第11話 再びのお仕事(1)【ユリアーナSIDE】
「ユリアーナ。昨日はゆっくりと休めたか?」
お休み明けに仕事場に行くと、室長が声をかけてくれた。
「はい。ご配慮感謝いたします」
お見合いの話はあったが、実家に戻り、馬に乗ってリフレッシュは出来た。
私が答えると、室長が書類を差し出した。
「そうか。よかった。では、次はこの人物に近付いてくれ」
本来なら私はまだナヘロ伯爵の件に関わっている予定なので、しばらく書類仕事だと思っていたので、新たな仕事が来たことに驚いたが、顔には出さずに答えた。
「確認します」
書類を確認していると、室長が困った顔で言った。
「この件は、エリーゼに頼もうと思っていたのだが……エリーゼの調査が長引いていてね……頼めるか?」
次の調査は……私がつい最近までまとめていた内容……。。
――ドラン子爵の浮気調査。
次の調査内容は浮気調査だった。
浮気調査は、調査員として二年目以上の諜報員が携わることが多い。
「ユリアーナは、武術や剣術も使える。いざとなったら物理的に身を守れるだろうから、少し早いが頼めるだろうか?」
浮気調査は、調査対象と話をすることはないが、その人物を尾行したり、周囲の人物に自然に話を聞く必要がある。尾行したりする場合、危険な場所に行くこともあるのだ。
調査依頼書は私がまとめていたので詳細はよくわかる。
ドラン子爵は夜会に、一切夫人を連れて行かずに、秘書と共に行くらしい。ちなみに秘書は男性だ。夫人は夜会でドラン子爵が浮気しているのではないか、と疑っている。
というのも、ドラン子爵は一度、あろうことか伯爵家の令嬢と浮気をして、相手を妊娠させて、多額の慰謝料を支払っている。
この国では、女性が妊娠した場合は、相手の男性が出産費用、生まれてくる子供の生活費、学費、また妊娠した令嬢が生活に困窮していた場合は、令嬢の生活費など全てを負担する必要があるのだ。それをまとめて慰謝料という言い方をする。
夫人は、子爵の浮気というよりも、多額の慰謝料を払う事態を恐れているのだ。
私は、書類から顔を上げて、室長を見た。
「夜会の招待状の手配の依頼書を提出いたしますので、また、書類をお持ちします」
今回の件は、夜会に潜入する必要がある。
どの夜会がいいかを調べて、招待状を手配しなければならない。
室長は、忙しそうに席を立ちながら言った。
「わかった。今日は夕方にここに戻る。その時に印を押すから、それまでに書類を仕上げてくれ」
「はい」
私は深く頭を下げた。
こうして、私は再び調査をすることになったのだった。
◇
「これなんかどう?」
私は、夜会の衣装を借りるために城になる貸衣装部に来ていた。
ここは、女官が仕事で夜会に出席する際に、ドレスや装飾品を貸してくれる部署だ。裕福な家の出身の者は自分で用意する人もいるが、私の家はそうではないので貸してもらうことにした。夜会というのは特殊で、いつも同じドレスを着ていると、目立ってしまうのだ。これから社交シーズに入り、個人的にも夜会に出席することもなるので、仕事の時は借りる人が多い。
「手持ちのドレスが青系がおおいから、それ以外がいいかな」
貸衣装の担当は、私の学生時代の友人なの気安い仲だった。
「そう……目立たずに、明るい色。このオレンジのドレスはどう? 最近オレンジは流行色だから着ている令嬢は多いと思うから目立たないと思うわ」
「じゃあ、今回はそれにしようかな」
「わかった。じゃあ、夜会の日に着付け室に届けておくわ」
「お願いね」
私は、ドレスを貸衣裳部を出た。
「きゃ~~~!! フレン様~~~!!」
「素敵……!!」
少し遅めの昼食を摂るために、宮廷内の食堂に向かっていると令嬢たちの黄色い声が聞こえた。
フレン様……がいらっしゃるのか……それなら仕方ないか……。
おそらくキュライル侯爵家の嫡男がいるのだろう。彼のような高位貴族がこの文官ばかりいる棟にいるのは珍しい。彼らとは夜会くらいでしか会えないが、夜会では高位貴族令嬢が脇を固めているので、一般的な令嬢は近づけない。
こんな場所を彼が歩いていたら……お近づきになりたいという令嬢に囲まれるのも無理はない。
私は失礼にならないように頭を下げながら、令嬢に囲まれるフレン様の脇を通り過ぎて食堂に向かったのだった。
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