第207話 優しい目覚め ★リオ SIDE
私はフワフワとした、穏やかな光に包まれて休んでいた。柔らかな毛布で作ったゆりかごの様にとても心地良く、うつらうつらとしている時間が気持ち良い……あぁ、これはアレね。休日に2度寝した時の幸せな気持ち良さに似ているんだわ。
「そうね、きっとそうだわ」
あら?声に出していたみたいね?ゆっくりと目を開けると、私の声に
「ふふっ、リオ、おはよう。良く眠れたみたいだね?」
「え、ええ、おはようカミル。…………もしかして私、寝言を?は、恥ずかしいわ……」
カミルはフワッと微笑んで、私の髪を優しく何度も撫でた。撫で終わると、コテンと軽く首を倒してから少し困った顔をした。
「ごめんね、僕が寂しくて会いに来てしまったから。でも、リオが恥ずかしがる必要は全く無いよ?僕は寝言を言うリオも、真っ赤になって照れるリオも、とっても可愛いと思っているからね」
「も、もう!カミルったら……」
真っ赤になっているのであろう顔を、両手で覆って隠しながらうつむいて
「ご馳走様〜」
「また砂糖吐いてる〜」
「良く飽きないよね〜」
「このお城にいるカップルは砂糖を吐くのが日常的になりつつあるよね〜」
「ん?僕達以外にもラブラブなカップルがいるの?」
キャッキャキャッキャと楽しそうに私達を揶揄う2匹の精霊は、今日も楽しそうね。あの国で、何事も無くて良かったわ。そんな2匹の会話にカミルが質問をしている。
「カミルの両親と〜」
「あぁ、それは分かるけど……」
「男気を見せたデュークと〜」
「あら、あの2人上手く行ったのね!」
リアはデュークにベタ惚れだったもんね。本当に良かったわ。時間が空いたら、リアを揶揄いに行こうかしら。きっと、リアも話したいでしょうしね。
「後はジーさん2人かな〜」
「「え?」」
「リオのジーちゃんと、カミルのジーちゃんはラブラブだよね〜」
「ええ…………?」
「ケンカをするほど仲が良いってバーちゃんが言ってたもんね〜」
「あぁ、そう言う事ね。この世界にも腐女子が居るのかと思ったわ……」
「ふじょし?」
「カミル、何でも無いわ。この世界は平和で何よりって思っただけよ」
視線をスゥ――っとズラして、これ以上の追及を免れようと一生懸命抵抗していると……
「ねぇ、リオ〜?リオは平和って言うけど、リオが目覚めたら結婚式するって王様が言ってたよ〜?」
「え?ん?あら?あれからどれくらい経ったのかしら?」
シルビーの言い方では、あれからかなりの月日が流れたみたいね?
「ざっくりと3週間は経過したね。今回は、すっごく気持ち良さそうに寝てるから……起きないかもって心配はしなかったんだけど、逆に、皆起こすに起こせなかったと言うか……」
カミルが苦笑いしながら説明してくれる。確かにとっても気持ち良かったと記憶しているけれど、寝ている表情をしっかり見られていたことが少し恥ずかしいのよ。変な顔じゃなさそうだから、まだ良かったのかも知れないけども。
「本当、見た目も気持ち良さそうだったよね〜」
「オイラやシルビーもリオの傍で寝てたけど、とっても気持ち良かったよ〜」
「ね〜。不思議だよね〜。リオの気持ち良さげな顔が、何故そんなにも気持ちが良いのか分かるぐらい気持ちの良い眠りにつけたんだよね〜」
へぇー?あの気持ち良さをソラやシルビーも体験したのね。そんな事が起こるのも、ソラ達が精霊だからかしらね?精霊は人間の眠りに干渉出来るからなのかしら?
「多分、精霊とリオが共鳴してるからだと思うけどね〜」
コテンと首を倒した私の疑問に気づいたソラが、サラッと説明してくれる。そうなのね。共鳴しているから……確かにザラカン王国でも精霊達の声がしっかり聞こえてたもんね。
「カミル〜。ボク、王様に報告して来ようか〜?」
「あ、あぁ、お願いするよシルビー」
「は〜い!行って来るね~!」
ポンッ!とシルビーが報告に向かってくれたので、私は着替えて出迎える準備しなければならないわね。
「カミル、陛下にお目通りするのであれば着替えたいから、その……」
「あぁ、そうだね。そうなんだけど……シルビーに頼んじゃったからね」
「あ…………」
ポンッ!と再度現れたシルビーの傍らには、予想通りに陛下と王妃様、爺やと婆やがいたのだった。いつの間にか、シルビーも人間を4人も運べるようになったのね。精霊も成長するのねーなんて、現実逃避しながら呑気に考えていたのだが……
「リオちゃん!もう大丈夫なの?体は起こしていて辛くない?」
「婆達の事は気にしなくて良いからねぇ?辛くなったら横になるのよぉ?」
相変わらず過保護な王妃様と婆やに向かって笑顔を返す。
「お
慌てる私に、婆やは涙を流しながらも微笑んでくれた。
「ええ、心配はしていなかったのよ?リオちゃんを信じていたもの。でもほら、年寄りはちょっと涙脆くなるってだけよぉ。無事に帰って来てくれて良かったわぁ」
「そうじゃのぉ。皆無事に戻って来られたし、精霊達もあの時点で生きていた者達は全員助かったらしいからのぉ。リオは凄いのぉ。よく頑張ってくれた」
「その通りだな。リオよ、ザラカン王国と精霊の事、デュルギス王国の国王として感謝する」
「感謝だなんて……私が半ば無理を言って行かせていただいたのですから、お気になさらないでください」
陛下はゆっくりと
「先日、女神様が夢枕に立たれてな。リオをザラカンに向かわせてくれた事、それらを止めずに許可してくれた事に感謝すると言われたよ。そして、精霊達はこれで安心して過ごす事が出来ると、精霊王様からも喜びのお声を頂いた。私はリオを誇りに思うよ」
「えぇ……私は我が儘を言っただけなのに……あぁ!そのせいで、結婚式の準備が出来てなくて申し訳ありません!」
「あぁ、それこそ全く気にしなくて大丈夫だよ。精霊王が、ザラカンから戻って来た精霊達の中で、手伝いたいと自ら志願する精霊や、人間の祝い事に詳しい子達を手伝いに寄越してくださってね。あっという間に準備も終わったから、いつでも僕達の結婚式を挙げられるからね」
さすが精霊王だわ。精霊界からちゃんと見ていて、私に足りない所を
「まぁ!そこまでして頂いたのね。結婚式が終わったら、お礼を言いに行かなければならないわね」
「リオ~、恐らくお礼を言うべきなのは、オイラ達精霊側だからね~?沢山の仲間を救ってくれて、ありがと~」
「そうだよね~。リオ、ありがと~!ボクの幼馴染もいたんだよ~。今度からは気を付けるように言っておいたよ~」
「ふふっ、そうなのね。ソラ達に感謝して貰えるなんて、何だか嬉しいわね」
「リオの基準がおかしいんだと思うけどね~?転んだ子供を助けてあげるぐらいの感覚で、精霊達や小動物を治癒してるでしょ~。本来なら、聖母様しか精霊は治癒出来ないんだよ~?」
ソラがサラッと言った言葉に皆が食いつく。バッと皆が一斉にこちらを見るから驚いてしまったわ。
「「「聖母様!」」」
「リオ、スキルはどうなっておるのじゃ?」
最初に落ち着いたのは爺やだったみたいね。スキル?鑑定しろって事かしらね?あぁ、確かに可能性はあるかしら。
「え?あぁ、スキルが増えているのでは無いかって事?ちょっと待ってね、見てみるわ」
私は自分を鑑定した。目の前に現れたステータスボードに視線を移し、変わったところが無いか探していると……
「えぇ――――?称号『聖母』ですって……。スキルは『精霊の癒し』と『母の
「思った通りだのぉ。あれだけの数、精霊を治療した事が認められたのじゃろう」
確かに精霊達を癒したけれど、あれは祈ろうかなーって思っていた私に、元精霊の王女であるチヨさんが祈ってってお願いして来たからやるべき事がハッキリ分かったと言うか……
「えぇ?でも、チヨさんが『聖母の祈り』をお願いって念話して来たのよ?」
「恐らく、聖母になる器は元からあったのじゃろう。そこへ、精霊達を助けられる存在がリオしかいなかったから、元精霊の王女様が最後の力で覚醒させてくれたのではないかのぉ?」
「そうなのかしらね?確かに、私の子供達をよろしくって言われたけれど……」
「ふむ。リオが聖母になった事は、敢えて発表はせずにおこう。ザラカンの者達から少しずつ噂として広まっては来ているからな。リオ本人も精霊と契約しているのだし、皆勝手に理解するだろう」
「全て陛下にお任せします。私は権力とか全く興味無いので、カミルの妃でいられるならそれだけで……」
後半は恥ずかしくて声が小さくなってしまったけれど、これが私の本音だもの。仕方ないわよね?チラリとカミルを見たら、顔を真っ赤にしながら照れていて、とっても可愛らしかったわ。
「称号についてはその方が良さそうね。結婚式はいつ頃が良いかしら。結婚式はパレードもあるから、丸1日動き回る事になるのよね。体力がしっかり戻ってからの方が良いと思うのだけど……」
「お
「ふふっ、そうでしょね。来賓の皆様には明後日に開催すると伝えて大丈夫かしら?準備の方も、2日もあれば、余裕で執り行えると思うわ」
「はい、それで大丈夫です。よろしくお願いします」
なんだか急に現実味を帯びて来たわね?明後日には、私はカミルの妻に……『妻』であり、『王太子妃』なのよね、私は。今更ドキドキして来たわ。雑念を振り払うためにも、『練習装置・改』で汗を流して来ようと思うわ。
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