最終章 恋子が空を飛んだ日

私はあの空を飛びたいって毎日思っているの。人生を楽しんで、

ああ楽しかったって、肉体という不自由な物体から解放されてじゃあねって

さよならと言えたらどんなに幸せかしら」

そして私の方を振り向いた。

「キヅキさん・・・きづき・・・素晴らしい名前だわ。あなたの名前も偶然じゃなさそうね。ほんとの自分に、ほんとになりたい自分に早く【気づいてね】と、

名前が叫んでいるわよ」

穏やかに笑う表情はまるでこの世のものとは思えない慈愛に満ちていた。恋子の

身体が透けて外の景色が見える程の透明感に私は涙が溢れて止まらなかった。

それが恋子の姿を見た最後となった。


田宮からメールが届いたのは恋子が消息不明となってから二週間過ぎた頃だった。

「元気ですか。僕は来月カナダへ留学します。

今まで親の庇護の元で甘えて生きていました。

経済的な不自由のない生活、親子関係も友人達とのつきあいも悩むことなく

今日まで生きてきました。

今にして思えば、恋子は僕の固定観念の殻を破りほんとの自分を探す手伝いをしてくれた救世主だったと確信しています。

君もほんとに大事なものを、見つけてください。

君と出会わせてくれたのも恋子です。

彼女はすべての人々の救世主であったのだと確信しています。

出会いにありがとう。さようなら」


今でも時々思う。

私が出会った恋子は現実に存在していたのだろうか。

私が経験したものこそが、バーチャル世界だったのではないだろうかと。

無いと思っている世界、それは、有る世界なのかもしれない。私はどこかでそのことを意味もなく信じる自分がいた。空を見上げると白い雲がぽっかりと浮かんでいた。

どこからか恋子の声が聞こえてくるような気がした。

「ねえ、とっても気分がいいの。あなたも空を飛んでみない?」」




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あなたが空を飛んだ日 @029keiko

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