第172話 ルトの身辺調査 ★カミル SIDE

 リオが身辺調査を依頼して来たのは、孤児院で出会った『ルト』と言う男の子。緑色の魔力を持った賢い子らしい。王妃となるリオの執事に孤児の子はと思っていたのだが、どうやら出身は貴族らしい。孤児院に来た経緯や育った環境などをしっかり調べてからになるな。と、思っていたのだが……


「カミル~、良かったね~」


「本当だよね~。ちゃんと結婚した後の事まで考えてくれていたんだもんね~」


 いつもの事だが、主語のない精霊達の会話は、上手く理解が出来なかった。キャッキャと楽しそうに話し掛けて来るのは可愛いんだけどね。これもいつも通り、分かるように説明を求めるところからだ。


「ん?結婚した後の事を考えてるの?誰がだい?どうしてそう思ったのかな?」


「リオがね、ルトを執事にしたい理由がね~」


「今後、生まれて来るであろう『リオの子供』の執事になって欲しいからなんだって~」


「えっ!?僕とリオの子供の執事!?」


 リオは結婚式や結婚後の事に関しては何も言って来ないから、子供の事とかまだ考えていないんだと思ってたよ。でも、そんな事は無くて……リオも僕と同じ様に、将来の事を考えてくれていたんだと思うと、嬉しくて顔が崩れちゃうね。それも世継ぎの子に与える執事の話しだなんてね。随分先の事まで考えてくれていると分かって、ちょっと泣きそうになっちゃったよ。自分でも気づかないうちに、少し不安になってたのかなぁ?


「そうだよ~。恐らく、リオの執事として経験を積ませて、立派に成長したら次世代の国王陛下の執事にと思っているのかもね~?」


「ルトって子、まだ幼いのにすっごく頭が良いんだよ~。勉強が出来るだけじゃ無くて、自分が身辺調査される事が当たり前だって理解できる10歳児って凄いよね~」


 2人とも褒めるなんて、珍しいよね。確かに話しを聞いていると、賢い子なんだろうとは思うけども。それを見つけて来るリオはやっぱり凄いよね。この子と出会うために孤児院へ行かなければと感じたんだろうか?


「身辺調査の意味も理解してたもんね~。書斎で閉じ込められてた時に、難しい本も読んで勉強したんだろうね~」


「閉じ込められていた?」


「どうやら家族の誰かに軟禁なんきんされてたっぽいよ~。賢い彼は、リオになら話して大丈夫だと思ったんだろうね~」


「その時に、隠密魔法をかけて監視していたニンゲンを視る事も出来たらしいよ~。それも今まで内緒にしてたらしいから、とっても賢いって事だよね~」


 リオに出会うまで、身近な人間にも黙っていたって事か。リオが高貴な人間だと雰囲気で分かるのは難しい。何てったってリオは規格外だからね。堂々としているけど偉そうではなく、はっきりものを言うけどお茶目でチャーミングだ。後半は惚気でもあるけど、僕の本心だよ。


「人を見る目もあるって事だろうからね……そのルトって子は、魔力を隠しているリオを選んだのだろう?」


「リオが治癒魔法を使える事も、魔力制御して魔力の出力を調整している事にも気が付いてたよ~。この子、緑の魔力らしいし、リオが気に入るのも分かるかな~」


 凄いな。魔力の感知能力は、鍛えようとして鍛えられるものでは無い。生まれ持っての能力と言えるだろう。魔力を感知出来ると言う事は、危険を察知する能力が高いという事だ。リオが育ててから子供の執事にと言っている理由がこれだろう。子供の身を案じて、後継となる子につけたいんだろうね。


「そうか……身辺調査が終わったら、デュークに預けてみるか」


「ワシが預かろう」


 隠密魔法を解いたのだろう、いきなり目の前に現れた師匠は、珍しくニヤッと口角を上げた。


「師匠!……調査が済んでからにしてくださいね」


 師匠がリオに興味を待った様に、ルトの能力を聞けば気になるだろうとは思っていたからね。魔導師団団長のデュークを育てたと言っても過言ではない師匠が育てるのであれば、リオも納得するだろうし、ルトの存在や能力をまだ知られたくないから師匠が最も適任ではあるからね。


「おろ?駄目だと怒らんのか?」


「リオが認めた子なのであれば、師匠が興味を持つのも当然なのでしょうからね」


「ホッホッホ。良く分かっておるではないか。ルトはワシがスーパー執事に仕上げてやろうかのぉ。リオと、その子供達に出来る、家族としての最後の仕事になるじゃろうからな」


「師匠?まだまだお元気でしょう。縁起えんぎでもない事を……」


 そんなことを師匠が考えているとは思ってもみなかったから驚いてしまった。師匠もリオと出会って、リオをとても大事に思ってくれているのは、リオを見る時の眼差まなざしで分かるぐらいだからね。昔は何を考えているか分からない人だと言われていたのに、今では誰がどう見ても、リオ限定ではあるけど好々爺だよね。


「カミル、人間なんて何時どうなるかなんて分からないものじゃろう。例えば5年後、ワシが病気で闘病生活になった時、ルトを教育している最中であれば、ワシの生きる気力になると思わんか?」


「まぁ、それはそうだとは思いますが……」


「じゃから、この仕事をワシに任せてはくれんじゃろうか。ワシがリオと家族になったのは最近じゃろう?恐らく、してやれる事も少なかろう。ワシも、リオやカミルの為に何かしたいんじゃよ。それに、ルトを見れば、ワシを思い出してくれるじゃろう?ホッホッ」


 嬉しそうな、寂しそうな、そんな師匠を見ていると、何だか少し不安になって来るよ。寿命が長いこの世界では、病気をリオが治せたとしても、『老い』には勝てないからね。師匠だって治癒魔法が使えるのだから、『闘病生活』なんて言葉が出て来るのがおかしいんだけどね?ちょっと不安は感じてしまうけど、師匠の口から何も言わないのであれば聞かないでおこうと思う。僕は師匠の事を信用、信頼しているからね。それに師匠の場合はただ単に、ルトを育てる為の口実こうじつって可能性も十分にあるからね……


「父上に相談してからになりますが、師匠が育てたいと言っている事はちゃんと伝えておきますよ。恐らくリオも、師匠が育てると言えば、喜ぶでしょうからね」


「悪いのう、カミル。大事に育てようと思っておるから頼んだぞ」


 師匠はスッと消えてしまった。相変わらず神出鬼没しんしゅつきぼつだなぁと思いつつ、ソラ達の報告の続きに耳を傾けるのだった。

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