何者

 ぐちゃぐちゃの布団。

 散らばる、錠剤が入っていた包装シート。

 狭苦しい四畳半の中、僕は……


 どうしようもなく渇いている。

 あの感覚を、渇望している。


 毒々しいピンクの光はもう暗い部屋を照らしてくれない。

 それでも、僕はあのネオンサインを求めて這いずり回る。


 ああ、これじゃあまるで……幸福中毒じゃないか。


 錠剤がなくなって、動く気すら失せてしまった僕は、この無様な姿を誰にも晒すことなく怠惰を貪る。





 これじゃあ駄目だ。

 そう思って、僕が向かったのは『幸福屋』。


 ……やっぱり駄目じゃないか。


 いつもの行き止まりにやって来た僕は違和感を覚える。

 ネオンの輝きが、ない。

 不安になって店まで駆ける。

 閉まったシャッター、張り紙。


『閉店のお知らせ』


 続きを読みたくない。

 そんな思いで、家に戻ろうとした時……窓口のカウンターに置いてある何かに気付く。


 これは……手鏡?

 気になって、手に取り……そして、鏡を覗き込む。


 映り込んだ僕に、顔はなかった。

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幸福中毒 文字を打つ軟体動物 @Nantaianimal5170

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