第6話 フェルノの焦り

シェルと会う約束をしたことが嬉しくて、いつもより素早く公務を終わらせた。


これで昨日よりも早くシェルの元につける、と思ったのに生徒会長である隣国の王子、エイデン先輩に引き止められてしまった。王太子であり、学年首席の俺は、生徒会に入ることがほとんど決まっているため、生徒会の手伝いをさせられることが多い。



くそっ。今日に限って時間のかかる資料整理を任せやがって。



俺が王太子を務めるこのティアロスト王国は精霊に愛された国であり、他国より魔法が得意なものが多い。

そんな国の王族なので魔力はとても多く、魔法も得意だ。嫌という程。


その魔法を生かし、イラつきを押えながら風のように駆け抜ける。

シェルの部屋の上の屋根で一度髪を整えてから、バルコニーに飛び降りた。


そこに居たのは、すやすやと眠る天使だった。


見とれてしまい、数秒そこから動けなかった。

もっと近くで見たいと思い、シェルとは約束しているんだと心の中でアデルに言い訳をし、中に静かに入っていった。アデルがダメだと、怒る姿が目に浮かぶが俺の心の中の欲望が彼を制止させた。


ベッドの近くに腰掛け、寝顔を見つめる。

寝息を聞き、シェルの存在を感じる。幸せを噛み締めた。


時間が経つのも忘れ、天使のような寝顔を見つめていると、シェルは目をゆっくりと開けた。


すると大きな目を零れそうなほど見開かれた。


申し訳なさそうに一生懸命謝っているがその姿が小動物みたいで愛おしい。


愛おしさに浸っていたが次の瞬間、一瞬でそんな明るい気持ちは消え去った。


『日記を読んでいたんですよ。』



思わず言葉を遮ってしまった。


日記を読んだと言うことは、俺が恐ろしいということを思い出してしまったかもしれない。

思い出していたらどうしよう。再び避けられる生活に戻ってしまうのか、そんなの耐えられない。


色んな思考が脳を駆け回る。


俺の目には戸惑いの色を浮かべたシェルが映る。

そこで自分のことしか考えていないことに気づき、驚かしてしまったことに謝罪する。


すると思っていなかった返事が返ってきた。全ては読んでいなくて、俺と仲良かった時を読んだようだ。


そこで一度安心する。

しかも俺と仲良かった頃なら俺への印象もいいかもしれない。

でもきっと続きを読むだろう、俺を怖がるように戻ってしまうのも時間の問題だ。

どうしようか、予定より早く手を打つ必要がありそうだ。


そんなことを考えていた束の間、リィの話が出た。

さっきは不安な気持ちでいっぱいだったのに、すぐに醜い嫉妬心に入れ替わる。

こんなに俺の気持ちを振り回せるのはシェルだけだ。

でも今は嫉妬なんてできる立場じゃない。



俺とのピクニックの夢を見たと言うので、機嫌を治してかつての話を始める。


この時にシェル呼びを許してもらった。前も別に禁止されていた訳ではないが自然と呼べなくなっていたから再び呼べて、距離が縮まったようで嬉しい。

彼にもフェルノと呼ぶように言えたし、進歩はあった。

本当は小さい頃以外は愛称で呼ぶことは無かったが"昔"であることに間違いは無いので一応嘘では無い。


俺は幸せな記憶を思い出して、気分も落ち着いていった。


◇◆◇

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