ゆるし
「好きなんだって。俺のこと」
「ふうん」
彼女の手が本のページをめくる。視線は動かない。恋人はあいかわらずクールで、期待していた動揺なんてそぶりは一切ない。
「君のお姉さんからだよ? もっとさあ、なんかないの」
「ない」
「そっか……」
わかっていたものの落胆は大きい。恋人として数年の付き合いだけど、その間に彼女がひどく狼狽えたり驚いたりしたことなんて見たことがない。だから、彼女の身内から告白されたと突然言われたって、彼女にとって心を激しく動かすような出来事にはならないのだろう。そう思っていたが、
「だって知っていたから」
と言うものだから俺の方が驚いた。
「……え!」
「姉はあなたと初めて会ったときからあなたを狙っていた。自分の好みに合致していると」
「へぇ~」
お姉さんと会ったのは彼女と付き合いはじめてすぐのころだ。そんなに前から思われていたとは。
そう聞くとさらに疑問が浮かぶ。
「それ知ってたのに、お姉さんと俺が会うの止めたりしなかったんだ」
「ええ。あなたがそれに惑わされるとは思わなかったから」
止めるほど興味がなかった、わけではないらしい。俺を買ってくれていたからと知り声が浮足立つのが自分でもわかる。
「信じてくれてたんだ」
「私はすべてを知っている」
そして彼女は本を閉じた。
「姉は告白の最後にあなたにキスをした」
彼女は見てきたかのようによどみなくそらんじた。衝撃を受ける俺を気にすることなく彼女は続ける。
「あなたはそれを受けてもやんわりと拒否をした。私のために。姉も私から無理やりあなたを奪うことを目的としていない。この話はそこで終わったはず」
「あ、ああ……」
「それでもあなたは私に伝えると思った。私の反応が知りたかったから」
図星を突かれて口を閉じる。目を泳がせていると彼女は笑った。彼女がこんな風に笑うのは珍しかった。
「そんなに知りたいなら教えようか」
そのまま彼女の顔が近づいてきてキスをされた。いつもより長いそれは、言葉がなくても彼女の気持ちを雄弁に伝えてきて、俺の心は満たされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます