第3話 豆腐小僧

 その日も僕はケウケと共に酒を飲む。二人で日本酒の肴に湯豆腐をつつきながら、会話を楽しむ。


 ちなみに酒はケウケが持ってきて、湯豆腐は僕が用意した。酒をご馳走になっているので、これくらいのことは進んでする。


「今日はどんな妖怪の話を聞かせてくれるんだい?」


 ケウケに聞くと彼はアゴを撫でながら「そうだなあ」と呟いた。


「では君、豆腐小僧という妖怪は知っているかね?」

「知らないな」

「ならば教えてしんぜよう」

「ぜひ教えてほしいね」


 僕の言葉にケウケは頷き、箸を使って皿の豆腐を割った。そうして割ったものを口に運び、はふはふと食ってから「うまい!」という言葉と共に語り始める。


「豆腐小僧というのは盆にのった豆腐を運ぶ妖怪だ。編み笠を被った小僧のような姿をしている」

「まさに豆腐小僧。まんまだね」

「その通り。豆腐小僧とはその名前通りの妖怪なのだ」

「じゃあ、あんまり恐くはなさそうだね」

「いや、こいつは恐いぞ。結構恐い」

「ほお?」


 聞いた感じはあまり恐そうに聞こえないが。


 ケウケは「恐いぞお、恐いぞお」と繰り返して話を続ける。


「豆腐小僧は盆に豆腐をのせているが、その豆腐を食べるとな」

「食べると?」

「腹を壊してしまうのだ」

「なるほど、知らない小僧が出す豆腐はうかつに食べちゃいけないね」


 思っていた恐さとは違ったが、確かに食あたりは恐い。


「豆腐小僧の豆腐を食べると体にカビが映えるとも言われるな」

「体にカビが生えるのは嫌だね。その方が恐いし」

「そうだな。で、私は思うんだがね」


 彼は「持論だがね」と前置きしてから言う。


「体にカビが生えるという話は食あたりを起こすという話に繋がるんじゃないだろうか? 胃にカビが生えた。だからお腹が痛くなったんじゃないか、というように」

「なるほど。カビとお腹の痛み、繋がっているようにも思える」

「古い食べ物にカビが生えたりすることはあるが、それが人間の体の中でも起こるかもしれない。豆腐小僧を作った人はそういうことを考えたのかもしれない」

「スイカの種を食べると胃の中でスイカが育つっていう迷信みたいに?」

「そうだ。迷信、ありえない話だが、ありえると思う人も居る。そういう迷信から生まれた妖怪が豆腐小僧なのかもしれない」

「この話から得られる教訓は何だい?」

「教訓? そんなものは考えていなかったが、しいてあげるなら、食あたりには気をつけよう。というところかな」


 なるほど、と思いながら。


 僕は今日食べた豆腐が賞味期限ギリギリであることは黙っておくことにした。

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