失礼だけど憎めない侯爵様【ユリアーナSIDE】

第19話 最終話【ユリアーナSIDE】



 依頼が次々に終わってしまった私は、数日間の休みを貰えることになった。

 始めの一日は、溜まっていた用事を片付けたが、二日目にはもうやることがなくなってしまった。


 ふと寮の部屋から空を見上げると、青い空が広がっていた。


「いい天気……のんびりカフェにでも行こうかな……」


 突然の休みにすることのなくなった私は、ジルに聞いたあまり人の多くない、サンドイッチやコーナーが美味しいというカフェに向かった。

 今日は平日ということもあり、店内は込んでいない。


 私は、隅のテラス席に座ると、のんびりとコーヒーを飲んだ。

 こんなにのんびりと過ごすのは久しぶりだった。

 私は女官試験を受けると決めた時から、ずっと試験勉強に忙しく、女官になってからも多忙な部署でひたすら仕事ばかりをしていた。


 今回、突然仕事が途中で終わってしまって、張り詰めていた糸が緩んだ気がした。

 周りを見る余裕が出来た――そう思えた。


 そう思った時だった。


「ユリアーナ、ここいいかな?」


 声をかけられて、声のした方を見上げると、信じられないことに、キュライル侯爵家のフレン様が私の前に立っていた。

 しかも、私の名前を呼んだ?


 私は動揺しながらも「どうぞ」と答えた。

 すると、フレン様も驚いた顔をした後に、私の前に座った。


 どうして私の名前を知っているのだろうか?


 そんな質問をしようとした時だった。


「ユリアーナ。君の男性を見る目は壊滅的だ。ここはもう、あなたという素晴らしい女性を見つけた私の選定眼を信じて――私と結婚してくれないか?」


 え?

 何?

 今、何が起こったの??


 私は咄嗟のことに何が起きたのか全く理解できなかった。


 私の男性を見る目がない?

 正直なところ、誰かを好きになったことがないので、その辺りがまるでわからない。

 私の選定眼を信じて?

 それって、どういうこと?

 フレン様が……私を選んだってこと?


 私は、唖然としながらフレン様に尋ねた。


「あの……もしかして、どなたかとお間違えでは……」


 私がそう言うと、フレン様が真剣な顔で言った。


「君は、ユリアーナ・ガイルドだろ? 君以外に誰がいるんだ。愛してる!! 君のことばかり考えて、正直、仕事も手につかない!! このままでは、君をさらってしまうそうなほど切羽詰まっているんだ」


 え? そんなに?

 どうしよう、何度かお会いしたことはあるが、一瞬だった。

 とてもフレン様の意識に残るような出会いではないと思うが……。


 だがフレン様は美しい顔を真っ赤にして、少し震えながらも真剣に私に想いを告げてくれた。

 私はその姿をとてもかわいいと思ってしまった。


「私に、フレン様のような方はもったいないです……」


 本気でそう思った。

 フレン様は侯爵様で、社交界でも一番人気の方。

 ギリギリ女官試験に受かった自分とは釣り合わない。


「そんなことはない。ユリアーナは誰よりも努力家で、誰よりも真面目で、誰よりも誠実だ。好きなんだ……君しかいらない……」


 切なそうな侯爵の言葉を聞いて、私は気が付けば返事をしていた。


「では……お試しでお付き合いを……」


 私がなぜ、そんなにもフレン様に気に入られたのかわからないが、お付き合いをしたみたら、私という人間を知ってあきらめてくれると思ったのだ。


「本当か? では、寮に手紙や贈り物をしてもいいのか? ユリアーナに(毎日)会いに行ってもいいのか?」


 私は、大きく頷いた。


「はい。ですが、どうか無理はされないで下さいね」

「ありがとう!! ユリアーナ」


 その半年後。私は正式にフレン様の婚約者になり、さらに一年後に結婚式を挙げることになるのだが、その時の私はそんなことは知らなかったのだった。






【完】


 

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侯爵様の溺愛奮闘日誌~絶対に彼女を振り向かせる~ 藤芽りあ @happa25mai

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