第44話 第二陣 スタンピード ★リオ SIDE

 今日は2回目のスタンピードが予言された日よ。先日、第一王子のアルフ様達とは、前回起こったスタンピードで行った事や注意点などを細かく伝え、どうすべきかを話し合ったのよね。

 

「それでは先日決めた計画のおさらいです。アルフ様はずっと手を前に出しておいてください。私の撃つ魔法をアルフ様が撃っている様に見せかけます。マイ様は、アルフ様が魔法を撃つ時だけ合図してもらい、手を前に出してください。アルフ様が撃つ魔法は、マイ様が撃っている様に見せかけます。私は隠密魔法をかけた状態でアルフ様の隣に立ち、『狭間』辺りに上級をひたすら撃ち込みます。アルフ様の射程距離は50mと聞いておりますので、それぐらいの距離まで迫って来た魔物を倒してください。その手間、20m辺りにアルフ様の近衛騎士を配置し、撃ち漏らしを倒して貰います。質問はありますか?」

 

 私とソラは隠密魔法を掛けた状態よ。そして動きやすい様に乗馬服を着ているわ。この世界で女性のパンツスタイルはアウトらしいのよね。隠密魔法を使っていても、フワフワ、ヒラヒラしたドレスが人に当たれば気付かれてしまう。そして単純に邪魔だからね。


 カミルの妥協案としては、騎士服か乗馬服であればと言われたので、今後無駄にならないであろう乗馬服を作って貰ったのよね。

 

「リオ様、質問は特にありません。私は魔物が現れた時に、この水晶に魔力を流し、アルが撃つタイミングで手を前に出すだけですから……」

 

 マイ様には録画水晶を預けてある。何かあった時に証拠として残す為だ。私もホルダーを作って貰って、小さめの録画水晶を首からかけているが、こちらは刺客の顔を撮りたいだけなので、刺客が現れてから録画を開始する予定である。

 

「マイ、私も腕を前に伸ばして置くだけだ。カミルが言うには、ほとんどをリオ様が倒してしまうだろうと言ってたからな……」

 

「お2人とも、それも大事なお仕事ですよ。私には隠れ蓑が無ければ何も出来ませんからね?」

 

「…………何から何までありがとうございます」

 

 アルフ様が申し訳なさそうにお礼を言ってくれた。態度も初めて会った時より柔らかくなってる気がして嬉しいわ。スタンピードは私が好きで手伝っているのだから、気にしないで良いのにね。

 

「リオ殿!防御壁の準備が出来ましたぞー!」

 

「ありがとうございます!デューク、100m地点で間違い無かったかしら?」

 

「あぁ、合っていました。魔導師達も、前より魔力量が増えているから、上級魔法もかなり撃てると思いますぞ」

 

「助かります!私が刺客に手こずってしまった時には、よろしくお願いしますね」

 

「おぅ!任せてくだされ!」

 

 デュークも少しテンションが高めね?『練習装置』で上級の最速をクリアしたのが嬉しかったらしいと、今朝カミルから聴いてはいたけども。

 

『リオ、そろそろかも〜』

 

 ソラが念話して来る。念話でも変わらず、のんびりした話し方だから、私も心穏やかでいられるのよね。

 

『了解!』

 

「アルフ様、マイ様、近衛騎士の皆さん、少し予定よりは早いですが、そろそろ魔物が出現しそうですので、各自移動を開始してください!」

 

「「「「はっ!!」」」」

 

 アルフ様とマイ様が居るのは、平地より2m程高い場所にある岩の上だ。刺客が現れた時に標的としてわざと見やすい位置に居てもらう事にしたわ。防御膜を張ってあるから、攻撃されても当たらないしね。

 

 さて、皆んな配置に着いたようだわ。確かに大気中の魔力が揺らいでる様に感じるわね……

 

『来るよ!』

 

「来ます!アルフ様、1発撃ち込んで更に誘発しますので、腕を上げてください!」

 

「はい!」

 

 アルフ様が腕を上げたと同時に、雷魔法を『狭間』に撃ち込んだ。凄い勢いで魔物が溢れて来る。上級魔法をこれでもか!と、魔物と『狭間』に向かって撃ち続けた。


 アルフ様とマイ様は、上手く連携して50m地点に魔法を撃っている。何匹かチョロチョロとしてるぐらいなので、中級魔法で確実に仕留めている様だ。

 

『刺客も何も来ないねぇ〜?』

 

『そうね……後どれくらいで終わりそう?』

 

『1割?今回は40万匹すらいなかったみたいだね〜』

 

『それは良かったわ。さすがにやり過ぎてる気がするし?』

 

『そうだね〜。1時間以上、上級魔法を撃ちっぱなしだもんね〜』

 

『アルフ様の所為にするから良いわ……』

 

 サクッとスタンピードを終えられそうではあるのだが、刺客が来ないのも問題で……

 

『ソラ、カミルに連絡してくれる?後、近くに不審人物が居たら教えてね』

 

『おっけ〜!行って来るね〜』

 

 ソラはフワフワと浮いて移動して行く。ソラは精霊なので、歩くのは苦手らしい。精霊って普段から浮いてるんだって。目の前でフワフワしてると捕まえたくなるよねってカミルに言ったら、めっちゃ笑われたのよ……カミルの笑いのツボが分からないわよね。

 

 50m地点の魔物もアルフ様が倒してくれたので、近衛騎士達は全く出番が無く……でも、興奮して魔物が倒されて行くのを見ていた。

 

 最後の一匹をアルフ様が仕留めると、2回目のスタンピードは無事終了である。結局刺客は来なかったなぁ。用心して、近衛騎士達に周りを堅めて貰い、防御膜を張ったまま城に帰って欲しいとお願いした。勿論、私もアルフ様のすぐ後ろを着いて歩く。

 

 魔物の生き残りがいないか確認してくれていたデューク達と途中から合流して、応接室で待機する。パーティーまでも時間があるし、刺客も来ていないので周囲を警戒しつつ、カミルに指示を仰ぐ事にしたわ。

 

『リオ〜、何も無かったよ〜』

 

『何も?それはそれで不自然ねぇ……』

 

『カミルも同じ事言ってた〜』

 

『そっか……人の居た気配も無いと言う事よね?』

 

『うん、そうだよ〜』

 

『カミルはこのままパーティーに出ても良いって?』

 

『陛下に報告しに行くから、相談するって〜』

 

『そう、分かったわ。ソラ、ありがとう。お疲れ様』

 

『後で魔力ちょうだいね〜』

 

『えぇ、勿論よ』

 

『わーい、リオの魔力好きぃ〜。オイラはカミルの所にいるね〜?呼んでくれたら直ぐ来るよ〜』

 

『えぇ、分かったわ』

 

 ソラは情報をカミルから得て来てくれるつもりなのだろう。私の元にいるより有意義だと思ったのかも知れないが……

 

 カミルが判断に迷っているのだから、陛下とのお話しは長引くかも知れない。かと言って、下手に食べ物を口にするのもはばかられる。まだ刺客が現れていないのだ。

 

「リオ殿、私がこの場にはおりますので、一度お部屋に戻って着替えられては?パーティーに出るかは不明ですが、砂埃で汚れておられるかも知れませんし……」

 

 デュークが気を遣ってくれている。確かに手足はザラザラしてるし、乗馬服なので着替えた方が良さそうだ。

 

「そうね。せめてドレスに着替えて来るわね……」

 

「えぇ、そうなさってください。パーティーが始まるのは夕刻からですし、少し休憩なさった方がよろしいかと」

 

「ありがとう、デューク様。アルフ様、マイ様、一度失礼しますね」

 

「ああ、気が利かなくて悪かったな。また後で会おう」

 

「リオ様、ありがとうございました。またパーティーでお話しさせてくださいね」

 

「えぇ、勿論。また後程」

 

 隠密魔法を自分にかけ、廊下をゆっくりと、足音を立てない様に気を付けながら歩く。見えてないのに足音がしたら怖いからね……人が少ない道を選びつつ自室を目指した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る