第81話 精霊の力 ★カミル SIDE
デュークと飛行魔法でリオの元へと急ぐ。昼に顔を出す予定だったのだが、幼馴染リズの父親であるエイカー公爵が、リオが転移魔法で拐われた時の記憶が曖昧になりつつあると報告を受けたからだ。
『罠』が仕掛けてあった事と、リオが『弾けなかった』事で、『精霊』が絡んでいる事は分かっている。かなりの確率で、隣国の皇太子が関わっているだろうね……
師匠曰く、現時点でリオが『弾けない』なら、精霊や女神レベルの強さしかあり得ないと。皇太子の魔力の強さは知らないが、デュルギス王国の王族より弱いはず。であれば、皇太子の連れている『精霊』が関わっている事は間違い無いのだ。
「リオ、遅くなってごめんね?」
リオに用意されたという部屋に案内される。素直に遅くなった事を謝った。
「カミル……お仕事は大丈夫なの?忙しかったのでしょう?」
「うん、大丈夫だよ。今は師匠が事実確認しに行ってくれているからね。この後は、師匠が帰って来てから、その報告を聞くのが僕の仕事だよ」
僕の事ばかり気にしてくれるリオに、つい戯けて見せる。こんなに顔色が悪いのに……大丈夫だろうか?
「ふふっ。じゃあ、爺やが帰って来るまでは一緒に居られるのね?」
「あぁ、勿論だよ。僕もリオに会えなくて寂しかった。リオを近くに感じたいよ」
ベッドサイドの椅子に座り、リオと手を繋ぐ。まだ熱が下がり切って無いのか、手もポカポカと暖かい。長い間見つめ合っていると、リオが風魔法で声を届けて来た。
「カミル、お願いがあるの……」
どうしたのだろうと、首を傾げる。するとまた風魔法を使って声が届く。
「あのね、ソラが少し不安定みたいなの。私の具合が悪いせいで何も言えないでいるなら可哀想だから、話しを聞いてあげて欲しいのよ」
今回は『精霊』が関わっているから、心を痛めてるのかも知れない。リオの目を見てしっかりと頷けば、リオは微笑んでくれた。頼りにしてくれるのが嬉しい。
リオと繋いでいた手を離して、ソラを探す。この部屋には居ないのかな?
「リリアンヌ、ソラは何処にいるの?」
「奥方様の所かと」
「ちょっと席を外すから、よろしくね?」
「かしこまりました」
⭐︎⭐︎⭐︎
婆やの部屋の扉をノックする。
「はぁい?」
「カミルです」
「あら、いらっしゃい!開いてるから入ってらっしゃい」
「失礼します」
婆やの部屋は落ち着いた深緑色で統一されている。婆やの魔力の色が緑色だからだろう。緑は赤の次に強い色だ。
「ソラはこちらに……婆やの膝の上を陣取ってますね」
「ふふっ。甘えたがり屋さんで可愛いわぁ。今はリオちゃんの体調が悪いから、婆の所へ来てくれたのかしらねぇ?」
婆やはソラを膝に乗せて、嬉しそうに撫でていた。
「ソラ、少し話しをしたいんだけど、良いかな?」
「カミル、言いたい事は何となく分かってるよ〜。リオがオイラの事を心配してくれたんでしょ〜?」
「うん。仲間が関わっているのかい?」
「そうみたいだねぇ……王様の所へ帰って報告したいけど、今のリオを置いて行けないんだよ〜」
今はリオの側を離れるのは避けたいって事だろう。何か懸念があるなら知りたいけど、精霊の事を詳しくは教えてくれないだろうからね。
「リオはその子の所為で熱が出てるの?」
「ここ数日は特に、リオの体が弱ってたからね〜。オイラと契約した頃ぐらい元気だったら、ここまでにはなって無かったと思うよ〜。恐らく、記憶も混濁しなかっただろうねぇ……」
リオが弱ってるのは皆が気にしていた。本人が自覚していないものだから、上手く休ませる事が出来なかったのだ。
「そうか……リオは当分、婆やの元で療養させようと思うんだけど、ソラはどうした方が良いと思う?」
「カミルがしょっちゅう会いに来てくれるなら、バーちゃんの元に居るのが元気になるとは思うけど……」
「勿論、毎日顔を出すつもりでいるよ?何か不安でもあるのかい?」
「不安とは違うよ〜。一度、王様の所へリオを連れて行きたいんだ〜」
精霊王の事は話しで聞いた事はあるが、精霊信仰が主な隣国よりは情報が圧倒的に少ない。
「何か解決策があるのかい?」
「ん〜、絶対とは言えないけどね〜?今よりは楽になると思うかな〜」
今より熱が下がり、体調が少しでも良くなるようなら縋りたいとは思ってしまう。
「そうか。どれぐらいの期間、いる予定だい?」
「あ〜、王様の所は時間の流れが違うから、こちらには数時間居ないだけだよ〜。リオの体感的には、あちらに3日間ぐらい居る事になるのかなぁ〜?」
初めて聞く話しだ。こちらの時間より長い時間を過ごせるなんて……
「不思議な空間なんだね。どうやって治療するんだろうね?」
「リオの魔力に干渉してる力を完全に消去しなきゃダメなんだけどね〜。オイラ頑張ったんだけど、全部は消せなかったんだ……」
悔しそうに呟くソラは、リオの為に一生懸命頑張ったのだろう。仲間の所為でリオが苦しんでる事が辛いのかもしれない。
「あら、リオちゃんの熱が下がったのはソラちゃんのお陰だったのねぇ。最初は凄い高熱でねぇ?心配してたのよぉ」
「そうなんですね。ソラ、ありがとう。残りの力も王様の元へ行って消せる可能性があるなら、任せても良いだろうか?」
「カミル……今よりは楽になると思うけど、もしかしたら完全には消せないかも知れないんだよ〜?」
「それはソラの所為じゃ無いだろう?一緒にいた公爵も意識が混濁してるみたいなんだ。リオが落ち着いたら、公爵の事も診て貰えるだろうか?」
「うん……リオを守ろうとしてくれた人でしょ〜?オイラに出来る事なら手伝いたいって思うよ〜」
「ありがとう、ソラ。出来る事をしてくれて、リオの為に一生懸命考えてくれて、本当にありがとう。感謝してるよ」
「ソラちゃん、婆も連れてってくれるかしら?」
「うん、良いよ〜。バーちゃんは来た事あるよね〜?」
「えぇ、随分と昔の事だけどねぇ。足を怪我する少し前だったかしら。弟の精霊について、王様と話しをさせていただいた事があるのよぉ」
「王様から聞いてるよ〜。シアによろしくって言ってたし、リオの家族だから多分大丈夫だと思う〜」
「それじゃあ決まりだね。師匠が帰って来て、報告してから連れて行かないと大変な事になるから……明日の昼ぐらいに行くかい?」
「朝ごはん食べて〜、お昼寝してから〜?」
「ソラちゃん、朝ご飯食べた後直ぐに寝るの?お昼には起きるのかしら?」
「うん、お昼ご飯食べなきゃでしょ〜?その後に、もう一度お昼寝するんだよ〜」
「ソラは精霊だよね?完全に猫の生活になってるね?」
「擬態した生き物の生態に近くなるんだよ〜」
「そうなんだ……」
「嘘だよ〜?オイラはリオが居ないと暇だから寝てるだけだよ〜。後は膝の上に乗せて貰うと撫でてくれるでしょ〜?それが眠気を誘うだけだから〜」
「まんま猫では……?」
「そうとも言うね〜」
「まぁ、明日はよろしく頼むよ……」
「あ、話しを終わらせようとしてるでしょ〜。たまにはカミルも構ってよ〜?」
「ソラって、師匠と気が合うのでは?」
「ん?そうだね〜。ジーさんはリオの事も大事にしてくれるし、バーちゃんの事も大好きだから、オイラも気に入ってるよ〜」
精霊に気に入られる事が難しいらしいから、師匠とも上手くやれるって事なのだろうか?
「まぁ、出来るだけ皆と仲良くしてね?」
「うん、仲良くするよ〜。仲良くしないとリオが悲しむからね〜」
ソラもリオが基準なんだね。僕と同じで安心したよ。明日には、少しでもリオの体調が良くなる事を祈っているよ。
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