第4話 覚悟

「当たりか。」

「へぇ……。」


ほぼ同時に発砲した両者はお互いに傷を負う。

瞬時に退き、様子をうかがうレヴに対し、男は堂々と家の中から出てきた。


「良い腕だ、名もなきゴミ漁りよ。」


そう呟くとその手にマシンガンを出現させる。


「隠れても無駄だ。私にはお前の位置が分かっている。」


そう喋りながら、男はレヴが潜んでいる場所へ銃口を向けた。

だが、レヴは身動き一つしない。

それを確認し、男は苦笑した。


「随分と逃げ足が速いウサギだな。何もないところで喋っている私が滑———」


発射された弾丸と共にレヴは背をなるべく低くしながら男に向かっていった。

弾丸の処理に迫ってくるレヴを視認できなかった男は、突如感じる腕の痛みに顔をしかめる。


あわててレヴのことを蹴り飛ばし、男は一歩引く。

腹部に鈍い痛みを負ったレヴも同じように距離を取った。だが、その手には拳銃がいまだに握られている。


「なるほど私の感は正常に働いていたようだな。あの状況で身じろぎ一つしないとは。ゴミ漁りのガキってのはみんなこうなのかね。」

「知らん。……だが、今俺はいつでもお前を殺せることを念頭に置いてしゃべれよ。」


腕を広げる男に対し、レヴは片手に拳銃を構えている。

誰が見てもどちらが有利なのかはわかる状況だが、男の眼に焦りはない。


「その年で人を殺したことがあるのか?どう見ても私には覚悟が足りないように見えるが……。先ほどの攻撃は良い、衝動に任せて撃ったからな。だが、膠着状態になると違う、君には俺を殺せないさ。」


喋りながら一歩一歩男はレヴに近づいていく。

だが、レヴは撃たない。


「私は自警団の人間だ。子供とはいえ地区の治安を悪くする者に容赦をする気はない。」


男はゆっくりと懐から銃を取り出した。

そして一歩を踏み出す。


直後レヴが頭を下げた、それを知覚するよりも早く男は地面に顔をぶつける。

銃を持った手では防御姿勢を取れない、そしてレヴの頭の上を弾丸が通り抜けて倒れた男の体に直撃した。


遠くにいる狙撃手が慌てるのを望遠レンズで確認しながら男から新たな銃と弾丸、電子機器と金を剥ぎ取る。


少し手を合わせると黒いマントを被り、レヴは闇夜に姿を消した。


狙撃手が完全にこちらを見失ったことを確認するとレヴはたまりにたまっていたため息を大きく吐き出した。


迂闊だった。まさか自警団が罠を張っているとは思わなかったのだ。

左肩を負傷し、右手だけで銃を持ったがあれもブラフだ。あの銃に弾丸は入っていなかったため、覚悟があろうがなかろうが男を殺すことはできなかった。


また、罠だと分かった時から狙撃手のことに注意していたためかろうじて気づくことができたのだ。男から隠れていた時に狙撃手の存在を探していた。

そして男、狙撃手のどちらも気が緩む瞬間に行動を開始した。しゃがむとともにあらかじめ仕込んであった足の裏の鉄板を男にぶつけて倒れさせる。

あわてて狙撃手が打つがそこに俺はおらず、今までいなかった位置で倒れている男に直撃する。これが先ほどのことの顛末である。


男以外に俺の顔をしっかりと見た人間はいないため町を歩くのも問題はないだろう。今日の収穫も思ったより大きなものを手に入れたことができたので今日は早々に切り上げる。


戻っている途中にもう一つ問題ができた、ほかのゴミ漁りが俺の拠点付近でゴミを漁っていたのだ。このままいけば俺の拠点がばれてしまうことは明白であろう。先ほどのことがあり、あまり騒ぎは起こしたくはないのだがどうすればいいのだろうか。


しばらく迷ったのちにそのゴミ漁りを殺すことに決めた。

装填してある銃弾を片手でしっかりと握って発射する。


特に誤差も生じずに青白い弾丸は静かに胸を貫く。


「すまんな。」


レヴは手を合わせ遺体に向かって礼をする。

資源を無駄にしたくはないのでゆっくりと遺体を剥ぎ取っていった。


「女性か……」


男女平等を心掛けてはいるが少し心が痛むな。この年齢の女性は子供がいる可能性が高い。つまり俺のような境遇の子供ができてしまうのだ。こういった行動は負の連鎖を呼ぶ。

しばらく黙とうをささげた後に痕跡を残さずレヴはその場から去っていった。

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