第114話 呼ばれた先での衝撃 ★カミル SIDE

 誰かが僕を呼んでる……遠過ぎて空耳かと思ってたけど、少しずつ声が近付いて来ているね。どうやら、僕はここで待っていれば良いみたいだ。


「やっと会えたね、今世の魂に選ばれし君よ」


 誰だろう?聞いた事の無い声だ。あれ?声を出したいのに、口が無い?開かない。


「あぁ、ここは君の夢の中だから、思った事がそれがしには伝わっておるよ」


 そうなんだ……?ちょっと現実味無いと不安になるけど、このままじゃどうしようも無いなぁ。取り敢えず、貴方は誰ですか?


「某は『コテツ=タイラ』と申す。現在の精霊王の元契約者と言えば分かるかな?」


 『ソレガシ』と言うのは一人称での呼び方なのかな。あの狐の姿をした『イナリ』って精霊王の元契約者ね。コテツ殿は話し方が独特だから、ちょっと理解に時間が掛かりそうだね。


「あぁ、普通にも話せるよ。反応が面白いからつい、ね。我々『日本人』がどう見えるのかを知るのは楽しいんだよ」


 そうなんですね。ところで僕はコテツ殿に呼ばれてここに居るのでしょうか?


「そうそう、大事な事を忘れてたよ。君の記憶は徐々に某の記憶と重なって行くと思われる。ある条件をクリアしたら思い出す様に、魂に記憶させておいたからね」


 何故、僕なのでしょう?僕はデュルギス王国の王太子ですよ?もう少し動ける人間なら良かったでしょうに。

 

「仕方ないんだよー。某の魂は元々異世界の魂で、この世界で輪廻転生したから君に生まれ変わった。元々魔力が強いのもあって、デュルギス王国の王族になったんだと思われるよ。そこまで違う性質の者には生まれ変わりとはいえ、厳しいのでね」


 なるほど、僕はデュルギス王国の王族で魔力が元々強く生まれるから……兄上達でも良かったのでは?


「素質だろうね。性格や賢さもそうだ。世界を救う為の鍵になる人間だ。世界を滅ぼす性格の者や、行動力の無い者には与えないだろう?」


 生まれてないのに分かると?


「そなたの母上が人格者だったから、だろうね。責任感があり、何事にも一生懸命に向かって行く人だからこそ、自分の子が悪い事をしたら叱って育てるだろうと」


 王族や貴族は、乳母が育てるんですけどね?


「君の母上は、ちゃんと君を見ていたじゃないか。抱き締めて、愛してると言ってくれる厳しくも優しい人。見守って来たから良く知っているよ。某は、魂の辿り着いた先が君で良かったと、心から思っているよ」


 そうですか……それで僕は何をすれば良いのでしょう?僕にはとても大袈裟に思えていたのですが……詳しく説明して頂けますか?


「あぁ、それが説明するとなると、ちょっとややこしい話しでね。某も儚くなってから知ったのだが、どうやら某にはこの世界にも子が居たらしい。そしてその子が、自分は『要らない子』だから某が会ってくれないのだと思っていたらしく……」


 え?自分に子がいる事を知らなかった?そういう……子供を作る行為をしてたから出来たんだよね?


「あ、え?そっち?えぇっと……その、こちらの世界の現実でも無い『はず』だったのだよ?あちらの世界に妻を残して来たと思っていたから、不義理なのが嫌で女子を避けてたからね。それで何故?となる訳だが……簡単に言えば、その子の母が、某の寝室で現実と夢の境界線が分からなくなる香を焚いていたらしくてね」


 数百年前に禁止されたと言う、あの香かな?確か、都合の良い幻を見せて、幸せな気分になれるんだっけ?勉強した時に怖いなって思ったんだよね。身内に使われたら間違いなく王国が大変な事になるような代物だ。

 

「まぁ、そこら辺の事は詳しく分からんのだがな」


 コテツ殿は今回の魔道具の件が、貴方の子の犯行だと思っているのですね?


「恐らくは。某の生きていた時代には既にその魔道具はあって、それによって事件も起きていて、少なからず某も関わっていた。ただ、我が子の犯行とは思わなかったけどね。知ったのは儚くなってから随分と後だったと思う」


 下手すると1000年近く前の話ですよね?コテツ殿はそんなに昔の事を解決出来なかったからと、魂の記憶としてこの世界に留まったと仰るのですか?


「あの魔道具は、人や精霊を消滅させるだけでは無いのだよ。この世界すら朽ちて行く可能性が高い力なのだ。そして、某がこの世界に召喚された理由でもある」


 魔道具は更にその昔からあったと?生命力を使うから大量には作れる物ではないと聞いていたのですが。なんて恐ろしい物を作るのでしょうか……リオの様に、人の為になる物ばかり作ってくれたら良いのに。ん?コテツ殿は帝国に住んでいたのですか?


「あー、イナリと契約してからは、精霊界に建てた家に住んでいたからね。その前は……200年ぐらい帝国に住んでいたかな?」


 コテツ殿もリオと同じ様に召喚されたのですか?


「そうだよ。『聖女』を呼ぶ為の儀式で某が現れたものだから、大騒動になったらしいよ。何も知らないし分からない状態だったから、某は刀を直ぐに抜ける様に構えていたんだ」


 それは……この世界の者が失礼致しました。最初にリオに言われたのですが、拉致同然で連れて来られて手伝おうと言う気になったのですか?


「いや、『聖女』ではないからと住む場所を与えられただけだったのでね?その件に関しては詳しく説明されずに放り出されたから良く分かっていなかった。そして、イナリと出会うまではそこに住んでダンジョン等で魔物を倒して生活していたよ」


 あぁ、精霊王に出会ったから助けようと思ったのですね?精霊という接点があったから?


「まぁ、そんな感じだったかな。あまりにも昔の事だから良く覚えて無いけどね」


 それで魔道具を無くす為に奔走したと……

  

「結局、完全には解決出来なかったから、次に同じ出来事が起こるなら……と、そう言う条件をつけたのだよ。君が某の記憶を取り戻すのも、記憶があやふやなままで怯えて壊れない様に、某が夢に現れて説明する事もね」


 何故、僕がこの歳になってからなのですか?僕が生まれるタイミングすら分かってたとか?


「あぁ、輪廻転生するのに1000年ぐらいかかると言っていたからね。この世界は寿命が長いから、今の歳になったのは偶々だよ。それに合わせて、その元凶を1000年ぐらい封印出来る魔道具を作ったんだ。古文書に書かれていただろう?」


 すみません、召喚された『聖女』の話しですよね?イメージでは可憐な少女だったものですから、どうしても目の前にいらっしゃる、雄々しいコテツ殿の事だと上手く処理出来ておらず……


「あー、分かるよ。君が勉強してる傍で目を通したけど、あれは酷いね……容姿も『髪の長い』とか、『線の細い』とか雑だったしね。確かに間違っては無いけど、ちゃんと『男』だと書いて欲しかった……」


 何故、曖昧にしたんでしょうね?古文書に記載がされている時点で、コテツ殿が関わった事は明白でしょう?


「最終的に分かったのは、『聖女』と呼んではいるが、『純白の魔力』の持ち主であれば良いだけなんだよ。スキル名に『聖女』ってついてるから、女子だと思い込んでいたらしい。一旦は皇宮を追い出しただろう?名前などが無いのも意図的なんだろうね。もしかして、オネエの真似なんてしてたからだろうか……」


 オネエの真似は関係ないと思いますが。ふむ……コテツ殿は女神様から『予言』があったから召喚されたのでしょうか?


「あぁ、そうだと本人から聞いたよ。あちらの世界では、辻斬りに妻と襲われたタイミングだったのでね。逃した妻が無事か分からぬまま、こちらに召喚されたんだ」


 なるほど……何にしろ、僕にコテツ殿の子供の尻拭いをしろと言う事ですかね。


「あー、それに近いかな?でもまぁ、あの娘の身内なのだから大目に見ておくれよ。某からしたら、あの娘は玄孫なんだよ?」


 あの娘……?リオの?


「そうそう。某があちらの世界に残して来た息子の子が嫁に行って、孫の子の子が……えっと?神木家の嫁になったんだったかな?」


 玄孫……曾孫の子だよね?要は孫の孫だからコテツ殿の5世かな?リオの世界は寿命が80歳ぐらいだって聞いたから、150年ぐらいの差?こちらの世界では100歳前後に子供が産まれる事も多いから、5世も離れると、時代が大きく違うんだよね。


「あぁ、あの子の世代では医療が発達したからそこまで平均寿命も延びたのだろう。某達の時代は両極端でな。赤子や子供が病気に弱く、助からない事も多かった時代だから、平均してしまうと20歳後半や30歳ぐらいかな。100歳ちょいまで生きていれば、玄孫なら見れた人間も多いと思うぞ?」


 そうなんですね。そうなると、20歳前後で子供を持つ家庭が多いって事に……この世界は出生率が低いですからね。僕も早く結婚して子供が欲しいな。


「だが、この世界は長寿だろう?それは栄養失調にならないぐらいは食べられるからであり、飢饉が発生しないからと言う理由もあるのだろう。長寿なのに子が沢山産まれては、それもまた食糧が足りなくなったりと大変だから出生率が低いのかも知れないね」


 へぇ……凄いですね。コテツ殿もリオと同じで賢い。コテツ殿は魔法は使えないのですか?


「あー、使えなくは無いのだが……某は『侍』でな?『刀』を……えっと、剣術が得意なのだ。この世界で言う騎士だと言えば分かるかな?」


 あぁ、なるほど。剣術が得意でそれなりにお強いから、そこまで魔法に力を注がなかった、と。


「あ、合ってはいるが、そなた辛辣だなぁ……ちゃんと治癒系と防御系は使えるまで練習したぞ?ただ、飛び道具は卑怯だと……な?武士道と言うか……」


 それはリオに聞けば何となく理由が分かりますか?


「分かるんじゃ無いだろうか?まぁ、女子が武士道を理解までしてるかは分からないが……」


 まぁ、分かりました。飛び道具って話しが出るとは思わなかったので、きっと『サムライ』の信念が理由なのでしょう。


「理解出来た様で良かった。話しがかなりズレてしまったが、某の記憶を全て思い出したぐらいにまた来るよ」


 えぇ?今日は挨拶だけって感じですか?


「あぁ、そろそろ玄孫が某の作った台所で飯を炊いておったのが出来上がった様だからな。精霊や玄孫は、そなたへ刺激を与えるべきか悩んだようだぞ?某の玄孫の手作り飯、しっかり味わって礼を言って来いよ」


 それは嬉しいなぁ。リオが作る物なら毒が入っていても残さず食べたいよ。あ、コテツ殿、今後疑問が出て来たら誰に聞けば良いと思う?


「某に聞けば良かろう?」


 え?また会えるの?そんなにしょっちゅう会って良いのだろうか?


「女神と精霊王は、この世界と関係が強過ぎてな。助言すら出来ない可能性が高い。口を滑らせ過ぎたなら、恐らく消滅するだろう。だから、儚くなった事で生きる世界が変わり、魂も輪廻転生し終わっている、しがらみのない某が記憶と共に甦ったのだよ」


 なるほど。リオとはお話しになれないのですか?


「え?それは君が嫌なんじゃ無いのかい?」


 リオはコテツ殿の玄孫なのでしょう?簡単に言えば、身内のお爺ちゃんでしょう。既に霊体?なのですし、会いたいのであれば、僕は問題ありませんが。


「あ、ありがとう、玄孫の婿殿」


 む、婿殿……幸せな響きだ。早く本当の夫婦になりたいなぁ。おっと、話しが逸れた。コテツ殿に会いたい時は、寝て呼べば良いですか?前にジャンに呼ばれた時には精霊達に頼みましたが。


「あぁ、某は暇だからね。玄孫かそなたの近くでフラフラ見学してる事が多いから、呼びたいんだろうなぁって時には勝手に夢に入るよ。玄孫を呼びたい時には、そなたの精霊か玄孫の精霊に頼んでおけば良い。どちらの精霊も王族だから、上手く夢に誘えるのでな」


 ご存知だったのですか?ソラとシルビーが王族だと。


「魔力の色と強さで分かるからなぁ。ただ、精霊王がそなたにまで契約を許すとは思わなかったが……」


 どういう事ですか?僕では役者不足だと?


「あぁ、そうじゃ無いんだ。精霊と契約出来るのは、帝国の王族のみって知っていたかい?」


 いいえ……リオが例外になった時点で、思い付きもしなかったですね。


「あー、そうだね。あれは女神との約束だったみたいだね。懐いてくれるモフモフと過ごしたいって、こちらの世界に来る前に願った様だ。まさか精霊とは思わなかったみたいだけどね。女神としては、サポートに丁度良いと思ったのだろう。純粋な精霊は女神の眷属だから裏切らないしね」


 思っているより僕が知らない事は多い様だ。何故リオが選ばれて召喚されたのかも魔力の色以外は分からないからね。


「そうだねぇ。あの子は『純白の魔力』を持っている。それが必須だったとは言え、まさか加護まで貰うとは。それだけ現状が切羽詰まっているのだろうね」


 この世界を救う為の救世主がリオなのでしょう?であれば僕はサポート役で良いのかな?


「君が救世主になりたかったかい?」


 いや、それは無いです。僕はリオが好きに生きられるならそれで良いので。そのサポートに全力を注ぎますよ。


「本当にブレないんだな……恐れ入ったよ」


 コテツ殿がヘラッと笑ったタイミングで、どこか知らない部屋のベッドで横になっていると気がついたのだった。

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