85. 勇気を出した踏み込み(71話ぶり2回目)

「開かないなぁ」

「開かないねぇ」

「どうしてかしら」

「何か……あるはず……」


 夜が明け、ダイヤ一行は大広間を抜けて洞窟の先へ向かうことにした。


 出入口は四つ。

 一つは入ってきたところ。

 一つは入ってきたところの反対の位置にある大きな扉。

 残る二つは大きな扉の両脇に位置する普通の大きさの扉。


 だが三つの扉のいずれもが開かないのだ。


「壁に……秘密が……」

「どこかにヒントが無いかな」

「えい!えい!壊せそうにもないですわ」

「(芙利瑠さんって脳筋タイプ?)」


 何らかのギミックがあるのだろうと、四人……いや、三人は周囲を徹底的に調査する。

 芙利瑠は一人、扉を強引にこじ開けようとしているが気にしてはならない。


「もしかしてコレかな?」


 手分けしてしばらく調査していると、ダイヤが何かに気が付いた。


「ほら、よく見ると地面に丸い跡がついてない?」

「ほんとだ。二つあるね」

「向こうの扉の所にも似たようなのがあったんだ」


 大きな扉を挟むように位置する二つの扉。その手前の地面に、うっすらと丸が二つずつ描かれていたのだ。大きさは人が一人立てるくらい。


「でもダイヤ君。これってどういう意味なんだろう」

「う~ん……」


 ヒントが見つかってもそれが何を意味するかはまだ分からない。三人は知恵を振り絞り色々と試してみた。


 その結果。


「まさか二人ずつに分かれて進まなきゃダメだなんて」


 地面の丸の中に一人ずつ立つことで扉が開いたのだ。しかも両方の扉の前の計四つの丸の中に立たないと扉は開かず、一人でもそこから離れるとすぐに閉まってしまうため二人ずつに分かれて同時に中に入るしかない。


 四人は一旦合流し、どうすべきかを相談する。


「前衛と後衛でペアになろう」

「前衛はダイヤ君とふりちゃん、後衛は木夜羽さんと私だよね」


 桃花がそう言った瞬間、奈子がスススと芙利瑠の元へと移動した。ダイヤとは組みたくないということなのだろう。それに寝る時にたっぷりイチャイチャしていたことから、桃花がダイヤと組みたがるだろうとも思ったに違いない。


 だがしかし。


「木夜羽さんはこっちね」

「え!?」


 桃花が木夜羽をダイヤに押し付けようとして来るでは無いか。


「木夜羽さんの奇跡は発動しない時があるから、その時でも柔軟に対応できるダイヤ君とペアになった方が良いと思うんだ」

「確かにわたくしは戦うことで精一杯で臨機応変に対応するのは難しそうですわ」

「それにドロップ操作が出来る人がそれぞれ居た方が良いし」

「で……でも……二人っきりだなんて……孕まされる……」

「孕まされちゃえ」

「いやああああ!」


 奈子がどれだけ嫌がろうとも、ペアを作るなら桃花の考えが良いことは間違いない。しかもダイヤと一緒に居たいであろう桃花が我慢してそう判断しているのだから、奈子としては我儘を言い続ける訳にもいかない。


 結局、ダイヤ奈子ペア、芙利瑠桃花ペアに決まってしまった。


「うう……お父さん……お母さん……奈子はもう……お嫁にいけません……ごめんなさい……」


 奈子が本気なのか冗談なのか良く分からない凹み方をしている間に、ダイヤ達は準備を続ける。


「ポーションをいくつか渡しておくね」

「ありがとう」


 お菓子を食べたことでポシェットに空きが生まれ、ポーションを収納するスペースが出来たようだ。


「それと芙利瑠さんは本当に武器がソレで良いの?もっとまともな鈍器をドロップさせなくて良い?」

「問題無いですわ!」


 ぶん!ぶん!

 バールのようなものを嬉々として振り回す姿にダイヤや桃花はもう慣れつつあった。


「無茶はしないで、必要なアイテムをドロップさせながら進むんだよ」

「はーい」

「それと、これは多分だけど詰むことは無いと思うからしっかりと考えて攻略しよう」

「どういうこと?」

「今の僕らでは絶対倒せない強い魔物を倒さなきゃ進めないとか、そういうことは無いってこと」


 例えばAランクの魔物が出現して絶望する、なんてことはあり得ない。仮に出現したとしても何らかの方法で突破する手段が用意されているはずだとダイヤは考えていた。


「どうしてそう思うの?」

「ここを作った何者かは、僕達の存在に気付いている気がするんだ。そして何かを伝えようとしている。それなのに死なせるようなことはしない気がしてさ」

「え?」

「だって二人ずつじゃなきゃ進めないだなんてギミック、僕達が四人じゃなきゃ成り立たないよ。普通に入れるダンジョンならまだしも、こんな突発的に生まれた誰が入るか分からない場所で人数制限とか変だもん」


 四人がこの場所の攻略に挑んでいると分かっているからこそ、このようなギミックを用意したのではないかというのがダイヤの考えだった。


「そっか、私達ってその何者かに今も見られてるかもしれないんだね」

「うん、そうだね」


 桃花は思わず周囲を確認してしまうが、生物の眼や監視カメラ的なものは見つからない。

 どこから見られているか分からない。


 それはとても気味が悪く、考えたくもないことのはずだが。


「いぇーい!何者さん見てるー!」

「桃花さん!?」


 桃花は全く怖がる様子もなく、むしろ煽ったのであった。


「いるかどうかも分からない何かに怖がってても意味無いしね」

「桃花さんって割とメンタルつよつよだよね」

「そう?」


 魔物が怖い点を除けばかなりの精神力の持ち主では無いだろうか。格上のローブの女の洗脳に打ち勝ったこともそれを証明している。


「安心してそっちを任せられるよ」

「任された!」


 なお、ダイヤが安心しているのは桃花に関してだけではない。


「この感じなら朋の方も大丈夫かな」

「え?」


 それはこれまで敢えて誰も触れて来なかった話題だ。


 落とし穴に落下してダイヤ達とは別れてしまった朋を含む三人。

 彼らは今頃別の場所を探索しているに違いない。


 だがダイヤ達のところにDランクの魔物が出現したと言うことは、彼らのところにも同じ強さの魔物が出現した可能性が高いだろう。


 向こうにはダイヤが居ない。

 三人とも新入生であり、Dランクの魔物と戦闘した経験がある人も居ないはずだ。


 ゆえに桃花達は彼らが死んでいるかもしれないと心の何処かで気付いていた。しかしそのことを意識してしまうと恐怖や悲しみで心が折れてしまいそうになるため、必死に考えないようにしていたのだ。


「謎の存在が僕達に何かを伝えることが目的なら、向こうもこっちと同じように頑張れば死なない難易度に調整してくれてると思うから」


 あくまでも想像だけれど、大きく外れて無いだろうとダイヤの直感が言っている。


「で、でもダイヤ君。調整してくれても戦い慣れないと……」


 ダイヤのように勇敢に戦える人がいるならば乗り越えられるだろう。だが向こうは三人とも新入生であり戦いに不慣れだ。桃花にはどうしても朋達が無事でいるビジョンが浮かばなかった。


「そうだね。朋がいなかったら危なかったと思う」

「え?」

「朋には大事なことを教えてあるから、きっと大丈夫」

「大事なこと?」


 それは朋と友達になった日のこと。

 ダイヤは朋に魔物と戦う上で最も大切な心構えを伝授した。


 単純な、もとい、素直な朋はそれを信じ、短い間だけれど愚直に戦闘訓練を続けていたのだ。


「うん。とても大事なこと。皆にも伝えておくね」


 それを伝えておくことで、彼女達がここから無事に脱出する可能性もまた高まるだろう。


「勇気を出して踏み込むこと」


 無茶をしろと言っているわけでは無い。

 中途半端な行動はせずにはっきりと立ち向かうこと。


 その志こそが成長へと繋がり、紙一重の所で命を繋ぎ留める。


 今の朋ならばたとえDランクの魔物が出現したとしても、恐れながらも勇敢に立ち向かうだろう。


「(無事どころか、格好良いところを見せて夏野さんの心を射止めてるかもね)」


 絶望的な状況で格好良く格上の魔物に挑む姿を見せつけられたのならば、いくら嫌っている相手とはいえ輝いて見えるだろう。むしろ嫌っているからこそ、そのギャップの威力は凄まじい。

 朋に再会した時、彼らの関係がどうなっているかを想像するだけでニマニマが止まらないダイヤであった。


「勇気を出して踏み込む……」

「そう……ですわね。淑女の在り方にも繋がりますわ」


 桃花達もまたダイヤの言葉の意味を脳内で解釈し、心に刻み込もうとする。

 特に桃花と芙利瑠はこの先ダイヤと別れて行動するため、ダイヤの言葉を支えに強く在ろうと気合を入れた。


「ゆう……き……」


 一方で奈子は何かに迷うかのように俯いて考え込んでしまうのであった。

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