第144話 親友の幼馴染から褒められた
ピピっとタイマーが鳴った。
急須は
「慣れているのね」
巧の所作を見ていたのか、
「まあ、ちょいちょい家で入れるからね」
「……すごいと思うわ。高校生で一人暮らしなのに、あなたは部活も勉強も家事もしっかりとこなしている」
「そう? ありがとう」
冬美からストレートな賛辞が送られることはあまりない。
巧は意外に思いつつ、礼を述べた。
「でも、僕は留学に行った久東さんのほうがすごいと思うけどな。普通、
「将来的に英語を使った仕事をしたいから行っただけよ」
「それがすごいんだよ。僕は部活は楽しいから別として、勉強も家事も必要に迫られてるからできてるだけだし、将来に必要だからってだけで行動に移せる人ってなかなかいないと思う」
鋭い観察眼もそうだが、判断力と実行力を買われての早期昇格だったと巧は見ていた。
彼女には「この人ならなんとかしてくれる」という安心感があるのだ。
「それに、さっきの解説もめっちゃわかりやすかったし」
「ずいぶん褒めてくれるのね。豪勢なお菓子でも献上させようという魂胆かしら?」
「まさか」
巧は心外だと首を振った。
「普通に思ったことを言ってるだけだよ。お世辞じゃないから」
「……そう」
冬美が小さくつぶやき、視線を逸らした。
頬が少しだけ染まっているのを見る限り、照れているようだった。
(
まさにツンデレだなと巧は思ったが、さすがに口には出さなかった。
「なんだか腹立たしいわ、その目」
「いたっ……! 理不尽じゃない?」
脇腹をつねられ、巧は抗議の声を上げた。
冬美はフンと鼻を鳴らし、お盆を取り出した。
香奈だったなら仕返しとして背後から抱きしめてあんな場所やそんな場所を触るところだが、もちろん冬美にそんなことはしない。
恋愛感情を持ち合わせてもいなければ付き合ってもいないし、もし付き合っていたとしても不意打ちで性的な接触でもしようものなら、未来永劫子孫を残せない体にされてしまうだろう。
「なんだ巧、遅いと思ったら準備してくれてたのか。二人ともサンキュー」
「すまないな、どっかり座ってしまっていた」
キッチンとリビングが離れていたこともあり、気づかなかったのだろう。
「巧、うんこがデカすぎて流れなかったんじゃねーんだな」
「初めて来た女の子の家で開始一時間でうんちする人はなかなかいないでしょ」
「別に、そこを遠慮する必要はないと思うのだけれど」
「えっ——」
「黙りなさい」
「まだ何も言ってねえ⁉︎」
誠治は心外そうに言うが、何か下らないことを言おうとしていたのは想像に難くない。
「——誠治」
「うす」
冬美に名前を呼ばれた誠治は、何を言われたわけでもないのに顔を前に持っていき、手に持っていたせんべいを皿の上でかじった。
「なんかお前ら、熟練夫婦みたいだな」
「
「あるわ。なんだそのおしゃれな反論の仕方」
優は
「でも実際、マジで付き合ってねえの?」
「付き合っていたらあなたたちを家に入れてはいないわ」
「まあそう言われればそうだけど……」
「不満そうね」
「そりゃ、やっぱり友達の浮いた話はおもろいからな」
「それなら、私たちよりもよっぽど叩けば色々出てきそうな人がいるんじゃないかしら」
冬美が巧に視線を向けてくる。
彼女は視線を鋭くさせて、
「香奈だけじゃ飽き足らず、最近は
「人聞きが悪いな。別に強奪なんてしてないし、誰とも何もないよ」
「怪しいわね。あなたはそう言いつつサラッと恋人を作っていてもおかしくないもの」
巧はドキッとした。心当たりしかなかった。
「ないって。それにファンで言うなら誠治のほうが明らかにいっぱいいるじゃん」
「誠治のファンは所詮は顔とプレーしか見てないから問題外よ。あなたのほうは何だかもっと思い入れが強そうに感じられるわ」
「そうなの? 全然わかんないや」
自分を応援してくれている女の子たちから、特段他とは違ったものは伝わってこない。
女子同士、感じるものがあるのだろうか。
「巧は色々ありそうだけど、イジり甲斐がねえんだよな。揶揄っても『うん、好きだよ』とか普通に肯定しそうだし」
「それは容易に想像がつくわ」
「だろ?」
優と冬美がうなずき合う。誠治も大介も同意見のようだ。
巧としては少々不満が残るが、何も言わなかった。
これ以上自分のことを詮索されても困るし、せっかく優が話題を逸らそうとしてくれているのだ。大人しく乗っかっておくべきだろう。
「だから、俺らとしては誠治と久東に何かがあったほうが面白いわけよ」
「ご期待には添えそうにないわね」
冬美は表情を変えずにそう言った。
(これはツンデレなのか、それとも本当に誠治を恋愛対象として見ていないのか、どっちなんだろう?)
冬美の表情を観察するが、巧には判断がつかなかった。
「そういうあなたたちはどうなのかしら?」
冬美が優と大介に話を振った。
「なんもねえって」
「うむ、特にないな」
「本当かしら? 昨日、百瀬君とあかりが仲良さそうに歩いてるところを見た人がいるそうだけど」
「べ、別にあいつとは何もねえよ。たまたま会っただけで」
優は見るからに動揺していた。
冬美に追撃する気はなかったようだ。
「ふーん? まあいいけれど……意外とお似合いだと思うわよ」
「お、おう」
優は平静を装っているが、あからさまに嬉しそうだった。
(もしかしてちょっと進展したのかな?)
もし優とあかりがくっついたなら、一回ダブルデートなんてものをしてみてもいいかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます