第82話 精霊の地で ★リオ SIDE

 翌日の朝早く。カミルや爺や達に見送られて、ソラに連れられ、婆やと一緒に精霊の国へ行く事になった。ソラは王様に許可を貰ってあるらしく、『転移魔法』で、精霊の国の入り口近くまでは行けるらしい。


「精霊の国は普通の人間は入れないの?」


「うん、ニンゲンは精霊の国と言ってるけど、正しくは『精霊界』。住んでる世界が違うと考えて良いかな〜?確かに精霊の加護が無いと入れないんだけど、その前に世界が違うから入り口すら分からないかもね〜?」


「なるほど……?これがその入り口なのかしら?」


 目の前には白い雲……入道雲みたいなのがモクモクしていて、先がどうなってるのかは見えない。ここが入り口だ!って分かる門や扉がある訳では無いのね?何処にも入れそうな場所は見つけられなさそうだ。


「そうだよ〜。バーちゃんもリオも、飛行魔法は使えるよね〜?オイラに着いて来ないと入れないからね〜」


「えぇ、逸れない様に気をつけるわ……」


 体調が万全では無いから、少し心配になっちゃうのよね。まだ微熱があるみたいだし……


「リオちゃん、心配なら婆と手を繋いで行きましょうねぇ」


「その方が安心だわ。ありがとう、婆や」


 婆やは微笑むと私の手を取って、飛行魔法でフワフワと入り口らしい雲の前までのんびりと進んだ。ソラが可愛らしい猫の手をスッと上げると、サァ――ッと雲が透明になった。


「ここから入るんだよ〜」


 えぇ……全て同じ白い雲に見えるのだけど?何故ソラには分かるのかしら?


「私1人では、入り口を探せる気がしないわ……」


「リオは魔力の気配を察知出来るでしょ〜?そこだけ気配が違うから、集中すれば分かると思うよ〜」


 それなりに魔力感知能力が高く無いと来れないのね?


「そんな事教えて良いの?」


「王様に招待された時点で、教えて良い人だけが入れるから問題無いんだよ〜」


「あぁ、だから婆やも大丈夫だろうって?」


「正解〜!一度来たニンゲンは、加護を外されない限りは自由に出入りオッケーだよ〜」


 って事は、私も今度から自由に出入り出来る事になるんだね?でも、ここまでどうやって来るんだろう?結局は、ソラを連れて来る事になるのでは……?


「あら、そうなのぉ?知らなかったわぁ」


「あ〜、バーちゃんは説明される前に、契約した子が消滅したから知らなかったんだろうね〜?説明する暇が無いくらい、バタバタしてたんじゃ無い〜?」


「えぇ、そうねぇ。あの時は帝国全体が大変だったからねぇ……」


 過去を思い出したのか、婆やはしみじみと遠くを眺めながら呟いた。


 ⭐︎⭐︎⭐︎


『精霊界』の中は、自然界と言った方がしっくり来るぐらいに自然豊かな場所だった。所々に浮いている雲の様な子達が精霊なのだろうか?


「あのね、最近ね〜って言っても、リオの使い魔になる前なんだけどね〜。オイラを含めた精霊達は、皆んな元気が無かったんだよ〜」


「無かった?今は元気なの?」


「あ〜、オイラはリオの魔力を貰ってるから元気になったんだよ〜」


 ソラだけでも元気になったのなら良かったわ。皆んなは何故元気が無いのかしら?ソラは私の魔力を食べてるわよね?


「という事は、精霊の食事となる魔力に問題があるのかしら?」


「そう考えるのが妥当なんだけどねぇ……正直、全ての精霊がパワーダウンするのはおかしいんだよ〜」


「え?どうして?」


「確かに精霊信仰の深い国には、自由に精霊が行き来するんだけどね〜。一定の能力というか……試練?を通過した精霊だけが『精霊界』から、外の世界へ行ける様になるんだ〜」


「あぁ、『精霊界』にいる精霊まで元気が無いのがおかしいのね?外に出てる子だけなら何かしらあったのだろうと分かるけど」


「そうなんだよ〜。『食事』に問題があるのなら、この精霊界の魔力もおかしいって事になるでしょ〜?」


「前にソラは、ご飯が食べれないから精霊界へ帰ってるって言ってたわよね?ここには精霊が食べれる魔力は豊富にあるって事でしょう?」


「そうだね〜。ここに居れば、ニンゲンで言う所の息をしてるだけ?存在するだけで何も食べなくても生きて行けるんだよ〜」


「へ〜!便利ねぇ。ソラ達精霊さんは、お腹が空いたりしないの?」


「ん〜、お腹が空くと言うよりは、魔力が減って来ると力が出ないって感じかなぁ〜?」


「そっかぁ……例えば、隣国には精霊さんが食べれる魔力はあるのよね?信仰があるから」


「うん、そうだよ〜。教会とか、ニンゲンが祈ったりする所にオイラ達が食べれる魔力があるんだ〜」


「ん?じゃあ、精霊達はご飯を食べたい時は、毎回教会に集まるの?」


「そうだねぇ〜。リオは何気に鋭いよね〜……オイラも今まで気が付かなかったや……」


「そして、その精霊達は、『精霊界』にも帰って来るんだよね?」


「その通りだよ……」


「精霊の疫病みたいなものでも流行ってるのかしら?」


「あ〜、そっちの線もあるのかぁ〜……」


「リオちゃん、大丈夫?顔色が悪いわよ?」


「あ〜!本当だ〜……ごめんね、リオ。話しに夢中で気が付かなかったよ〜。もう少しで王様の所なんだけど、我慢出来るかなぁ〜?」


「えぇ、大丈夫よ。ソラが仲間達を心配してる気持ちもとても良くわかるから、謝らなくて良いのよ。私もカミルやデューク、リズ達に何かあったら、同じ様に話しに夢中になってると思うもの」


 フワフワと私の目の前で浮いているソラの頭を優しく撫でてあげる。ソラの毛並みはとても気持ち良いから、私まで癒されるわね。


「ほぉー、そなたが異世界から来た聖女かい?」


 ちょうど角を曲がった辺りで、目の前にとても大きな雲が現れたわ……ソラ達は可愛らしいサイズの雲だったけど、見上げたら首が痛くなるぐらい大きな雲だった。


「あ〜!王様〜!ただいま〜」


 えぇ……王様も雲なのね?キングサイズ……確かに大きさで比べるしかないわよね。全て白い雲なんだから。


「おかえり、坊や。良く連れて来てくれたね。シアも、久しぶりだね?息災だったか……?あー、足を悪くしたんだったなぁ?」


 そう言えば、婆やと王様は顔見知りなのよね?かなり突っ込んだ会話だから、少しハラハラするわね……


「お久しぶりねぇ、王様。足はリオちゃんが治してくれたから、もう気にしなくて良いわぁ」


「そうは言ってもなぁ?悪い精霊と勇敢な精霊が暴走した結果、シアに怪我をさせてしもうたからなぁ……」


「婆は今でも精霊達を愛しているわぁ。だから何も言わないで?大好きな精霊達と離れるのは辛かったけど、デュルギス王国へ来てからは幸せに暮らしているわぁ」


「そうか、シアはもう前を向いているんだな。それを我がとやかく言うのは御門違いってヤツなんだろう?」


「そうよぉ。婆は幸せ。それが全てよぉ」


 婆や、カッコ良い!私もそんな大人になりたいわ。年齢的には大人なんだけどね……当たり前なんだけど、私の何倍も生きてる婆やには敵わないわよね。


「クックッ、シアも相変わらずだなぁ?あぁ、異世界の聖女よ、我が精霊王のイナリだ。よろしくな」


「え?イナリ……?っと、私はリオ=カミキです。よろしくお願いします……」


 聖女と呼ばないで欲しいという突っ込みは慌てて言えずに消えてしまったわ……だって、イナリって……


「はっはっは!そうじゃろうなぁ。そなたも『日本』からの召喚者だろう?イナリと言う名前から連想するのは何だ?」


「イナリ……お稲荷様と、その眷属であるお狐様か、おいなりさん?いなり寿司とか……かしら」


「ええっ!リオ、王様の擬態した姿見た事無いよね〜?王様は白い狐なんだよ〜!そんなに有名なの〜?」


「えぇ、そうね……?日本人なら誰しも知ってるんじゃないかしら?白いお狐様で、赤い前掛け……首掛け?をしていて、神の使いと言われてるんだっけ?」


「ん〜?狐は神様の方じゃ無いの?」


「えぇ、お稲荷様は神様だけど、お狐様は眷属だから、ちょっと違うと思うわよ?」


「そ、そうなのか!?今まで知らなかったぞ……」


「あ、いえ、イナリと言う名前は神様で合ってると思うのですが、恐らくイメージがお狐様だったのだと……」


「何故イメージが狐なのだ?」


「えっと?お稲荷様の祀ってある、稲荷神社の両脇……入り口辺りに、2体のお狐様が石像でいらっしゃるからだと思います……」


「んん?絵で描いてくれるか?」


「あー、私の絵は……アテにならないかと……」


「オイラが描くよ〜!入り口があって〜?その両脇に狐がいるんだね〜?神様は〜?」


「真正面に祀ってあるわね」


「こんな感じ〜?」


「えぇ、そうよ。ソラは凄いわね!」


「えへへ〜。王様、オイラ褒められた〜」


「クックッ、そうだな。坊やは絵も昔から上手かったもんなぁ?ふむ、なるほど……彼奴は混同したんだな?」


「恐らくは……でも、ただ単に、お狐様が可愛いしカッコ良いって理由で選ばれたのかも知れませんし?」


「ふむ、今となっては真相は分からぬからなぁ……リオと言ったか?そなたは狐がカッコ良いと思うのか?」


「え?あ、はい。お狐様はカッコ良いですよ?」


「そうか、そうか。どれ、我が姿を見せてやろうな?」


 満足そうに頷いた王様は、ドロン!と姿を変えた。あぁ――、九尾の狐の方だったわ……それはまた違うんだけどなぁ?霊獣とか神獣とか言われてるから神の使いではあるのかな?それに悪い狐も……うん、説明が面倒だから放置しましょ……まぁ、見た目はカッコ良いもんね?


「わぁ!九尾の狐なんですね!カッコ良い!」


「あらあら、初めて見たわぁ。尻尾が沢山あるのねぇ」


「私の住んでた世界では、物語によく出て来る、色んな意味で強い狐ですね……実際にいると言うよりは、やっぱり神獣ってイメージでしょうか」


 妖怪にも……と言いかけて口を噤む。世の中、知らなくて良い事もあるわよねぇ?私しか真実は知らないんだし黙っていましょ……


「ほぉ……精霊は神では無いから間違ってはいないのだがなぁ?我は精霊の王なだけであるから……一応、ニンゲンの言う所の、神の使いではあるからなぁ?」


「え?そうなんですか?」


「うむ、我は神のサポートをする存在なのだ」


 へぇー?この国……ここは精霊界ね。えっと、カミルが居る世界の神様って誰だろう?日本は沢山神様が居たからね。あれ?信仰は女神様と精霊なのだから、神様って女神様?


 そうなのかも知れないわね?えぇー?女神信仰と精霊信仰って、神様とその眷属を信仰してるって事……?人間は神様に会う事なんて無いから分からないのかな?そうね、いつも私が特殊なんだもんね……


 でも、精霊信仰のお陰で精霊達が食べれる魔力を得られるのよね?だから別れてるのかしら?うーん、不思議だけど、日本より信仰する数は少ないから分かりやすいわよね?


 深く考え込んでいると、頭がクラクラして来た……さすがに体調不良の体では限界だったらしい。体が倒れる直前に、王様が沢山ある尻尾で私を包み込んでくれた様だ。


 怪我をせずに済んで良かったけど、少し申し訳なくなるわね。王様直々に、それも尻尾で助けてくれたのよ?動物って尻尾触られるのを嫌うじゃ無い?精霊は気にしないのかしら……?なんて考えても意味の無い事が頭の中でグルグルしている間に、いつの間にか眠りについていたのだった。

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