「揺れてる!」
「まさか地震ですの!?」
「ううん……この感じ……何かが動いてる……!」
爆音と共に部屋が物凄い勢いで揺れ始めた。最初は地震かと思ったが、揺れの感じ的にはボロ家の近くで巨大なトラックが猛スピードで走った時の感じに似ており、見えないところで洞窟が動いているように思えた。
「次から次に何なのぉ!?」
「桃花さん落ちついて。僕がいるから大丈夫だよ」
「そうやってすぐ堕とそうとするんだから!」
「怒られる流れじゃないと思うんだけど。それにもう堕ちきってるよね」
「うん!」
「貴方達何やってるのよ……」
「こんな時に……バカップル……」
こんな時だからこそだ。何が起きているのか分からず怖いからこそ、桃花は敢えておちゃらけて空気を和らげようとしたのだった。
「長いね。まだ動いてる」
振動はまだ収まる気配を見せず、かといって彼らがいる部屋には何も変化が無い。四人は寄り添い、お互いの温もりを感じながら異常事態が終わるのをひたすら待つ。
そうして数分間耐えていたらようやく揺れが収まった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
もちろん油断などしない。立て続けに色々と起きたのだ、まだ何かあってもおかしくはない。四人は周囲を警戒しながら何か変化が無いかを確認する。
「ダイヤ……あれ……!」
すると奈子が何かに気付き、先へ進む扉らしき場所を指さした。
「扉が透けてる!?」
先程まではただの扉だったその場所が、徐々に透けていくではないか。そうなると当然、扉の先に何があるのか分かるようになる。
「なんか薄暗いな」
「近くで確認してみようよ」
「そうですわね」
「気を付けて……確認する……」
四人はおそるおそる扉へと近づき、先の様子を確認する。どうやらこの先も部屋になっているらしいが、暗い霧のようなものが漂っていてところどころはっきりと見えない。だが扉の透過率が高くなるにつれて、薄暗くても中の様子をはっきりと確認することが出来た。
「…………ここでかぁ」
「…………」
「…………」
「…………」
ダイヤは眉を顰め、女性陣は表情から嫌悪感を隠そうともしない。
何故ならばそこには三人の人物が立っていたから。
この洞窟内で朋達以外の三人組で考えられるのは一組しかいない。
ローブの連中と思わしき存在が、ダイヤ達を待ち受けていた。
ボスを倒したと思ったら意味深な壁画を見つけ、その壁画が何故か光ったと思ったら地面から二つの膨大なエネルギーが飛び出して戦い始めた。その戦いが終わると後には最高難易度のダンジョンの入り口らしき扉が出現し、爆音が続いたと思ったら先へ進める扉が透過されて会いたくもないローブの連中を発見した。
怒涛の様に押し寄せるイベントを脳が簡単には受け付けてくれず、考察など出来る筈がない。ゆえにダイヤは思わず叫んでしまった。
「何が何だか分からないよ!助けて明石っくレールガン!」
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