第201話 家ではストライカーです
祝勝会が終わった後はその場で解散となった。
とはいえ、何か特別なことをするわけではない。
決勝について語ったり、それに関する記事を眺めてコロコロと表情を変えている。
「巧先輩、この記事を書いた人はなかなかやりますよ」
「本当だ。鋭いね」
香奈は巧のことを称賛している記事しか見せてこないが、きっと低評価しているものもあるのだろう。時々不快げに眉をひそめているのがその証拠だ。
前半の出来は本当にひどかった自覚はあるので、巧としても特に気にすることではなかった。
やがて、話題は明日についてのものに移り変わった。
「むふふ、楽しみですねぇ」
「ね。今日眠れないかも」
「ダメですよ、ちゃんと寝ないと。開演二時間前には並ばないといけないんですから」
「遊園地じゃないんだから」
部活が一日オフである明日は念願のお出かけデートだ。
交際を公表する以前は人目を気にしつつであったし、公表以後は選手権が迫っていたためお家デートくらいしかしていなかった。
行き先は水族館だ。お互いじっくり鑑賞したい派であることが判明したので、一日ゆっくりと回る予定である。
一応周辺の観光場所なども調べてある。もし時間が余っても問題はないだろう。
「おっ、明日は晴れるっぽいです。よかったですね巧先輩、ペンギン見れそうですよ」
「三時間は見るからね」
「えー、それは妬いちゃいます」
「香奈のことも三時間見ててあげようか?」
「見るだけで我慢できるんですか?」
「無理だね」
巧はソファーでグータラしている彼女の肩を揉んだ。
見ているだけなど生殺しもいいところだ。そういうことをしていなくても、恋人には触れていたいものである。
「あー、気持ちいいー……」
背もたれに体を預けつつ、香奈がしゃがれた声を出した。
温泉に浸かっているようなふにゃふにゃと緩み切った表情だ。
「老婆みたいな声出さないで」
「着物はいじゃうぞ」
「羅生門か。そ
「おぉ、うまい! ご褒美にお洋服をはいであげましょうっ」
「ちょ、何する——」
「——と見せてのこちょこちょです!」
「わっ⁉︎ ちょ、か、香奈っ! やめ……!」
服を脱がされるのではと警戒していた巧は、不意のくすぐりに対応できなかった。
なんとか身をよじって魔の手を離れた。
「逃しませんっ……ひゃあ⁉︎」
追ってきた香奈にフェイントをかけ、巧は逆に彼女をくすぐることに成功した。
表面の柔らかさとその奥にある弾力を感じつつ、上半身をまさぐる。
「ちょ、どこ触って……あはははは!」
「降参する?」
「ま、参りましたっ……なんて言うかっ、おりゃりゃりゃりゃ!」
「そ、それは卑怯だっ……!」
それからしばらくの間、くすぐり合いは続いた。
試合と祝勝会による疲れ、全国出場を決めた喜び、そして明日に対するワクワクが相まって彼らは一種の興奮状態になっていた。
数分後、二人は揃ってソファーにぐったりと突っ伏していた。
ふと顔を見合わせ、同時に吹き出した。
ひとしきり笑い終えると、少しだけ冷静さが戻ってきた。
「どうする? 風呂入る?」
「そうですね。入りましょう」
約束をしていたわけではないが、当然のように一緒に脱衣所に向かった。
そろそろ慣れてもいいはずなのだが、香奈が服を脱いでいるだけで巧のモノは反応してしまった。
香奈がそれを見て嬉しそうにしているため、そこまで気にしていないが。
「ふふ、父親がお疲れだっていうのにムスコさんは空気が読めませんねぇ。頭が硬いのでしょうか? あっ、頭だけ柔らかいんでしたね」
「逆に二つある香奈の頭は硬くなってるけどね」
「あっ……」
巧が乳頭に優しく触れると、香奈は嬌声を発した。
恥ずかしそうに笑い、彼女も巧の下腹部に手を伸ばしてくる。
「いい子いい子」
「ちょ、くすぐったいよ」
脱衣所でお互いに全裸になれば、当然のようにスキンシップが発生した。
風邪を引きかねないため、軽くに留めておいて風呂に入る。
「巧先輩。お疲れだと思うので、私が洗って差し上げましょう」
「ありがとう……って、頭も?」
香奈はハンドソープの容器を持ってニコニコしていた。
これまで体の洗いっこは何度もしていたが、頭は各自で洗っていた。
「はい。すべて私にお任せくだされ」
「じゃあお願いしようかな」
楽しそうに泡立てている香奈を見れば、断る理由などなかった。
「はいはーい。じゃあ、ちょっと頭下げてください」
「ん」
巧は前のめりになって頭を差し出した。
香奈の手つきは柔らかかった。洗い始めてすぐに、何か閃いたようにあっ、と小さな声を漏らした。
どうしたのだろう。そう思う暇もなく、
「えいっ」
「わぶっ⁉︎」
不意に後頭部を抱き寄せられ、巧は前につんのめった。
柔らかくも弾力のある塊に受け止められる。それが何かなど確かめるまでもなかった。
巧は咄嗟に離れようとしたが、香奈の手には力がこもったままだった。
「ちょ、か、香奈⁉︎」
「ふふ、あんまり喋らないでください。むずむずします」
巧の顔を胸に押し付けたまま、香奈は楽くすぐったそうに笑った。
(……待てよ)
巧はハッとなって動きを止めた。羞恥心さえ我慢すれば、今の状況がただの天国であることに気づいたのだ。
彼女のずっしりとした塊に顔を埋めるなど、まさに男のロマンの塊でしかない。
巧が無抵抗になると、香奈は髪の洗いを再開した。
「ふんふんふーん」
——余裕そうに鼻唄を歌いつつも、彼女の鼓動はまるで全力疾走した後のように激しく脈打っていた。頬ものぼせたように紅潮していた。
当然だろう。自分の手で彼氏の顔を胸に埋めさせているのだから。
頬をすり寄せた巧が、嬉しそうな声を上げた。
「香奈、すごいドキドキしているね」
「い、言わないでくださいっ!」
香奈は泡だらけの手で、巧の背中をペシッと叩いた。
彼は不満そうに、
「香奈が自分で押し付けたんだよ?」
「そ、そうですけど——あんっ」
すっかり尖っていた頂を舐められ、香奈は嬌声をあげた。電流のようなものがゾクゾクと全身を駆け巡った。
巧が顔を上げた。実に楽しそうに笑っている。
「可愛い声出すね」
「い、今のは驚いただけですっ!」
「ふーん?」
巧の瞳が
(やばっ、スイッチ完全に入れちゃった……!)
彼の男の象徴はすでに雄々しく猛っていた。
相変わらず童顔に似合わない凶暴なそれに、香奈の下腹部は切なくキュンキュンうずいた。
(もう触ってほしいな……)
そんな彼女の願望を察知したのか、巧の手がゆっくりと伸びてくる。クチュっと水音が浴室内に反射して響いた。
「ん……!」
香奈は体重を預けるように巧に抱きついた。
女性によっては自分からそんなはしたない音が出ているというのを不快に感じることもあるらしいが、羞恥は覚えても嫌な気分にはならなかった。
どころか、彼女はマゾ体質だ。
羞恥心はそのまま快感と
疲れていたはずだが、興奮状態が継続していたのだろう。
泡や水分を拭き取って前戯を行なった後、三回もシてしまった。
香奈が最後に口で掃除をするころにはお互い疲れ果てていたため、結局各自で体を洗った。
巧が香奈をバックハグする形で湯船に浸かった。いつもの体勢だ。
「もう、巧先輩はコートでは大体黒子役に徹するくせに、家では毎試合のようにハットトリックするんですから」
「そりゃあ、ゴールが自分から近づいてくるもんだから」
「なっ……!」
巧が暗に香奈から誘ってきたことを示唆すると、彼女は途端に顔を赤らめた。
「全く……立派なびしょハラですからね? それも」
「懐かしいね、美少女ハラスメント。基準がすっかり緩くなってるものだから忘れてたよ」
「べ、別に緩くしてませんもん。先輩が犯しまくりだから取り締まり切れないだけですぅ」
「犯しまくり?」
「……三回も出したのにまだ足りないんですか?」
「ごめんなさい」
香奈にジト目を向けられ、巧は素直に頭を下げた。
「今のは良くなかったね」
「本当ですよ……で、どうします?」
「何が?」
「別にもう一回くらいなら、いいですけど」
香奈が上目遣いでおずおずと見上げてきた。
巧の中で再び欲望がもたげた。しかし、首を振った。
「いや、今日は我慢するよ。明日に響いても良くないから」
「そうですね。よく我慢できました」
香奈がヨシヨシと巧の頭を撫でた。
楽な体勢で頭に触れるためには、正面から向き合う必要がある。
巧はくるりと自分のほうを向いた香奈の唇に口付けを落とした。
彼女はふふ、とはにかんで、自らも唇を押し当ててきた。
二人は顔を見合わせ、照れ笑いを交わした。
「上がろっか」
「そうですね」
このままだとお互いに我慢が効かなくなることをわかっていたため、彼らは大人しくお風呂から出た。
今日の夜を一緒に過ごすことは香奈の両親から許可を得ていた。
布団ではハグやキスなどの軽いスキンシップに留めた。
疲労が限界に達していた二人は、おやすみの挨拶を済ますや否やそろって夢の世界へと旅立った。
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