先輩に退部を命じられて絶望していた僕を励ましてくれたのは、アイドル級美少女の後輩マネージャーだった 〜成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになったんだけど〜
第37話 クールな先輩マネージャーからのお誘い
第37話 クールな先輩マネージャーからのお誘い
「びっくりしたよ、まさかお互いに最寄じゃないところで会うとは」
「ですね。思わず二度見しちゃいました」
「
「まさか。僕後輩力高いので、そんな目で先輩を見たりはしませんよ」
「ふふ、とうとう自分で言うようになったね。日頃の教育が実を結んで嬉しいよ」
「おかげさまで」
巧と玲子はハハハ、と笑い合った。
「日用品の買い出しかい?」
「はい」
「大変だな」
「先輩もですよね?」
巧は玲子の持っているカゴに目を向けた。
キッチン用品がいくつも入っている。
「私は一人暮らしはしてないからな。
「でも、妹さんとかいらっしゃるのでしょう? そのお世話とかを考えたら、一人暮らしより大変そうな気もしますけど」
「はは、そうでもないよ。幸い、妹も弟もいい子に育ってくれているからね」
「いいお手本が上にいるからじゃないですか?」
「おっ、ヨシヨシしてほしいかい?」
玲子が手をわきわきとさせた。
巧は口元を緩めて首を振った。
「遠慮しておきます」
「それは残念だ」
「あんまり後輩を揶揄っちゃダメですよ」
「そういう君こそ、最近はよく香奈ちゃんを揶揄っているじゃないか」
「よくってほどではないと思いますけど」
「なるほど。君はサドっ気があるようだ」
玲子がくつくつ笑う。
「そんなにですか?」
巧としては、二人きりのときはともかく、みんなの前ではそこまで香奈をイジっているつもりはないのだが、
「そんなにだよ。見てて微笑ましいけどね」
「ちょっと恥ずかしいですね、それは」
「ふふ……そういえば、今のところは香奈ちゃんは大丈夫そうかい?」
玲子が表情と話題を変えた。
武岡とのいざこざについてだろう。
「はい。というより、一区切りはついたかもしれません」
「どういうことだ?」
「昨日の朝、武岡先輩が謝罪してきたんですよ」
「何……?」
目を見開く玲子に、一部始終を話して聞かせた。
「……なるほど。喜ばしいことではあるが、少し不自然な気もするな。何かきっかけでもあったんだろうか?」
「かもしれませんね。今までの彼とはかなり雰囲気が違いましたから。どちらかというと、僕が入部したころに似ていたかもしれません」
巧が入部したころ——一年と四ヶ月ほど前——は、武岡も最近ほど荒ぶってはいなかった。
もしそうだったなら、キャプテンに選ばれることはまずなかっただろう。
「そうか……あのころはあいつもまだマシだったからな」
「入部したてのころはどうだったんですか?」
「武岡がか? そうだな……元から横柄で短気なところはあったが、最近や如月君たちが入部したときに比べれば、まだ全然マシだったな」
「スレちゃった理由とかってあるんですか?」
「一応、わりと大きいのがな」
玲子が少し遠い目をした。
「武岡には中学のころから付き合っている彼女がいたんだが、その彼女はなかなか昇格できない武岡に愛想を尽かして、すぐに一軍入りした
「西宮……
「そうだ」
現在の
「彼氏が三軍とか恥ずかしいし、真君のほうが格好いい……それが彼女の言い分だったそうだ」
「それは……なかなかキツイですね」
「あぁ、そこから徐々にあいつはグレていって、今は来るところまで来てしまったという感じだな。まあ、そんな過去があるからといって、あいつのやってきたことを正当化する気はないが」
「そうですね。ただ、武岡先輩の悪い噂が色々立ち始めたのって、わりと最近じゃないですか?」
特にここ二ヶ月ほどのことだ。
「そうだな……」
玲子の歯切れが悪くなる。
「
「いや……これは私の憶測でしかないし、武岡が悪いことに変わりはないのだが、もしかしたらそれは香奈ちゃんが要因かもしれないな」
「
「覚えているか? 武岡は、最初から香奈ちゃんにアプローチをかけていただろう」
「あー、たしかに」
記憶を掘り返してみれば、新入生の中で香奈にだけよく話しかけていた気もする。
「だが、あの子は全くなびかなかった……あぁ、ダジャレじゃないぞ」
「わかってますよ」
巧は口元を緩めた。
(意識せず話していると、結構『かな』って出てくるんだよね)
「昇格できなかったことが理由でフラれた武岡にとって、異例昇格を果たすほど優秀だったあの子に見向きもされなかったのは、プライドが傷ついたんじゃないか。それに加えて、香奈ちゃんは武岡とはあまり肌の合わない選手に懐いてしまったしな」
玲子がニヤリと笑った。
「……もしかして僕のことですか?」
「もしかしなくても、香奈ちゃんが懐いている選手など君しかいないだろう」
「それは、まあ」
巧は曖昧にうなずいた。
自分だけ特別扱いされてる、などと思い上がりはしないが、一番気を許してくれているのは事実だ。
「ただ舐められてるだけかもしれないですけどね」
「そういう側面もあるのかもしれないが、あの子はあまりそういうタイプではないような気がするな」
「そうですね」
「だろう? なあ、如月君」
「はい?」
玲子の真剣な眼差しが巧を射抜く。
「昨日から散々聞かれて辟易しているとは思うが、本当に付き合っていないのかい?」
「はい。真っ白です」
「……そうか」
探るように巧の顔を
「あっ、今の真っ白というのは白雪とかけていたのか?」
「いえ、全く。よく気づきましたね」
「ふふ、ヨシヨシしてくれてもいいんだよ」
「最近ヨシヨシにハマってるんですか?」
「小五の妹がしょっちゅうせがんでくるんだ」
「何ですかそれ。めちゃくちゃ可愛いじゃないですか」
「あげないよ」
「いりません……とは言えませんね」
「おや、如月君はロリコンだったのか」
「やめてください、風評被害です」
玲子に釘を刺してから、巧は壁にかかっていた時計にちらりと目を向けた。
「はは、すまないな……ところで如月君、この後は空いているかい? 今日は私一人だから外食するつもりなんだが、君も一緒に食べないか?」
「ありがたいお誘いですけど、すみません。この後は予定が入ってしまってて」
「そうか……二軍昇格のお祝いに奢ってあげようとでも思ったんだが、それなら仕方ないな」
「うわ、本当ですか? すみません」
(せっかくの厚意を
巧は罪悪感を覚え、もう一度頭を下げた。
「気にするな。私も今パッと思いついただけだ」
玲子が笑って手をひらひらさせた。その手を顎に持っていき、やや真剣な表情になる。
「だが、我ながらなかなか良いアイデアだな……なら、今度また違う機会はどうだろう?」
「そんな、悪いですよ」
「私と二人きりは嫌か?」
「えっ? いえ、それは全く」
巧がブンブン首を横に振ると、玲子は「そうか」と安堵の表情を浮かべた。
「ただ、奢ってもらうのは気が引けるというか」
「心配するな。奢るなんて言うのはこれっきりだし、後輩に奢ってあげるというのは少し憧れていたんだ」
玲子がウインクをした。
クールな人がやると破壊力すごいなぁ、と巧は感心してしまった。
改めて今度食事に行く約束を交わし、巧は玲子と別れた。
別れ際、「高校生というのは男女が食事をするだけで色々うるさいから、この話は秘密にしておいてくれないか?」と頼まれた。
香奈と登下校しているだけで色々言われていた巧は、特に不思議に思うこともなく了承した。
自宅に帰り、お風呂から上がったところで香奈が巧の家にやってきた。
開口一番、彼女は元気に言った。
「さあ、白雪家に行きましょう!」
と。
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